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~動けない貴方を救いに来ました~

いつ書いたのか分からない作品が出てきましたので投稿させていただきます。短いですがお楽しみください。

………。


…………?


初めましてこんにちは、わたくし何十回、何百回、何千回と殺され続けた魔王ですわ。

今回はわたくしがなぜ魔王になったのか話を聞いてくれませんこと?

話を聞いた後、必ずわたくしの事を殺してくださいね。

あら、聞いてくださるの?

……ありがとう。


事のきっかけはとても寒い日の事でしたわ。

外にはパラパラと雪が降っており部屋から一歩も出たくありませんでしたわ。


「お兄様、わたくし今日は外出したくありませんわ〜。」


お兄様はわたくしの腕を引っ張りお外へ連れ出そうとするのですから必死で抵抗しましたわ。

ですが、騎士団に所属しており体の鍛え方が違うお兄様と、女性のわたくしでは力の差は歴然、簡単に家の外へ連れ出されてしまいましたわ。


「よし!今日はピクニックだぞー!喜べ!」


お兄様にはわたくしの言葉は一切届いておりませんでしたもの、仕方ないのかもしれませんわ。

はあっとため息をつきながら諦めてお兄様についていきましたわ。

ああ、寒い。


「着いたぞ!ここだ!」


馬車で移動したこともありここがどこなのか分かりませんがわたくしは少し不思議に思いましたわ。

ピクニック、とおっしゃっていたのに何故か室内に連れてこられたのですもの誰でも不思議に思いますわよね?


「お兄様?ここは何処ですの?」


わたくしは周りを警戒するようにあたりに顔を向けお兄様にキュッと近付きましたわ。

この部屋は外の寒さと比べてもあまりにも寒すぎたのですもの。

不自然な寒さでしたわ。


わたくし達に近づいてきた人、多分男はお兄様に話しかけ何やら難しい話をし始めましたわ。

わたくしに分かるのはお兄様が


「頼む。」


と悲しそうな声で言うと話しかけてきた人は


「お任せください。」


とおっしゃったことだけですわ。

ああ、この時に気づいておけばよかったのです。

今でも後悔していますわ。


「ピクニックと嘘をついてここまで連れてきてしまってすまない。しかしこれしか方法が思いつかなかったのだ。」


こんな時期にピクニックと言うあたりさすがお兄様ですわ。

お兄様はわたくしに頭を下げると距離を取りましたわ。

それと同時に今度は男がサッとエスコートをしてくれました。

男に連れられ部屋を移動し、途中、下へ降りる階段があったり、登る階段があったりと随分と移動してついた部屋の空気は少し淀んでいましたわ。


お兄様は着いてきていないのか男とわたくしだけの2人きりになってしまいました。

男はわたくしにここへ座るよう支持を出しましたのでそれに従い冷たい床に腰を下ろしましたわ。


次の瞬間、鼻をつんざくような強烈な匂いがした後その匂いのする液体がわたくしを包みました。

いえ、正しくはその液体をかけられたのでしょう。

ベチョベチョとした液体にわたくしの体は強張りましたわ。


それでもお兄様が連れてきてくださった場所ですもの、きっと大丈夫ですわ。

と心の中で何度も何度も繰り返していると話しかけてきた人が何やらブツブツとつぶやき始めましたわ。

わたくしはさらに怖くなり嫌な予感がしましたがその場から決して動かずじっとしていましたわ。


キンっという甲高い音が鳴り響いた後、わたくしの心臓が何かに掴まれ、握られるというような感覚になりましたわ。

苦しくて呼吸は荒くなり、体が端の方から冷たくなっていき、最終的にわたくしの心臓は止まりましたわ。


そう、ここでわたくしは1度死んでいるのです。


目が覚めるとわたくしはこの玉座に座っていましたわ。

ここにいると不思議なことが何度も起こりましたの、例えば、『お前は俺の父上の仇!死んでもらう!』という声が聞こえたかと思うとわたくしの心臓に深々と刃物のようなものが刺さったり、『君のせいで僕の大切な家族が死んだんだ!その命、ここで絶たせてもらう。』という声が聞こえると灼熱の炎で身を焼かれたり、何度も何度も何度も何度も!


眼が覚めると見知らぬ人間に切られ、焼かれ、殴られ、そうして気づいたのです。


彼らの言動を全てまとめるとわたくしは勇者様が討伐すべき『魔王』になったのではないかと。

そこからわたくしはたくさんのことをしました。

勇者と出会う直前ではなくそれよりももっと早く目覚められないかと!

試して失敗して試して失敗して試して失敗して試して……失敗した…。

しかし結局わたくしはどうすることもできなかった。


微かに見えた希望の光は、さらにわたくしを蝕む闇を増幅させたのです。

わたくしは問います。勇者よ。


心臓に突きつけられた聖剣を指で撫でる。

触った指先は熱くなり、溶け、形を崩していく。

ここまで長い間話を聞いてくれた勇者を見ようと目を開けるが何も見えない。


『わたくしは死なずに生き残れるのでしょうか?ただこの椅子に座っているだけの女は、どうすれば幸せになれるのでしょうか?貴方はなぜわたくしを殺そうとしないのでしょうか?』


空気が揺れた。

勇者が動揺したのが伝わる。

その顔を見れないのは残念だ。

ふふっと笑ったわたくしは勇者に抱き着く。

さらに深く深く深く体に聖剣が突き刺さるように……、今回はとても良い殺され方だった。


『話を聞いてくれて、ありがとう。』


崩れ落ちるわたくしは思う、今、目を閉じたら、この勇者ではない次の勇者が目の前にいるのだろうな、と。

そしてわたくしは今、理解した。

目が覚めると目の前に勇者がいるのは、わたくしがこの玉座から移動できないようにするためだったのね。


どうか、わたくしの死んだ後の世界で、皆が幸せでありますように。

いつか、魔王のいない美しい世界で皆が幸せでありますように。

皆が幸せに生きる姿を見てみたかった。


意識が途切れる瞬間、わたくしの目に勇者の顔が映った気がした。

わたくしの盲目の瞳は何も映す事ができないはずなのに、ああ、女神様。

わたくしに少しの希望を与えてくださりありがとうございます。

これでもっと、頑張れそうです。


いつか私は壊れてしまうかもしれない。

今のが幻でも、わたくしの妄想でも、それでも、嬉しかった。

壊れるまでの時間を延長してくれた。


どんなに辛い時でも一度も流れることのなかった熱い雫が瞳からボロボロとこぼれ落ちる。


おやすみなさいませ、皆様方。

お役目ご苦労様です、勇者様。

お読みいただきありがとうございます。

今回は、何も分からないはずなのに賢さ故に理解してしまう少女のお話でした。

次話も近日中に投稿いたしますのでお楽しみください。

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