第60話ー同郷の女設計者ー
2時間に渡る尋問の結果、現在本土側との繋がりがあることが完全には認められず釈放されることになったのだが……。
釈放のタイミングになってメイソンの懐から電子音が聞こえてきた。
「はーいもしもし、こちらメイソン。……所長さん? え? 尋問が終わったら声かけてくれって言ってたの? ごめんなさいね、今丁度終わったところよん。でも結構長く拘束しちゃったから、怪我もしているし手短に……え? もうそこまで来てる?」
その会話の直後、尋問室の扉が開き……。
「遅い、遅いよメイソン君。私は忙しいんだ、早く席を外してくれたまえー」
「随分前のめりな訪問じゃない? クオン所長さん」
「君のお話し合いが長すぎるのだよ、まったく……」
これ以上ないほど荒んだ目、手入れされていないぼっさぼさの腰まである茶髪、ところどころ擦り切れて破れてしまっている白衣と強烈な猫背の女性が入ってきた。
「終わったのなら早く出ていきたまえよメイソン君。また新兵器の実験に付き合わされたくはないだろう?」
「それは勘弁願いたいところだわね。遅くまでごめんなさいね、祠堂ちゃん、後もう少しだけ付き合ってあげて頂戴な」
そう言ってメイソン大佐はクオンと呼ばれた白衣の女性の脇を抜けて尋問室を出ていってしまった。
それを見届けてからその猫背の女はヒナキの向かい側の椅子に座り……。
「やあ、会いたかったよシドウヒナキ君」
強烈な猫背だったため分からなかったが、座るとダルンダルンのシャツの首元から大きな胸の谷間が覗きえらく扇状的な出で立ちを見せていた。
「ああ……すまないね、あまり服装に頓着しない性格で普段から格好がだらしないとよく言われるのだよ。まあ気にしないでくれたまえ、こんなものただの脂肪の塊だ。そんなことよりタバコは大丈夫かな?」
「……」
ヒナキが首を縦にふると白衣のポケットからタバコの箱を取り出し、中から紙巻きタバコを一本取り出すと口に加え火をつけた。
大きく煙を吸い込み細く長く吐き出すと、煙がもろにヒナキの顔に当たっては霧散していく。
「まさか同郷の者とこちらの世界で会えるとはね」
「……!! 何の話……」
「ああ、いいよしらばっくれないで。どうだい、こちらの世界の二脚機甲の出来は。驚いたろう? 君の居た世界……私はアウトサイドワールドと呼称しているが、そこのものよりずっと性能が上がっているだろう」
「まさかあんたも俺と同じ……」
「そうだよ。私も外側からこちらに来た人間だ。そして君のこともよく知っている。ASワールドでの私の最高傑作機、アンバーの機体設計者だからね」
「同じどころかあいつの設計元かよ……」
「名高い兵士だった君の身体能力に合わせた無茶な設計をさせてもらったけれどね。だが一度は"奴ら"を滅ぼす一歩手前まで追い詰めた。私の見立ては間違ってはいなかったということだ、重畳重畳」
クオンという女性はもう一度煙を吸い込み吐き出す。
ヒナキが次元の裂け目からこちらの世界に来た際に乗っていた二脚機甲兵器。
その兵器の設計を行ったのが眼の前の女性だったという事実にただ驚いていた。
疑いもしなかったのはあまりにその女性が落ち着いており、こちらの世界の人間が知るはずのないことを知っているためだろう。
「ドミネーター撃滅のため編成された超々特化型特殊部隊、ROD-999。君はその中でもドミネーター因子持ちの最高戦力だったろう。今は野暮ったいもので身体能力を制御されてしまっているようだがね」
ROD-999、通称ロッドトリプルナイン。
あちらの世界、アウトサイドワールドにてヒナキが所属していた軍部特殊部隊。
こちらの世界でその部隊の名を知るものは"奴ら"以外にいないはずだ。
「なにを隠そう、私は君たちの……いや、君のファンでね。あの機体の設計は特に気合が入ったよ。そんな黒い帯で顔を覆われてしまって……男前が台無しだとは思わないか」
「自分の容姿にはあまり頓着していなくて……」
「ふふ、私と同じようだね。いや失敬、すこし浮ついているようだ。なにせ君たちにはとても助けられていた。私たちのヒーロだったわけだ。こうして会えて本当に光栄なのだよ」




