第三章(3) 不思議な気持ちと怪しい気配 By 龍也
湊に朝から呼ばれて、湊の家に行くと、湊と湊のご両親がいて、驚いた。簡単な挨拶をして、湊に衣装室に連れて行かれた僕は、湊に服を選ばれた。
「ごめんね!なんか朝に龍也が来るって言ったらさ、会いたいって両親が言うから・・・」
「別にいいけどな。ビビった」
湊の両親は僕が気に入ったみたいで、時々一緒に夕食を食べることもあるくらい、親しい。とはいえ、いつもは予告されてるから、こんなことは無かったので驚いた。
「今日はこの服かな〜龍也は」
「借りてる身だし、湊が僕に似合うって思ったやつ、何でもいい」
「もー。そんなこと言うから迷うんじゃん!」
「何でもいいんだよ」
「そんなこと言ってるとモテないよ!」
「構わない」
「せっかくイケメンなのに〜」
その言葉をスルーしてしていると、僕は岸家の人に服を着せられ、パーティの準備が整っていた。
湊とは両親と舞台に立たなければならないため別れた。
会場に着くと、多くの令嬢で溢れかえっていて、すぐに帰りたい衝動に駆られた。少し歩くと、おじさんを見つけてた。声をかけようとしたら、アナウンスが流れ始めたので諦めた。
ダンスの誘いはめんどくさいから、出来れば辞めたいがアイツと踊ろうと思った。そうしたらおじさんも早くここから帰れる。そう思ったのに、僕より先に舞台から降りた湊がアイツを誘っていた。
その時、前も感じた、不思議な気持ちになった。
寂しいも、悔しいも、経験し過ぎて今更何も思わないはずなのに、なんで、アイツに何かを感じているんだろうか。その感覚が気持ちわるくて、会場の隅に逃げるように移動した。
隅で中央で踊る人たちを見ても、やはり湊たちは目立っていて、ふたりとも楽しそうに完璧なダンスを踊っていた。
この気持ちの悪さは何なんだ、さっさと消えろ!
そう思ったところで消えることもなく、僕はジュースを勢いよく飲んだ。
少し落ち着いたときには、もうダンスは終わっていて、会場にはおじさんの姿も無かった。
僕も帰ろうとしたとき、声が聞こえてきた。
「なんなの、あの女。岸様に誘われたからってあんなに楽しそうに・・・」
「ホントに。どこの誰か、わかる方いらっしゃいます?」
「確か中宮家のご令嬢だったと思いますわ」
「ですが、中宮家にご子息はいなかったはずでは?」
「ええ、庶民が中宮の令嬢になってるのですわ!私と同じクラスですが、こんなこと、許せませんの!」
「それは許しがたいですわ!岸様までたぶらかして!」
「そうですわ!」
イケメンでも、僕や湊によってくるのはいつも、金目当ての女だ。わかってる。女たちの意見なんて、気にしなくていい。
疲れた・・・
もう、帰ろう。
そう思って出口の方へ向きを変えたとき、先程騒いでいた令嬢たちの中に無言で中央を睨んでいる令嬢がいた。
不思議に思って歩みを進めると、その令嬢は僕の方を振り向き、僕を見つけると駆け足で出口の方へ行ってしまった。僕の知らないところで何かが起こっているのではないか、と不安になった僕だった。




