第五章(3) あいつの気持ち By 龍也
次の日、朝起きると両親がいて、旅行の話をされた。
急に旅行なんて、何事かと思ったけど、始めての家族旅行の提案が嬉しくて、行く!!!と、高校生らしからぬ返事をしてしまった。
「龍也」
「何?」
昼ごはんを一緒に食べていると、湊が声をかけてきた。
「体調悪い?」
「何で?」
「・・・・今日、龍也、変だよ」
「そう?どこらへんが?」
「口調、態度。僕が病気で弱った時以外見たこと無いやつで、朝からいるよ、龍也」
「そ、そう?」
「うん、ほんと、どうした?昨日、何かあった?」
「あ・・・」
僕は昨日あった母の話と旅行の話をした。
「・・・・で、こうなってるわけか」
「うーん、これくらいしか、昨日起こったはないよ」
「幼児退行してるね、龍也らしくない。朝から女子生徒の視線が痛い」
「そう?気にならないな」
「・・・・中宮当主の所に行ってみたら?笑われるよ」
「おじさんは僕にいつも笑ってくれる」
「・・・・龍也、龍也はこの年齢から何かを我慢してたんだね」
「え?」
湊がなんのことを言っているのかわからなかった。
「だって、両親からの何かを期待して、そして、諦めてたんでしょ?今の龍也、僕が見たこと無い、太陽みたいな笑顔してるんだよ?」
太陽みたいな笑顔・・・・
僕が、湊に言われる程変わっているとしたら、それは湊が言った通りの理由でこうなったんだろう。
僕が、太陽みたいな笑顔をする日は全く想像出来なかった。
「なあ、笑顔といえば、あいつの笑顔、見たことあるか?」
「あ、口調戻った。あるよ!めっちゃ可愛かった」
「あいつ、何で学校来ないんだろうな?」
「何でって、怖いんじゃない?」
「怖くても、来るのが中宮の娘としては・・・・」
あ、そうだ。
確かに、中宮の娘としては学校に来るべきだ。
だけど、もしかしたらあいつは、『中宮の娘』ではないのかもしれない。
「龍也、どうかした?」
「あいつは、振り向いてほしいんだな・・・」
「誰に?何の話?」
「中宮の令嬢。前に、同族嫌悪と言ったけど、あのときは、なんとなくだったんだ。けど、今、わかった。僕が両親と遊びたかったように、あいつもきっと何か思うことがあるんだ」
「そ、それって・・・」
「多分、あいつを虐待してた家族に、だろうな。きっと、帰りたい理由があるんだ。あのときも、陽子さんは泣いてた」
「・・・・・」
家族に買って貰った服を探す姿。
その人を見つけて湊を放って追いかけたこと。
それらから、あいつがその人の所に帰りたいんだと考えられた。
「・・・龍也、龍也は、どう思う?」
「やっぱり、似てるな〜と」
「龍也は、波ちゃんのこと、好き?」
僕が、あいつを、好き?
何を聞かれているのか、始めはわからなかった。
質問を理解して、返事をしようとした時、チャイムが鳴った。湊は、僕を置いて、走るように教室に戻っていった。
教室も同じなのに、何をそんなに早く帰る必要があるのか、わからなかった。
その後、湊と話すことは出来なかった。




