3-3 魔王と聖女
ここはとある市内の施設。
一見教会の様な建物の前に私とミトさん、魔王さんが立っていた。
「では魔王さん。とうとう阿鼻叫喚です。」
「そうだな、して此処はなんだ。」
「入れば分かりますが、最初のうちは天国、何かを間違えると一瞬で地獄に変わるという施設です。」
「ほう 興味深い。」
「私にとっても覚悟のいる場所です。気合を入れて行きましょう!」
「いいから早く入れ。遊んでる場合か。」
「もーミトさんたら、雰囲気ぶち壊しー。ミトさんだって昨日みたいに泣く事になりますよ?」
「泣いてないだろう!」
「まあそう言うことにしておいてあげます。では、参りましょう。」
****
「あ!ズズおねーちゃんだ!今日は男の人が居るー。」
「うん、こっちの大木がミトおにーさんでね、こっちの青白いのがマオーさんだよ。」
「大木って酷いぞ。」
「…我は青白かったのか?」
「今日は時間があるからみんなとたくさん遊んでくれるよー。しがみ付いてもよじ登っても良いからね。」
「わああい!」
「あっちで遊ぼう!」
「肩車もして!」
「いいですか、ミトさん魔王さん。ここには24セットの瞳がいます。この子達に大きな怪我をさせると地獄の番犬が出てきます。私はその番犬がとてもとても苦手なので絶対怪我はさせないようにお願いします!
そして最高の阿鼻叫喚を得るには その前にこの子羊達を最高に笑わせる事が重要です。
魔法の最高の使い手である魔王さんであれば然様な事は容易いですよね?」
「ふむ、容易いな。良かろう。大いに笑わせてくれようぞ、クックックッ」
「何言ってんだか…。」
魔王さんは魔術を使って子供達をお手玉にしていた。
ミトさんは両腕に子供をぶら下げて回ったり走ったりしていた。
「鍛錬かい。」
でもまあ元気な子達はそれで楽しそうだ。私も負けられない。
「おねーちゃんも遊ぼう?」
こんな可愛い天使達に誘われたらお姉さんはメロメロです。
女の子達と大縄跳び(軽め)に興じる。
あははは
キャハッ
ふふふふ
ワーワー
わあいわあい
もっともっと
「さ!みんなそろそろおやつの時間よー!部屋に入りましょう。」
「「「「あ シスターだ」」」」
「「「「はーい」」」」
「まおーさん達も一緒に食べよう?」
「ほう、我を誘うとは勇気のある童よの」
魔王さんは子供達と食堂へ入っていった。
残った私とミトさん
「可愛いな。」
「でしょう。」
「お前はいつの間にか養育園に関わってたんだな。」
「本物の聖女が忙しいですからねー。代わりに来て遊んでいくだけしてました。偽物ですけどネ。」
「それでも偉いと思う。」
「あらやだ。褒め殺しですか、そして今更惚れ直しですか?」
「ああ 惚れ直すし ずっと惚れてたし 何なら永遠に惚れてると思う。」
「・・・・・・・・・・」
「ユズル?」
「・・・・恥ずかしすぎる!文化の違いがあり過ぎて身体が耐えられない!!」
「お前、そんな表情もするんだな。これまでになく真っ赤だぞ。」
「ミトさんの阿呆・・!」
真っ直ぐに全く照れのない顔をミトさんが向けてきた。
「俺はいま…お前の為なら何だってできる気がしてきた。うん。不思議と初めてだ、こんなの。」
「もう、もう勘弁してくださいぃ。」
「そうだな。まだ阿鼻叫喚が終わってないし、もうちょっと頑張れな。」
****
「魔王さん、調子はどうですか?」
「今のところつまらん。此奴らが何でも喜び過ぎて簡単すぎるな。」
「ありゃあ。不快でしたかね?」
「不快ではない。」
「でも流石魔王さんです。子供達の喜び方が私とは段違いでしたから。」
「フン。当然だな。」
「沢山の子供達がこうやって魔王さんに遊んでもらえれば、将来良い手下に育つでしょうねぇ。」
「何?」
「だからですね。魔王さんが『すごい!カッコいい!優しい!素敵!』な指導者と彼らに思わせれば、彼らが大きくなった時に敵対する事は無いのかなと」
「なるほど。良い視点だ。
よし、此奴らが心酔する程楽しませてやるとするか。ハッハッハッハ。」
「その調子です、魔王さま!」
****
そしてその時は来た。
「あー!ディルが順番抜かした!」
「違うやい、さっきからピートの前に並んでたもん!」
「イタッ!だからって私の髪を引っ張らないでよっ!」
「びええええ」
魔王さんは目をぱちくりさせる。
「なんだ突然!!??何が起きた?」
「ええ魔王さん 来るべくして来ました。阿鼻叫喚の始まりです!」
「さっきミュウが僕の悪口言った!」
「ディルが怖いぃ」
「うわ、うわああああん!」
「誰が悪いのかみんなで指先せー!」
「せーの!あ、ビクターがおしっこ漏らした!」
「小さい子だからしょうがないでしょ!?ねーみんな?」
「「「ねー」」」
「だから女ってやだよな!まとまっちゃってさー!ブサイクのくせに」
「ひ 酷い!シスター!ウエンツが酷いこと言ったぁぁっ!」
「あああああん!」
「うえええええん!」
「ふえええ、あああああああ」
ギャー・・・!
ピー・・・・・!
