第55話ー救助ー
黒尽くめの人間の攻撃は主に複数のブレードによる斬撃と自ら振るうブレードによる斬撃。
それが凄まじい密度で迫るが、ヒナキは怪物のものへと変化させた強靭な右腕ですべて捌き切る。
『完全開放されていないその腕でよく捌いたものだが……もう限界だろう?』
「!」
幾重にも重なった斬撃を右腕で弾いたあと、自分の右腕を確認する。
右腕に無数のヒビが入っており、そこから赤い光が漏れ激痛が走る。
自分の右腕を強力に抑え込んでいる拘束帯の影響であることは自覚しているが、少しでも気を緩めれば黒尽くめの攻撃を捌ききることができず体がズタズタになるだろうことは容易に想像できた。
『ヒナキ、つくづく……ここでお前を無くすのは惜しいと思うよ。だが、これで最後だ』
複数存在したブレードを束ね上げ、ひと振りの大剣と成す。
黒尽くめは次の一撃で決めるつもりだ。
ヒビの入った自分の右腕では受けきれない。
(クソ……あれは防げねー……。せめて万全な状態なら……)
仮定の話など意味はなさないことはわかっていた。
だがこの期に及んで命が惜しい。
自分がここで死んでしまったらせっかく自由を手に入れた少女がまた因子の侵食に苦しまなければならない。
だから、死ぬわけにはいかない。
「よォ兄弟。随分ギリギリじゃねェか」
黒尽くめの背後へ何者かが落ちてきた。
小気味良い声色でヒナキに向かって兄弟と言ったその男は自身が担いだブレードの柄に備えられたトリガーを力強く引き、超重量の分厚い刃に凄まじい加速を乗せて叩き込んだ。
『……!』
「かてェな、人間じゃねェのか?」
通常ならただ振り下ろされただけで人体が真っ二つになるほどの鉄塊。
それが肩口から入り胸部あたりで止まっていた。
「RB軍曹、救助に来てくれたのは助かるがそいつは人外だ! ここからの脱出に協力してくれ!」
「みてェだな。ま、ハナから目的はそっちだ。尻尾巻いて逃げるとしようや」
ブレードを引き抜いた直後、膝をついた黒尽くめを横目にヒナキの元へ走り担ぎ上げた。
「脱出用の小型潜水艇をこの艦にぶちこんでもらってる。そこまで走っから後方で動きがあったら銃かなんかで応戦頼むぜ」
「りょ……了解」
RB軍曹に担がれながら、ヒナキはMod-45の銃弾を膝をつく黒尽くめに浴びせ続けた。
黒尽くめの姿が見えなくなってもなにもないはずの空間から無数のブレードが現れ迫ってきたがRBのブレードとヒナキの銃撃で弾き続け……そして。
この潜水艦の下部装甲を破り内部に侵入したと思しき小型強襲潜水艦を発見。
「HEY! お使い終了だ。さっさとこいつを動かしてくれ」
《流石です、RB軍曹。あなたに頼んで正解でした》
備えられた通信機器から聞こえてきた声はノアNPC社長のアリアのものだった。
《無事ですか、シドウさん》
「もうちょいで全身バラされるとこだった。ほんと助かったよ。ネロは大丈夫か?」
《彼女が乗った潜水艇はGPSで追えています。彼女は問題ありませんがGNCの海中戦力が相当な被害を負っています》
強襲潜水艦が起動し、再びこの潜水艦の壁を光学兵器で焼き切るようにして破壊し浸水させながら外海へ飛び出した。
「海中戦力の被害か。クアッ……あの爆発物を撒き散らす厄介者はどうなってる?」
《GNCの海中戦力に大打撃を与えた後、セントラルブリッジで戦闘を行っていた未確認の人型ドミネーターも姿を消しています。その潜水艦の離脱と同時に。交戦していたブルーグラディウスの損傷は軽微だと報告が入っています》
(あのチンピラもか……)
「シドー、これで止血しとけ」
「ああ、ありがとう」
この小型艦はまっすぐ方舟側へ向かっており、GNCの海上艦隊へ収容されることになる。




