第五章(4) 兄弟の会話 By 学
僕達は、僕の家にお兄さんが来てから、飲食店に来ていた。
いつもだったら大宮家か中宮家で行う話し合いは、今日妻たちのお話会は行われないことよりいつも会社の取引をする飲食店で行うことになったのだ。
「兄さん、お元気そうで何よりです」
「学もな」
僕達は普通に、兄弟の会話のように会話を始めた。
「・・・兄さん、最近、龍也くんに色々と手伝って頂いています。すみません」
「学、それは、僕がいつも良いと言っているだろう?」
「それでも、お伝えしないわけにはいかず・・・」
「それを言うなら、こちらもだ。いつも、龍也の面倒を見てくれてありがとう」
「いえいえ、僕がお役に立てているのなら、何よりですけど、大したことはしていません」
「・・・・それでも、龍也があのように育ったのも、学のお陰だ」
「兄さん、何かありましたか?」
兄さんが間を持ってから話し出すことが珍しくて聞いた。
すると、兄さんは話してくれた。
昨日あったという、出来事を。
「正直、妻から聞いても実感が無かったのに、今朝生で見ると驚くものがある。あれでは、高校生とは言い難い」
「そんなに・・・・」
「幼児退行だな、と思っている。私達が子供の育て方を間違えたようだ、残念ながら」
「兄さん・・・」
「妻がこれからは家に居てくれるようだ。学に頼ることはないかもしれないが・・・」
「兄さん、僕は頼まれてないです」
「?」
「僕が龍也くんを頼まれていたのは、龍也くんが小学生の頃です。中学生の時も高校生の今も、龍也くんは自分で来てます。だから、龍也くんには、いつでも来ていいよと伝えて下さい」
龍也くんが、お友達と来るようになったのは本当に最近だ。だけど、いつもいつも、僕らは誘っていない。
龍也くんが行きたい時に来てくれている。
だから、頼むことはない、という言葉はふさわしくないと思った。
「そうか。分かった、伝えておこう」
伝えてくれると聞いて安心した。何より、龍也くんの暖かい場所が増えるのは嬉しかった。
龍也くんが求めていた物が、やっと得ることができるというのは、喜ばしかった。
個室内の電話がなり、兄さんが電話に出た。
「一つ、学に聞きたい」
「なんですか?」
「君の娘は今、何をしている。学校も安全になったし、この間の件はまだお迎えではないのであろう?」
「部屋におります」
「彼女、こっちで生きてくってことでいいのかな?」
「ええ、帰しません」
「なら、少し話を進めよう。進めれば、彼女も学校に通うようになるだろう」
「・・・・」
コンコン
「どうぞ、お入り下さい」
「失礼します」
「え・・・」
部屋に入って来たのは、岸家当主だった。




