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幕間3

ネロは頭を洗ってもらった後、犬のように頭を振って水分を飛ばす。

 毛量が凄まじいためヒナキの全身を鞭で打つかのごとくその艶やかな髪が襲ってくるのだが……。


「後で拭いてやるからそれやめてくれんか……痛ェ」


「無意識でやっちゃうのよぉ、ごめんなさい」


 その後浴室から出たネロの玉のような肌から立ち上る湯気を拭き取るようにバスタオルを這わせた。

 くすぐったそうにするネロであったが随分心地良さそうだった。

 鏡に映る表情からその様子を読み取っていたヒナキは異性の風呂の世話をするなんて気が引ける、などというごく当たり前の感情を押し込めた。

 初めて会った時のあの荒んだ表情を思うとその羞恥心は逆に少女の不安を煽るかもしれないと考えたからだ。


 着替えが終わり、二人してテーブルについてこんがりと焼けたパンにバターを塗る。

 ヒナキはコーヒー、ネロはココアを飲みパンを齧る。


「毎回毎回罰ゲームぅ?」


「ん?」


「その泥水ぅ、苦いだけでしょぉ」


「ああ、ガキはわかんねぇだろうなぁこの飲み物の良さが」


「手が出るわよぉ」


「言い方悪かった。大人になるとわかるようになるから今はそのままの感想でいい。俺はカフェインとらないと頭働かんの」


 ネロの目つきはキツめなため、睨まれるとその辺の蛇よりも迫力がある。

 その上彼女が手を出すというのは大砲の砲口を向けられるのと同義であり、死に直結するため必要以上に丁寧に宥めてやる必要があるのだ。

 黒のショーツとチューブトップブラのみ身につけている、ほとんど裸のような姿のネロは甘いココアを啜りながらじとりとヒナキを見続ける。


「なんだよ」


「あたしのことは良く話させるけどぉ、しどぉのことは話さないわよねぇ」


「そうか? ってか興味あるのかよ俺のことなんて」


「あるけどぉ? 何聞いたらいいかわかんないだけぇ。正直人とこんなに話してるのって初めてだしぃ」


 もぐもぐしながら目を逸らし、そんなことを言う方舟の最高戦力。

 そんな様子に不本意にも愛らしさを感じてしまい、吹き出してしまった。


「んんん、なにかおかしかったぁ?」


 バターナイフを右手の指でくるくると弄びながらむすりとした表情でネロは言う。

 返答を間違えれば自分の額にそのバターナイフが突き刺さると直感したヒナキは……。


「いや、ほんとに素直だなと思っただけだ。思ったことがそのまま口から出るんだな」


「褒めてるのぉ? バカにしてるのぉ?」


「どっちかっていうと褒めてるほうだな。なんか毒気が抜かれるよ、ネロはそのまま人と話せるようになっていこうな」


「ふぅん、なんかよくわかんなぁい。でもあたしのことばっかり知られるのも嫌なんだけどぉ」


「俺のこともってか?」


「そぉ。しどぉのこと知らないからぁ。こっちにくる前のこととかぁ」


「まぁ……それは追々な。男の過去なんざつまんないことばっかりなんだからほんと」


 それよりもそろそろ仕事に出ないとなと言い、時計を指差した。

 ネロは時間を確認しつつ、指で弄んでいたバターナイフをテーブルに突き立てて椅子から飛び降り……。


「しどぉだけずるぅい」


「はいはい、今日は外だから拘束衣着ないとだぞ」


「このままがいいわよぉ?」


「だめだ。ほんと自分の体がどれだけ刺激的かだけは認識したほうがいいぜ」


「? しどぉはなんとも思ってなさそうだけどぉ?」


「思ってるよ。顔に出してないだけで」


「ふーん、えっちってやつぅ?」


「健康的な男子って言え。しなをつくるな」


 いたずらに微笑みながらセクシーを意識したようなポーズをする少女に拘束衣を投げつけた。

 今日も今日とてでこぼこコンビにて仕事に出ていくことになる。


 

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