第四章(9) 波ちゃんの秘密① By 湊
僕らが中宮家を訪ねると、客間に通され、そしていつもの3人が来た。
いつもは、何か話し出すのに、今日は、誰も話さなかった。
「・・・僕、おじさんに、教えてほしいことがある」
「何?」
龍也が話し始めた。
「あいつと会ったの、この家の前って言ってたよね?」
「え?」
僕は驚く。
施設に居た子供が勝手に施設を出ることは出来無いと思う。
それも、波ちゃんみたいな、大人しい子が。
「不思議だったんだ。何で、女を養子にとったのか」
「・・・・」
「教えて欲しい。あいつの過去。過去に何があって、どこの施設に居て、何であいつを引きとったのか」
三人は目を合わせて、考え込んでしまった。
「僕も、知りたいです」
僕の言葉に、三人の目は揺らぐ。
「僕、この間、任せて下さいって、言いました。でも、波ちゃんを、守り切れなくて、それで・・・」
「岸様、その事は気にしないで欲しい」
当主・学さんが話しだした。
「あれは、あの子の問題だ。私達でも、止められない」
「え?」
「昨日、本人に聞いたんだ。彼女は、過去の家族に会えたらしい」
「過去の家族?」
「家族、という言葉が、正しいのか、私には分からない」
虐待をしていた親のことだとしたら、家族とは言い難いのかもしれない。
「彼女の、傷は、知っているかな?」
「は、はい。昨日、僕達、見えちゃって・・・・」
「あれは、僕達が彼女に出会ったときもすでにあった傷なんだ」
「やっぱり、波ちゃんは虐待を受けていたんですか?」
「・・・・僕たちはそう思っている」
「通報!」
「やめて欲しい・・・・」
虐待を疑われた時、通報するのが普通だ。それが今ではなく昔の家族からのものだとしても、昔の家族が罪を償わなければならない。なのに、学さんは、龍也が通報しようとしたのを止めた。
「おじさん、何で止めるの?」
「・・・・本来なら、止めてはいけない。けど、これは、たとえ、警察でも、犯人は捕まえられない」
「何で?あいつの両親死んでるとか?」
「・・・・・」
また、三人が目を合わせる。
「お、教えて下さい。僕たちは、もう、あの傷を見てしまった。彼女のことを知ってしまった。だから・・・・」
「そうだな。岸様には、お伝えしておくべきかもしれない」
「へ?」
「そうね。波ちゃんを、大事にしてくれる人には、ちゃんと、伝えておくべきね」
「・・・・」
それはまるで、僕が波ちゃんの・・・・・
「彼女は、波は、この世界の人間じゃない」
そのセリフは、竹取物語の中でしか、聞いたことがなかった。
僕は、なんで、あんなに普通に竹取物語を読めていたのだろう?
僕は、その言葉の大きさを、怖さを、今、身に沁みて感じていた。




