第一章(2) 目が覚めました
「・・・だ・・・めないかしら?」
「はい。残念ながら」
「そう・・・。私達がもう少し早く気がついてあげるべきだったわ」
「奥様・・・」
この声は、いったい誰の声なのでしょう?
聞いたことのない声が近くでして、私は気が付きました。
これは、もしかしたら走馬灯と呼ばれるものなのではないでしょうか。あの人が私に『最期の最期までお前の走馬灯に残ってやる!』と言っておられたのに、今の私は誰か分からぬ人のことを走馬灯として見ていると思うと、少し複雑な心境です。
それにしても、誰の声なのでしょう?
そういえば私はずっと目をつぶったままでした。
目を開けても、走馬灯というものは見ることができるのでしょうか?
「奥様、目を覚まされました!」
「ええ、良かったわ」
目を開けても声は聞こえました。
しかし、目の前にあるのはつい先程まであった真っ白の世界ではなく、とてもきれいな淡い青色の天井でした。
「・・・・・・」
「目が覚めてほんとに良かったわ。あなた、丸四日も目が覚めなかったのよ」
私に声をかけてくれた人は、ふっくらとした体型で黒い髪を持ち、私の見たことのない服を着ていました。
そんなことよりも丸四日目が覚めなかったというのはどういうことなのでしょう・・・・・・
私はあの人に殺されたのではないのでしょうか?
「さあ、目が覚めたのならあなたのご家族に連絡しなければなりませんね。電話番号を教えていただけますか?」
・・・・・・でんわ?ばんごう?
私はそれらを聞いたことがありませんでした。
もちろん、何のことを指すのかも全くわかりません。
「・・・・・・」
「奥様、その前にお名前をお聞きになられたほうが良いのではないでしょうか?」
部屋のドア近くにいた女の人が、私の近くにいた女の人に話しかけ、
「ええ、そうね。あなた、お名前は?」
「ナミ・バスタ・アンサム・ユ・ロックでございます」
「・・・・・・なみ、さん?」
「はい」
先程そう申し上げたはずですが、何か不思議に思うことがあるのでしょうか?
「えっと・・・ご家族にはなんと呼ばれていたの?」
「ナミ、と」
私はなにを聞かれているのでしょう?
「そう・・・では、なみさん。とりあえずゆっくりなさって下さいね」
そう言って二人はいなくなった。
ゆっくりなんてできるはずもなかった。
広い部屋に一人というのは落ち着かず、慣れないものでした。
私はドアの前に行き、無意識のうちに正座をしていたのだった。