第56話ー不機嫌な少女ー
GNPの海上艦隊に回収されたあと、ヒナキは治療を拒否し方舟へ戻ることを希望した。
先に脱出させていたネロが気がかりで仕方なかったということもあるが、現状自分の体に起こっていることを下手にさらけ出すわけにもいかなかったからだ。
結局のところアリアが小型航空輸送機でヒナキを回収し、一足先に方舟へ戻ることになったのだが……。
「相当な出血量ですね……」
「俺のことは良いよ、それよりあの子は大丈夫だったか?」
「ステイシスの無事は確認しています。相当機嫌が悪いようでしたが……」
「暴れてはないんだな?」
「ええ、精神状態もまだ安定しています」
良かったとヒナキは息をつき、右腕を確認する。
右腕に走るヒビは依然としてそこにあり脈動とともに激痛を伴っていた。
「なッ……それは?」
「ちょっとな。しばらくしたら収まりそうだ、気にしないでくれ」
「……ほんと謎の多い人ですね」
小型輸送機から見えるセントラルストリートにはまだ二脚機甲部隊や各社の兵士が展開しており、厳戒態勢が敷かれているようだ。
都市内に侵入したドミネーターはすべて排除できているが、多数の負傷者が発生しており救助活動がしきりに行われている。
小型輸送機が着陸したのはノアPMC事務所件ヒナキとネロの住処だった。
そこにはアリアの手配にて企業連合医療機関に勤めるスタッフ数名がすでに待機しており……。
「……」
「安心してください。医療用アンドロイドですので個人情報が漏れることはありません」
「機械なのか? 見た目普通の人間だけどな……」
「ステイシスに対する医療行為を行うために開発された高度医療ユニットです。安心して体を預けてください」
ソファに座らされたヒナキはすぐさま着衣を脱がされ負傷部分に対し治療が開始される。
その治療は数十分にわたり行われ……。
「アリア様、対象シドウヒナキ様の施術終了致しました」
「ありがとうございます。全医療ユニット、帰投してください」
「了解致しました。シドウ様、治療及び現状の身体情報をデバイスへ送信させていただいております。後ほどご確認をお願い致します。ではお大事に」
凄まじい手際の良さでこのオンボロ事務所から出ていく医療用アンドロイドたちに礼を言う。
「すげぇ……あそこまで精密な医療行為ができる機械式人形がいるのか。さすが、あれだけ機動力のある二脚機甲兵器を製造してるだけあるな」
「それより私はあなたが沈めた警備用二脚機甲の件や都市に侵入したドミネーターに対する火消しがありますので本部に戻ります」
「沈めてごめんなさい」
「いえ、例の人型特殊個体はあなたが2つのコアを破壊した段階で動きが鈍くなり、対処に余裕ができていたと結月少尉から報告がありました。あの建築作業用機体でよくぞやってくれましたと褒めるべきところでしょう。それより……」
「うん?」
「ステイシスのご機嫌をしっかり直してあげてください。では」
そう言って足早に出ていくアリアであったが……先程からネロの姿を見つけられていない。
痛む右腕を左手でかばいながらも立ち上がり……そして。
「あんなことして、あたしを守ったつもりぃ?」
「……!!」
すぐ背後から不機嫌そうな声がし、その場から飛び退いてしまった。
真後ろにいたというのに全く気配を感じなかった。




