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ノアの弱小PMCー異世界から来た軍人と兵器少女、たった2人の防衛戦線ー  作者: 無糖 喫茶
第3章ー兵器の祭典、セントラルストリートパレード開催ー
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第27話ー兵器少女と親探しー


 砲撃の余波は離れた場所にいた人々にも影響を与えており、ネロと迷子の男の子も例外ではなかった。

 衝撃こそそこまで強くはなかったものの音と砲撃時の光が強く視覚聴覚に影響を与えていた。


「大丈夫ぅ?」


「うう、こわいよーッ!」


「大丈夫そぉ。はぐれちゃだめよぉ」


 周囲では状況が理解できていない観光客がどこかへ逃げようと走り出しているが、皆逃げる場所がバラけており大混乱が起きていた。

 迷子の男の子がはぐれないよう気にかけつつ、一旦人の少ない場所を探して逃げ込むことにした。

 ヒナキと連絡を取るためインカムに手を当てつつ……。


「しどぉ、しどぉー?」


《……》


 いくら呼びかけても通信機から聞こえるのは通信ノイズのみだったが、しばらく待っているとヒナキと思わしき声が少しずつ聞こえてきた。


《……ネロ! 聞こえるか!?》


「やぁっときこえたぁ。なんで粒子砲起動してるのぉ? 防護壁に穴空いたんだけどぉ、パフォーマンスじゃないわよねぇ」


 重粒子砲の目標は方舟都市正面防護壁だった。

 重粒子砲の一撃をまともに受けた特殊合金製の防護壁は都市に出入りするするためのゲートとなっていた場所であったが、中央部分が溶解し直径10メートルほどの穴が空いてしまっていた。


《例の本土政府のやつがなんか仕込みやがった。絶賛制御不能中でそこら中パニクってるな》


「だからあの時殺しとこって言ったのにぃ」


「うわーん!!」


「おちびちゃんちょっと静かにしててぇ」


 後ろで泣いている男の子に優しく声をかけているが、この状況だ。

 男の子は泣き止まないし、防護壁が破壊されたことでそこら中で悲鳴が聞こえているし、都市中央部に向かって一斉に避難が進んでいることもあり人の流れも濁流の様相を呈しているしでネロもどうして良いかわからない状態であった。


「しどぉ、あたしどうすればいー?」


《迷子の子まだいるんだよな?》


「いるぅ。ずっと泣いててかわいそぉ」


《迷子センターはもう機能しねぇだろうな。ネロ悪い、多分親御さんその子のこと心配で気が気じゃないと思うんだ。重粒子砲付近で見失ってるなら、人の流れに逆らってでも探しに来てるはずだから見つけてやれるか?》


 ネロはそのヒナキの言葉を聞き、少しばかり迷ったが……。


「わかったぁ。ちょっと集中したいから通信切るわよぉ」


《……ああ、頼んだ!》


 ネロはそう言って通信を切り、更にインカムも一旦外して被っていたフードも脱いだ。

 あらわになった銀灰色の髪と薄褐色の肌、ふわふわのまつ毛の下にある赤い瞳を見て男の子はすっと泣き止んでしまった。


「おねーちゃんきれー……」


「そぉ? ありがとぉ。あんた名前はぁ?」


「えっと……かずき!」


「かずきねぇ」


 ネロは路地から大通りの方に少しばかり歩を進めて目を閉じつつしゃがみ込む。


「これけっこうきついからやりたくないんだけどぉ……」


「おねえちゃんどうしたの?」


「しぃ」


 男の子に喋らないよう伝え、深く深く集中する。

 人々の悲鳴や怒号が飛び交う中、その有象無象の言葉を耳からすべて頭に入れ込み解析する。

 頭の中で数百数千という言葉が反響し満たしていく。


 ネロの眉間にシワが寄る。

 言葉の濁流が耳を通し頭の中を支配する感覚……キツイ。

 頭が中から破裂しそうになるほどの痛みを感じつつあった。


(どこぉ……この子を探す人ぉ……)


