第二章(1) なんでお前が知ってんだ? By龍也
僕は今日も使用人に体調と予定を伝えて、シェフの作るご飯を食べて車で学校まで来た。
「行ってらっしゃいませ」
・・・・・・
返事なんてしない。金があるから、僕の世話をする。金がなければみんな寄ってこない。うちは家に金があって、それで人がいる。小さい時から、お父さんから教えこまれたことだった。
「龍也、今日もそんな顔して、みんな呆れるよ?」
「湊・・・」
岸湊。大手魚介料理店運営会社社長の息子。僕の唯一の話ができる人だ。
「龍也は人気なんだから、もっと笑ってないと!」
「知るか、そんなん」
「は〜。そんなんだとモテないよ?」
「別にいい」
「僕たちは最終的に家を継ぐわけだから、家のために結婚しないといけないんだよ?」
「そんなことは知ってる」
「せっかくなら好きな子と結婚したいじゃん!!」
「勝手に言ってろ」
こんな会話はいつものことだ。
こいつの頭には、女の子のことしかない。
まあ、好きな子と結婚するためか、家についての勉強はしているようで、僕より地理や魚、魚の美味しい料理などについては詳しい。
「えー。あ、そういえば知ってる?」
「なんのことだ?」
湊が僕に知っているか、と聞いた時は僕が知らないことを前提としている時だ。そういうとき、早く話させる方がいい。
「二組に転校生が来るらしいよ?」
・・・・・・
「え、龍也、もしかして、知ってた?」
「いや、知らない。そもそも、なんで二組の話をお前が知ってるんだ?」
こういう話はしないのが通例。
他のクラスのやつとなんて、話すことないからな。
「え?僕のいとこ、二組にいるから」
「は?いとこ?」
「あれ?前にも話さなかったっけ?」
「知らない」
忘れてるだけってことも無いとは言えないけど
「ほら、俺の家の庶民向けの寿司屋があるだろ?そこの会社『岸辺家』の社長令嬢がいるんだよ。昨日電話がかかってきてな、俺に知らないかって言ってきたんだよ」
「へー」
「思い出したけど、龍也、話したとき寝てたんだ。だから、覚えてないんだろ?」
「かもな」
「しっかりしてよ・・・って、それ考えると今日起きてんの、珍しくないね?」
「そうか?」
「まあ、とりあえず、昼休み、見に行こうよ!一緒に!」
「一人で行けよ・・・」
「龍也は、僕に行くなって言ってるの?僕が一人で歩くとマジで進めなくなるの、龍也も知ってるよね?」
「・・・わかったよ。行く」
湊はこうなったら引かない。
女の子のことしか頭にないが、女の子に人気過ぎて困っているのも事実で、僕と行動しないと動くに動けないのだ。
湊と別のクラスにわざわざ行かなきゃいけない、ということに気を重くなった僕だった。