第64話ー外れた帯ー
RBはそろそろ祠堂ヒナキが釈放されるであろうことやアリアにも誤っておいてほしいと高部に伝え終わった後、通信を切った。
「……ダリィな。そろそろGNCの陰湿さにはうんざりしてきたぜ」
「じゃあ辞めればぁ?」
「うお!!」
通信を切ったRBの頭上から少女の声が聞こえてきたため、驚いて通信端末を取り落としそうになった。
「テメェどっから話しかけてきてんだ……」
「ダクトの中ぁ」
天井に備えられた通気口の蓋が開き、そこから拘束衣を着た少女が軽やかに降りてきた。
RBはその少女の存在に対してはそこまで驚いた様子はなく……。
「相棒を追っかけて来たのかよ、お姫さん」
「そんなとこぉ」
「今日は暴れねェのか? お転婆姫さんはよ」
「しどぉが来てから苦しくなくなったしぃ。あんたの世話になることもないかもねぇ」
「ッハ、そりゃ良かった。テメェに何回内蔵割られたかもう数えンのもめんどくせェからな」
そんなやり取りの後、なんとも言えない静寂が隻眼の男と少女の間に流れ……。
「まぁよかったな、良い相棒が見つかってよ。カゴの中にいる時より幾分かマシな目になってるぜ」
そんな静寂を破り、穏やかな口調で話し出したのはRBだった。
何やら二人の間には少なからず過去になにかあった様子ではあるが……。
「相棒かどうかはわからないけどぉ……。というより、しどぉが呼び出されたのってあんたのせい?」
「あ? まァそうなるかもなァ。俺自身にそのつもりはなかったんだが……。ウチの上層部がシドウに対して探りを入れてるみたいでよ」
「じゃああんたは利用されただけってわけぇ?」
「ッハ、まあ正確にはそんなとこだ。下っ端のツレェとこだが……俺が意識的にチクってたらどうなってた?」
「またチクらないように口封じするつもりぃ」
そう言って拘束衣のだぼだぼな袖ごと右手を振り上げたネロに対し、RBは肩をすくめ……。
「テメェのビンタ一つで普通の人間は首とんじまうから気をつけろよ」
そうしているうちにネロがなにかに気づいたように背後を確認する。
RBも少女の後方から何者か……おそらくヒナキが来たであろうことを察し……。
「相棒が来たようだぜ」
「悪い。またせたな、ネロ……っと。RB軍曹も一緒か。こんな遅くまでお疲れ様です」
「……?」
クオンに拘束帯の分析をしてもらっていたはずだったヒナキだったが、彼の顔を見てネロは言う。
「顔の拘束帯なくなってるぅ」
「素顔では初めましてだよな」
ヒナキの更に後ろからクオンが部屋から出てきてRBと挨拶を交わし、ヒナキの顔を隠すように巻き付いていた拘束帯を持ってきた。
「彼の顔や頭に巻き付いていたものは、彼自身が拘束される際に抵抗したためか拘束力が他の箇所に比べて弱かったのだよ。どうも首から上はそもそも拘束する予定じゃなかったようだね」
クオン先生はちなみにと言葉を続け、一番拘束力が強いのが右腕にきっちりと巻き付いているもの、次に上半身から下半身にかけて巻き付いているもの。
次に高束帯を外せそうなのは上半身下半身全体に巻き付いているものだという。
「右腕を拘束しているものに関しては私ではどうにもできんだろうね……この高束帯はおそらく彼の右腕を封じるためのものらしい」
「しどぉの右腕……」
ネロがヒナキの右腕に意識を向けると、強く封じられているというヒナキの右腕からは確かに異質な気配が漏れ出ているのに気づく。
封じられているせいがその気配が何なのかはっきりしたことまでは分からないが……。
「よぉ兄弟、随分良いツラしてンじゃねぇか。なんであんなもんで顔隠す必要があったんだ?」
「わざと隠してたわけじゃないんだけどな。クオン先生が言った通りちょっと事情があって取れなかったんだよ」
「……」
「? ネロ、どうした。帰ろうぜ」
ヒナキの顔をじっと見てはぽかんとした表情を浮かべているネロに対し、ヒナキが声をかけたが……。
「ふふ、言った通りいい男だろう? 彼は随分人気があったんだよ」
「別にぃ……」
「Hey、あんまこいつからかうんじゃねェよクオン先生。機嫌損ねたら首狩られるぜ」
「今の彼女はそこまで情緒不安定ではないよ。むしろこれ以上無いほど安定している。それは君が一番良くわかるのではないのかな? 彼女が暴走した際には君が出張っていたのだから」