 人々が発する凄まじい声の中から、男の子を呼ぶ人間の声を探す。

 砂場の中から一粒の宝石を見つけるかのようなその作業は少女の能力を持ってしても異常なまでの集中力を必要とする。

 

 右の鼻孔から温かい液体が垂れる感覚。

 垂れた液体は地面に落ちて跳ねた。


「おねえちゃん、鼻血でてる!」


「黙ってぇ」


 少し語気が強くなったため、男の子はビクリと身体を硬直させてしまった。

 だがここで集中を乱すわけには行かない。

 不必要な情報を排除し、排除し、さらに排除していく。

 そしてその中に残った女性たちの声をピックアップし解析判断。

 

 20代後半から30代の女性の声を絞り込む。

 違う、違う、違う。

 どれも違う。

 どこだ、この男の子の名を呼ぶ声は……。


「うぅ……見つからなぃ……!!」


 まだ絞り込んでいく。

 頭の中で反響する目的外の人々の声を削り、削り続け、そして……。


【か……き、かずき……!! どこなの……どこにいるのかずき……!!】


「……!! 見つけたぁ」


 声を捕捉。

 すぐに位置を特定。

 避難する人に流され都市中央部に押しやられつつあるが、この男の子を確実に探している。

 ネロはすぐに立ち上がり、流れ続けていた鼻血を手で拭おうとしたが……。


「おねえちゃん……これ」


 男の子が立ち上がったネロに対してポケットティッシュを差し出していた。

 ネロに怒られてからもずっとそれを握っていたのだろう。

 ぐしゃっと潰れたそれを、侵食を防止するための手袋越しかつ男の子に触れないよう気をつけながらネロは受け取った。


「……ありがとぉ。あんたのママ見つかったから急いでいくわよぉ」


「ほんと!! やったぁ!!」


 そこからは早かった。

 大通りを迂回するようにして人混みを避け、男の子の母親の声を補足し続けながら小走りする。

 後ろを振り返ると男の子も必死についてきているようだ。


 そして……。

 ようやく母親の姿を捉えた。

 30代くらいの優しそうな母親だった。


「ママー!!」


「かっかずき!!」


 母親に向かって自分を追い越し走っていく男の子と、男の子を迎え入れる母親。

 ネロは先程の母親特定時の疲労でしかめっ面を浮かべながらその光景を見つつも心の中は穏やかであった。


「どこに行ってたの!! すごい探したのよ!!」


「ごめんなさい……。あのおねーちゃんがママ見つけてくれたの……」


「……? どのおねーちゃん? お礼言わなくちゃ」


「あれ? おねーちゃん?」


 男の子が母親のもとに戻ったのなら、ヒナキから言い渡された指示は完遂した。

 これ以上人混みの中にいることも得策ではないためネロは警備の持ち場付近のビル屋上へ向かったのだった。


 忽然と姿を消した少女に男の子は驚きを隠せないでいたが、姿が見えずとも大きな声でありがとうと大きな声で叫んでいた。


「もう迷子になっちゃだめよぉ」


 離れた場所にいても聞こえていたその男の子のお礼を聞きつつ、見通しの良いビルの上でネロは破壊された防護壁の方を確認していた。

  


……。



「ヒヒヒッ、やりやがったなァあの人間! こっちの世界のやつもそこそこやるじゃあん」


 方舟都市の外。

 海中に潜む一つの巨大な影。

 いわゆる潜水艦の中で人形の異形が不気味な声で方舟都市に侵入していた政府軍の男を称賛していた。


「被検体01から09まで、射出準備完了いたしました」


「よしよし、狙いはあの防護壁に空いた穴なァ。絶対外すんじゃあねーぞ。ボスをがっかりさせんな? クソザコ共」


「了解。アルバトロス、浮上します。浮上後射出シークエンス開始、目標方舟都市防護壁破壊部分」


「まってろよぉ、ステイシス。絶対俺の女……いや、ボスに引き渡してやるからさぁ」


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