第三章(7) 胸騒ぎ By 龍也
次の日も湊はあいつと帰ろうと思っているようで、僕は湊に引っ張られながら教室を出て、駐車場に来たがあいつは見つからなかった。おじさんの家の運転手の人に聞くと まだ来ていないという。湊はあいつが来るのを待つと言うから仕方なくしばらく待ったけど、一時間経っても全く出て来る動きが無くて、今日は二人で帰ることにした。
「僕、波ちゃんが心配だよ〜。何か問題でもあったのかな・・・」
湊はあいつが心配らしくて、そんなことを言い出した。
「昨日の件もあったしな・・・まあただのの居残りじゃね?」
「うちの学校で居残り・・・とか思いたくないんだけどな〜」
そんなことを話していたら、湊の家に着いたので僕は湊と別れた。家に着いて、勉強を始めたが一時間経たずに集中が切れた。よくわからないが胸騒ぎがした。こういう時、いつもおじさんに電話をかけていたのを思い出して、おじさんに電話をかけることにした。
この時、まさか大変なことが起こっているだなんて考えもしなかった。
電話をかけるとおじさんはすぐに出た。
『龍也くん!波知ってる?』
「えっと、何言ってるんですか?」
急に早口で言われて僕はわからなかった。
『いや、波ちゃんがまだ帰ってきてなくて。こんな時間まで学校ある事って、過去にあったかなって思って・・・』
「いや、僕たちは無いです。二組とかは、僕たち、普段関わらないので、分からないんですけど・・・」
『そっか・・・』
「まず 学校に電話してみてはどうですか?」
僕の言葉に明らかに暗くなったおじさんの声が辛くて、思いついたことを言った。言ってから、そんなこともうやってるだろ、と思った。
『そうだね!とりあえず、学校に電話してみて、また電話、かけ直すよ!』
そう言われて電話は切れたが、僕は受話器を置くことができなかった。その後すぐに電話がかかってきて、見つかったのかと思ったけど、おじさんが話した言葉は想像とは全く別のもので、僕は驚いた。
『波、午後の授業、出てないみたいなんだ。でも、学校から出た形跡はないし、安西さんも知らないって言うから、どこに行ったかわからなくて・・・・』
「学校側は何も知らないんですか?」
『知らないって言ってた。ただ一応、令嬢だから必死に探してくれるって言うんだけど、波、養子だし、学校側の動きが悪くてさ』
養子だからって調べないのはおかしくないか?養子でも、一応は令嬢だろ?
『なかなか学校は、学校の敷地内しか調べてくれないんだ。だから、僕は今から探しに行こうと思ってるんだけど。よかったら、龍也くんも家に来てほしいな、なんて思ったんだ』
急なことだった。
『波のことを知ってるのは、僕と妻と安在さんの3人だから、龍也くんには留守番を頼みたいんだけど・・・。今、大丈夫かな?』
「僕は大丈夫です。すぐ行きます!」
あいつ、おじさんに迷惑ばっかり掛けやがって。
おじさんがあんな風に焦っている様子を、僕は初めて見たし、いつも穏やかなおじさんがあんなに必死にあの女を探すのを見て、少し羨ましいなと思ってしまった自分がいた。
いや、今はそんな場合じゃない。とりあえず、おじさんの大好きなあいつを連れ戻さなきゃ。
どこに行ったか知らないが僕にできることは家に行くこと。そう、自分を落ち着けて、急いで着替えて、家の人に中宮家に行くと伝えて、家を出て、必死に走った。




