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勇者、初恋相手なので魔王を殺せない3

「おおっ!これはまさか!!勇者!?」


「何!?勇者だと!!」


「勇者殿!勇者殿!」


何度も呼ばれ俺は目を開ける。

いや、もう俺は勇者じゃないんだった。


「うるさい!黙れ!俺は勇者なんかじゃない!」


俺の体を抱きしめる何かを振り払い目を開け怒鳴る。

俺の体を抱きしめていたのは一本の木だった。

寄りかかって寝ていた木はどれほどの年月が経ったのか大樹と言ってもいいほどには大きくなっていた。


「勇者殿!我々は勇者殿を支援する身でございます。どうかよろしくお願いします。我々と共に、魔王を討伐しましょう!」


「………」


「………」


「………」


俺は無言を貫く。

何があってもだ。


「勇者殿が眠られてから1000年が経ちました。毎年現れる魔王。弱点も攻撃も全て同じなはずなのに倒さずに放置すると厄災が起こる。それを回避するべく毎年勇者殿が魔王を倒してくれるのです。その城の最奥地、魔王の部屋のさらに奥には、彼女がいますよ。」


彼女?


「元公爵令嬢、いえ、行方不明になった勇者殿の初恋の相手がいますよ。助けに行きませんか?」


彼女のことを聞き俺の何処かでなくなったピースが少し埋まる。

ほとんどのピースは消えたままだが、いつか!彼女と一緒に暮らしたい。

そうすれば!

宣言したことは全て無しだ!


俺は迷うことなく魔王城の前へ瞬間移動した。


「やってやろうじゃねえか!」


1人での魔王城攻略、俺にも、1000年越しの思いを伝えるチャンスが来たってんだ!

邪魔する奴は全員殴り飛ばす。


幾ら1000年のブランクがあろうとも、俺は強かった。

魔王までもが俺の前では雑魚も当然だった。


あとはこの部屋だ。

恐る恐る地下へと続く階段を降りる。

この先に彼女がいる。


嬉しくてワクワクした。

その部屋に入った瞬間、腰につけられた聖剣は1人でに動き出した。

部屋の真ん中にポツンと置かれた玉座、それに座る彼女の胸元へ吸い込まれるようにすごいスピードで聖剣は動くのだ。


必死で止めた。

彼女の胸に当たるか当たらないかのギリギリの距離で聖剣は止まったのだ。

よかった〜。


安心したのもつかの間、一体何を話そうかな?

無言の空間が続き根負けした彼女が口を開く。


その口から出たのは自己紹介のような言葉だった。

しかし自己紹介よりも重たいそれは俺の心に深く突き刺さる。


「初めましてこんにちは、わたくし何十回、何百回、もっと沢山、殺され続けた魔王ですわ。」


その言葉に俺は絶句する。

言葉が出てこない。

俺は、俺は、彼女がいなくなってすぐ眠りについた。

冬眠のように体の機能のほとんどを停止し、年を取らない体になった俺、殺され復活することで永遠に生きられる代わりに永遠に殺される運命になった彼女。

無言の俺に彼女は言葉を続ける。


「今回はわたくしがなぜ魔王になったのか話を聞いてくれませんこと?話を聞いた後、必ずわたくしの事を殺してくださいね。」


「話は聞く。」


淡々とした口調で俺は答えた。

それに驚くような顔をして彼女は笑う。

あの頃の笑顔と同じはずなのに、まるで別人のような笑みだった。


「あら、聞いてくださるの?」


「ああ、しかしあなたは殺さない。」


彼女の体から吐き出され続ける負のオーラは俺の体を少しづつ蝕むが関係ない。

それよりも、彼女の命の方が大切だ。

彼女を守るためなら俺は、人間を、全て滅ぼすことだってできる。


「……ありがとう。」


少し間を開けてやはり驚いたような顔で彼女は言葉を続ける。


話は彼女の兄が彼女を外へ連れ出すところから始まった。

そこで彼女は不思議な場所へ連れてこられ、知らない男と共にその場所へ残った。


これは王様に聞いた話と似ていた。


場所を移動し冷たい部屋で床に座らされ謎の液体をかけられる。

そこで彼女が初めて死んだと聞いた時やはり俺は心臓が締め付けられるように痛くなった。


目が覚め、この玉座に座っていた彼女はここで何度も殺されたという。

父親の仇、家族の仇、刃物で刺され、魔法で焼かれ、直に殴られ、女性を殴るという精神がどうかしている!


