第四章(10) 波ちゃんの秘密② By 湊
「彼女は、波は、この世界の人間じゃない」
「おじさん、冗談良くないよ?そんな事・・・・」
僕も、冗談であって欲しいと思った。
竹取物語のかぐや姫のようなことは、現実には起きないって。
でも、俯く学さんと、目が潤んでいる奥さんと女中さんを見ると、冗談じゃないことは嫌でもわかる。
「嘘、だよな?」
「・・・・嘘、だったら、良かったんだけどね」
その言葉には、悲しさ、という感情しか、のせていなかった。
「な、なんで?そもそも、そんな・・・」
「詳しいことは分からない。本人に、国名を聞いたけど、世界地図に、無いということしかわからなかった」
世界地図に無い国から来た、少女。
それを理解するのに、時間が必要で、部屋が沈黙していた時、コンコン、とノックをする音がした。
「はい。今行きますよ」
そう言ってドアの外に行った女中さん。
ドア越しに声が聞こえてきた。
「私の服・・・・」
「お洋服でしたら、お部屋の棚の中に沢山・・・・」
「無いの」
「へ?」
「あの人に買って貰った服が」
「・・・・探しましょう」
その声を聞いて、奥様は泣き出した。
「・・・・聞こえたと思いますが、彼女は、家族に会いたいらしいのです。家族の所に帰るのを楽しみにしてます」
「そ、そんな・・・」
虐待されていたとしても?
「私達は、彼女がここで養子として暮らすかわりに、彼女の国を探す約束をしています」
「何で、そんな約束を・・・」
「安全な場所で保護してあげたかったんです。外にいれば、彼女は家族に捕まってしまうかもしれない。でも、警察にも預けられない。僕達以外、彼女の事を助けられないと、そう、思いました」
その判断が、正しいなんて言えるものではないと思う。
だけど、だけど、それ以外に方法はない。
「これからも、龍也くんと、岸、様には、波ちゃんに関わって欲しい、の。彼女が帰りたくないと、ここにいたいと、そう、思ってもらえるように。私達では、ダメだったからっ・・・・」
そう言うと、ダムが結界したように、奥様は声を上げて泣き出してしまったので、今日は、お開きになった。
帰り道、僕らが無言で歩いていると、ラインが来た。
『僕達は、彼女に彼女の国を探すと約束したけど、実際は探してすらいない。彼女を帰すつもりもない。ただ、彼女をここで守るには、それくらいの嘘をつかないといけなかった』
「・・・龍也も、始めて聞いたの?」
「うん」
「どう、思ってる?」
「おじさんの、判断は間違ってないと思う」
「そうじゃない。波ちゃんのこと」
「は?あいつは・・・・」
「?」
「あいつは、僕に似てる。同族嫌悪だ」
「似てる?」
「とりあえず、苦手だ。あいつを好きな、お前が支えてやれ」
「・・・・」
自信、ないな・・・・
そんなこと、言えなかった。
同族嫌悪って言う割に波ちゃんを心配してる、そんな龍也になんて。




