第一章(8) 私の毎日
あの日から、私のよくわからない毎日が始まりました。
安在さんに声をかけられ目を覚まし、置かれている服を着せてもらい、ダイニングに連れて行ってもらって。美味しいものを食べます。
その後、私のところに沢山人が来て、私はひらがなとカタカナというものとここのものについて学び、さらにここの言葉を話すために発音というものを学びました。
私はあの人のところに戻らなければならないのに、毎日毎日、こちらの世界の事を学ぶというのはとても理解できません。毎日学さんや陽子さんに『住んでいたところは見つかりましたか?』と聞くのですが、『いいえ』としか言われません。私が戻ることはまだできなさそうでした。
毎日毎日学さんや陽子さんに聞きすぎたので、学さんに『見つかったら必ず伝えるから、私達の娘として毎日を過ごしてほしい』と言われてしまいました。
その日から、私はあの人のいたところのことについて言わないようにしました。話すとあの人のところに戻ったときに怒られそうな気がしていたので、話さなくなって少し安心しました。
けれど、沢山学べば学ぶほど、話せるようになるほど、私はあの人のところに戻れないのではないか、と感じるようになりました。
褒められたいのはこの人からではなくあの人からで、私が住んでいたのはここではなくあの人のいるところ。
そう思いながらも、学さんや陽子さんのために少しづつでもここに慣れようとしました。
少し暖かくなってきた今日、てすと、というものを受けました。学さんと陽子さんは褒めてくださいました。まんてん、というものらしいです。
「なみちゃん、凄いわ!これならもんだいないわね!」
「そうだな。なみちゃんも話せるようになってきている。そろそろ、ランクを上げていこう。安在さん、せんせいにれんらくお願いします」
「はい」
さいきん、学さんと陽子さんは、私のことをなみちゃんとよぶようになりました。あの人には決してよばれないよばれ方でよばれるのは好きになりかけていました。
「なみさん、来週、お出かけしよう」
「・・・」
おでかけ・・・
「一緒に来てくれるかな?」
「・・・はい」
らいしゅう、とはいつでしょう?
まだ私は戻れない、ということなのでしょうか。
早く、あの人のところに戻れますように。
そう願って、一日を終えるのがさいきんのしゅうかんになっていました。