何度も辛そうな顔をしながら語る彼女の顔が一転して無へと変わった。


「眼が覚めると見知らぬ人間に切られ、焼かれ、殴られ、そうして気づいたのです。彼らの言動を全てまとめるとわたくしは勇者様が討伐すべき『魔王』になったのではないかと。そこからわたくしはたくさんのことをしました。勇者と出会う直前ではなくそれよりももっと早く目覚められないかと!試して失敗して試して失敗して試して失敗して試して……失敗した…。しかし結局わたくしはどうすることもできなかった。」


何かを掴むように手を伸ばした彼女の手は虚空を切るように下へと落ちる。


「微かに見えた希望の光は、さらにわたくしを蝕む闇を増幅させたのです。わたくしは問います。勇者よ。」


聖剣が刺さらないように必死に抑えてはいるが、心臓に突きつけられた聖剣を指で撫でる彼女、触った指先は溶け、形を崩していく。

な、何を!?

初めて瞼を開けた彼女にやはり俺は驚く。

光は宿っておらずただただ虚ろな瞳が、そこにあった。

話は聞いていた。

目が見えない。

しかし彼女は、それなら彼女は!

現実から逃げるために無視をし続けてきた言葉。


彼女は目が見えない。


知っていた!

知っていたが……


「わたくしは死なずに生き残れるのでしょうか?ただこの椅子に座っているだけの女は、どうすれば幸せになれるのでしょうか?貴方はなぜわたくしを殺そうとしないのでしょうか?」


俺は動揺した。

今俺がどんな顔をしているのかわからない。

けど、彼女には見られたくない。

動揺が伝わったのか彼女はふふっと笑った。

俺に抱き着く彼女。

思考が停止した。

彼女は何をしているんだ……?

下を見ると俺に握られた聖剣が深く深く深く彼女の体に突き刺さっていた。


「話を聞いてくれて、ありがとう。」


崩れ落ちる彼女は今、何を考えているのだろう。

俺に抱きついている彼女は、何を思い死んでいくのだろうか。


俺は、彼女の死んだ後の世界で幸せに生きれない。

彼女が復活すると、魔王も復活する。

じゃあ、魔王はずっとこの世界にいればいいのに。

彼女が幸せに生きる姿を見てみたい。


彼女が意識を失う直前、一瞬だけだが彼女の瞳に光が宿った気がした。

ああ、女神様。

俺の希望を返してください。

俺が頑張る理由を返してください。


俺は壊れた人形のように彼女を抱きしめる。

今までの彼女の幸せそうな笑顔が思い出せない。

俺が壊れるのはもうすぐだ。


それでも最期に、おやすみ、俺の愛しのお姫様。

彼女の額へ口付けを落とす。


美しかった髪の毛、笑った時の顔、恥ずかしそうな顔、驚いた顔、どれも、思い出せない。

全てを忘れるために眠りにつき、彼女のことも忘れてしまった。


俺に生きる価値はあるのだろうか?

彼女から聖剣を抜き綺麗に横にならせる。

彼女の血がついたままの聖剣を俺は自分に刺した。


苦しい。

でもこれ以上彼女は苦しんだ。


俺は彼女に重なるように倒れこんだ。


俺の初めての死、彼女と共に迎えられたのが少しの救いとなった。

お読みいただきありがとうございます。

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