第四章(4) ゆうえんち
「お嬢様、お客様です」
「・・・お客様?」
私のところには誰も来ないはずなのですが・・・・。
「はい。岸様がお嬢様とお会いになりたいと、我が家にいらしておられます」
岸様・・・・・。
私と、身分が違いすぎる人。
私が、身分をわきまえないといけない人。
「私は・・・」
「旦那様がお顔をお見せになるように、と仰っております」
それなら、私は従わないといけない。
たとえ、身分をわきまえなさい、と言われたとしても。
必ずあの人のところへ帰るとしても。
「わかりました。入ってください」
「はい。急いで準備させて頂きます」
スタスタと入ってきた安在さんは、私にそう言って、本当に素早く着替えや髪のセットをしてくれて、私は客間へと連れて行かれた。安在さんがノックをして、私の手を引きながら中に入った。
「波ちゃん、体調は大丈夫かい?」
「は、はい」
学さんと陽子さんは安心したのか、笑顔を私に向けてくれた。そして、ふたりとも向き合って頷いて、
「では、岸様、娘をよろしくお願いします」
と言った。
「波ちゃん!今から、出掛けよ!」
そう言われたときにはすでに私は手を捕まえて、客間を出て、玄関への廊下を走っていた。
私は、訳もわからず車に乗った。
「ごめんね。急に走って。しんどくない?」
「は、はい」
「ゆっくりしていいよ。ここから10分くらい、車の中だからさ」
「は、はい」
岸様にそう言われたものの、ゆっくりなど、出来るわけもない。
隣に岸様がいるというのは、どうしても落ち着かない。
私は、身分をわきまえなければいけない。
そう、自分に言い聞かせた。
「ねえ、波ちゃん。やっぱり体調悪い?」
「え?」
「だって、ずっと手、震えてるよ?」
そう言われて、やっと気が付きました。
「あ、いえ、大丈夫です」
「そう?無理しちゃ、ダメだよ。僕が中宮家の御当主様に怒られちゃうから」
「どうして、ですか?」
身をわきまえないと、そう、思うけれど、どうしても気になって、聞いてしまいました。
「僕が、今日、急に外出する許可を取りに行ったから、かな」
「そ、そうなんですか」
「うん。だから、無理は絶対しないでね!」
「は、はい」
私がとりあえずそういった時、運転手の人が振り返った。
「お坊ちゃま、着きました」
「ありがとう。電話で呼ぶから、それまでは、家に戻ってていいよ」
「わかりました」
「さ、降りるよ!」
岸様は運転手の人に指示をすると、私の手を掴んで車から降りた。
車から降りると、そこは人が多くいる所だった。
「あ、あの、ここは・・・・」
「ここ?ここは遊園地だよ!」
「ゆうえんち?」
「そう!楽しい思い出作るならここだよ!さ、行こ!」
「あ、ちょっとっ・・・・」
岸様は、私の手を握って、真っ直ぐ入口の方向へ走っていった。




