第五章(2) 子供の時間を奪ってしまった・・・ By香織
龍也が泣きつかれて寝てしまって、私は自分で、龍也を龍也の部屋へと運んだ。
部屋に入ると、そこは何もない部屋だった。
学校の教科書、経営の本、服。それしか物が無かった。
ベットに寝かせると、離れないでって言っているように、私の手を掴んで離してくれなかった。
寝ている息子を、見ながら、私は後悔で一杯だった。
私は息子の事を何も知らない。
部屋に入ったのも今日が始めてだった。
あの子はもう、17年も生きているのに。
今日の息子の口調は、まるで小学生だった。
いつもの、普段の、私の知っている息子じゃなかった。
コンコン
「香織、帰ったよ」
「・・・おかえりなさい」
「珍しいな。香織が家にいるなんて」
「・・・うん。話があるの」
「わかったよ。部屋に行こう」
私は夫にリビングでお茶を飲みながら今日の話を話した。
「勝手に仕事のこと、決めてごめんなさい」
「いいんだよ、そんなこと。だけど、そっか。確かに僕も龍也と遊んだ覚えはないね」
「私、どうしたらいいかしら?私、あの子の大事な時間を、奪ってしまった・・・・!」
これから龍也は、半年後くらいには婚約者を探さなきゃいけない。結婚して、子供を育てなきゃいけない。家を継がないといけない。
子供の時間を、私は息子にあげられなかった。
「僕も同じだよ、香織。今からでは遅いかもしれないけれど、少しずつ、取り戻そう?まだ時間はある」
その言葉に励まされて、私は夫に沢山、考えたことを話した。
龍也のしたいことをさせてあげたい。
その思いは夫も同じだった。
来週家族旅行に行くことを決めた。
「・・・・明日、兄弟二人で話し合いを開くことになった」
「そうなのね」
「香織はどうしたい?陽子さんとお茶でもするか?」
「・・・・いいえ、明日は、龍也と過ごすわ」
「そうか、わかった」
本当は、陽子に相談したい。
だけど、そんなことも言ってられない。陽子は陽子で自分の娘のことで苦労してると思うから。
私は自分で自分の息子に向き合いたい。
その思いを尊重してくれた夫の優しさには、本当に感謝しかない。
先ずは明日、龍也にどう話しかけよう。
こんなに息子の事を考えていることが始めてで、やっぱり母親失格だ、と思いながら夫のぬくもりの中で寝た。




