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第9話ー兵器少女に初めて触れた者ー


 非殺傷性投擲弾、スタングレネード。

 強烈な音と光で標的の気絶や失神を狙うものであるが、比較的近い距離で受けたヒナキは少々目と耳に難が残っており、距離が離れていたアリアはその影響をほとんど受けていなかった。

 問題なく動くことができたアリアはスタングレネードの起爆と共に逃走した兵士、アッシュにライフル弾を浴びせようとしたが外してしまっていた。


 ヒナキが動けないでいる今あの兵士を追うのは返り討ちにあるリスクがあるため銃を下ろし、目覚めたネロ=ステイシスの方に視線を移す。


「ステイシス、あの男は追いませんか?」


至近距離で強烈な閃光と音を受けたというのに、平気な表情をしている彼女に声をかけた。


「……どうしてぇ?」


「どうしてって……」


「あんなのより厄介そうな匂いのするのがここにいるわよぉ?」


 一糸まとわぬ姿で床に腰をついている男に歩いて近づき腰を曲げずい、と顔を寄せる。

 ヒナキはようやく視力が回復し、目を開けたところだ。

 そこには淀んだ目を大きく見開き、コチラを睨めつけている少女の顔があった。


「……おお。えらい荒んだ目してんな」


「ステイシス! その人は味方ですッ」


「だからぁ?」


 アリアの叫びも虚しく、少女はヒナキの首を引っ掴んだ。

 アリアは目を背けてしまう。

 その少女に触れられた生物は有無を言わさずドミネーター因子の侵食を受けて黒い鉱石のような塊になってしまうのだから……。


「……なんだよ。こっちの世界の挨拶か?」


「はぁ……?」


「じゃあ俺からも返すよ、ほれ」


 目を見開いたまま呆然としているステイシスのその首に対し、右手を伸ばして同じように掴んだ。

 少しでも力を強めれば折れてしまいそうなほど細く柔らかな首だった。


「はじめまして……じゃないんだけどな、ほんとは」


「……? ……??」


 少女の思考がしばらく停止していた。

 そして自分の手に伝わる眼の前の男の体温の温かみと、自分の首に感じるそれを自覚した瞬間、大げさなまでに後方へ飛び退いた。

 まるで猫を思わせる瞬発力だった。

 その後、男をまっすぐ見ながら自分の右手を開いたり閉じたりしたり自分の首をゆっくりとさすった。


 何が起こったかわからない上にそもそも人肌にまともに触れられたのが初めてのため混乱している様子だった。


「す、ステイシス……?」


「……うるさい」


 あまりにも動揺している様子だったため、アリアは声をかけたが一蹴された。

 アリア自身も驚いてはいたのだ。

 なんの防護策もなしに彼女に、しかも地肌に触れて因子による変容を見せなかったヒナキに対して。

 だがそれ以上に生体兵器として生きてきていた少女の感情の揺れに驚きと……そして恐怖を感じていた。


 少女は見た目こそ可憐ではあるが、兵器なのだ。

 それ単体で異次元から現れた異形、ドミネーターを屠るほどの破壊的な力を持っている。

 感情の爆発に任せて暴れでもすれば自分やヒナキだけでない、この病院にいる人間も危ないのだから。


「ああ、痛ェ……。肩は、んー……弾抜けてるな、よかった」


 ヒナキは左肩にできた銃創を手で触って確認する。

 凄まじい出血量ではあるが弾頭は貫通しており、内部へのダメージはそれほどでもなさそうだ。


「ねぇ」


「あン?」


 長い沈黙のあと、少女が口を開いた。


「あんた、誰ぇ……?」


「あんた誰ときたよ、一応君の異形化を止めた人なんだけどな」


 ヒナキが少女に向かって歩を進めると、少女は体をビクつかせた。

 ヒナキに対し、形容しがたい感情を抱いているため強烈に警戒しているようだ……が、近づいてくることを咎めたりはしなかった。


「ま、そんなこと言ってもあんときは気を失ってたし仕方ないよな?」


 一歩一歩近づいてくる度に少女の鼓動は早くなり体温が上昇する。

 少しばかり後ずさりはしたがヒナキが歩を進める方が早かった。


「元気かどうかはわからないけど、まあなんとかなってよかったよ。えー……ネロ、だっけ?」


「……!!!!」


 40cm以上身長差のある少女の頭にぽんと右手を置き、くしゃくしゃと雑に撫でてやった。

 両手を胸の前で重ねたまま、少女は再びビクつき目を見開いた。


 そしてその目を見開いた驚愕の表情のまま……。


 大粒の涙が大量にこぼれ落ちた。


 声も出さず、悲しそうな表情もなくただただ訳のわからない感覚と暖かさに驚愕の表情を浮かべたまま。


「えっ……おい大丈夫かッ……!?」


 ズドン、という鈍い音とともに凄まじい衝撃がヒナキの腹部を襲い大の男の体が宙を舞う。

 そこには蹴り足を繰り出した少女と、あっという声を出したアリアだけが残ってしまった。


 凄まじい衝撃を伴った空中散歩が終わり、金属質の医療機器を思いっきり巻き込んでようやく止まる。

 瓦礫の山と化したその中でただでさえ弱っていたヒナキは気絶してしまったのだった。

 

「いっ……意味わかんないだけどぉ……!! なんであたしに触れぇっ……なんっ……」


 「……」


 私は死んだかもしれない。

 アリアは盛大な挙動不審……いわゆる半ば制御不能に陥った少女に対し死を覚悟した。


 ……のだが。


 ひとしきり頭を抱えたあと、少女は電池でも切れたかのようにきゅうと失神してしまい床に倒れ込んでしまったのだった。


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