****
そして3人の挑戦者は各々の首を垂れて座った。
「・・・凄まじい風景だったの。」
「ええ、毎度の事とはいえ身体にこたえます。」
「・・あれを、毎回なのか?シスターも大変だな・・・。」
「まだ24人という人数であれですが、もっと増えた時はあちこちに飛び火して収めようがなくなります。」
「なかなかの阿鼻叫喚であった…。だがしばらくはいい。何と云えば…ヒトのいう『疲れた』という事か。」
「ご満足いただけたようで何よりです。」
「そうだな…数日は城で大人しくさせてもらう。勇者はもう面倒臭いから元に戻しておくことにしよう。」
「かしこまりました。では勇者の恥ずかしい顔は私がイザという時の為に記憶しておきます。」
「ウム。聖女ズズよ、極悪非道の名に恥じぬ案内であった。」
「ユズル…そんなふたつ名をいつ付けられたんだ…。」
「ええ、全く持って不本意ですがいつの間にか。」
魔王さんは転移魔法で城に戻り、勇者を元通りにし、私とミトさんを王宮に転移してくれた。
「ミトさんお疲れ様でした。」
「ああ、確かに疲れたな。俺も今日は少し宿直室で休んでから帰る。」
「ちょっとだけ休むくらいなら私の部屋でもいいですよ。」
ギギギとミトさんが体を捻る。
「言っておくがな、俺がお前を初めて抱く時は完璧な状況でと決めている。
そんな腹を決めた男に何かのついでみたいに軽々しく誘ってくれるな!」
「そ、そ、そうですか。それは失礼しました!」
「・・・だから予告してやる。次の木の日の祭りの後は言い訳のしようがないくらいの体調にして体を洗って外泊届けを出しておくんだな!」
「えっと」
「返事は!!!」
「サー!イエスサー!!」
「よし!じゃあ今日は早く寝ろ!ついでに金の日は休暇届けも出しておけ!」
反論の隙間は微塵も見つけられなかった。こんな刺激的で甘い予告はどっちの世界にいてもなかなか無いと思う。
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そして楽しいお祭りにやってきた。
ミトさんと2人で、ちょっとだけおめかしして。
「おおおおお。これが異世界のお祭り…!」
「迷子になるほど混んではないが、離れるなよ。ほら、手よこせ。」
「何でしょう、心がムズムズします。ミトさんは何かノミとか毛虫でも飼っているのでしょうか。」
「心と虫は関係ないだろう!?それと毎日風呂には入ってるぞ!」
「わかってますよ。ミトさんからは清涼なドウテイの香りがしますから。」
「それも違う!」
「冗談です。まあ見てください。山車の人形が愉快ですね。溶け崩れた雪だるまの様なあの人形は何を意味しているのでしょうか?」
「あれは数百年前の聖女を模してるんだ。」
「…酷くないですか!?」
「まぁ、そうだな。」
「マユタが何年か先に銅像になった時はもっとマシな彫刻家を探してほしい。」
「下手するとユズルも一緒に作られるぞ。」
「断固拒否!肖像権を行使します!」
ミトさんは柔らかく笑った。
「お 屋台が出てるぞ。食いたい物はあるか?」
「我はやはり肉の串焼きだ」
「「魔王!」さん!?」
「人間たちの祭りとは何かを見に来てみたぞ。後はズズに頼みごとができた。」
「何ですか?まさか私に惚れたとか言いませんよね?それは単純パターン過ぎて面白くないです。」
「ウム。我の嫁としてズズを迎えても良いと「巫山戯るな、誰が渡すか。」思ったが。」
ミトさんは後ろから両腕で私を抱え込んだ。
「まあ待て、あれだけお主が派手に求愛したのを我は見ておったのだぞ?
ズズは時々我が城に遊びに来るくらいで良い。」
「それも恋人の俺からすれば許しがたい。魔王の元に女を行かすなど心配で死ぬ。」
「フハハ!ならばお主も来れば良かろう。それでも駄目なら国ごと叩き潰せば良いか?」
「魔王さん、わかってないですねぇ。国ごと叩き潰したら案内したところは全部無くなっちゃいますよ?」
「む、そうか。」
「まだまだ面白い所は国中あるのです。せっかくだから余す所なく貪り尽くしてやりましょうよ。ホラあの山車にある愉快な聖女像なんか酷過ぎて作り直ししてやりたくなりませんか?」
「あのハリボテか?初代聖女にそっくりだな。」
「「・・・」」
「ま、まぁ良いでしょう。時々なら王宮に遊びにいらしてください。」
「ユズル!?」
「大丈夫ですミトさん。私にはミトさんしか見えてない…訳ではないけど、なるべく見ているように見せかける事を心がけます。」
「それは不安しかないぞ!?」
「ウム。ズズは我が伴侶の母だからな、我が無体をするわけがない。」
「「はあ!!??」」
「ついでに言うとズズに巻き付いているお主が父だな。」
「はっ、えっ、えええ!??」
「詳しくは分からんが、魔王の予言だ。だから早く睦んで子を産むように言いに来た。」
「ええと、それはなんというか。まぁ未来の不確定話って事で…ねぇ?」
「・・・俺の大事な娘は誰にも渡さんっ!魔王、お前にもだ!!」
「魔族並みに強欲な男だの。良い、フハハハ。では我は“マーくん”になって崇め奉られに行くぞ。ではな。」
一瞬で魔王さんは居なくなってしまった。
そして僕らは途方に暮れる。
「・・・魔王さんには次から去る時にコウモリになって飛んでいくやり方にしてもらいたいですねぇ?
その方が魔王っぽい。」
「複雑だ…。どうしたらいいかわからん。」
「え?魔王さんの消え方ですか?ミトさんが悩む程の事では無いと思いますが。」
「違う。俺とズズに娘ができたら魔王に取られるかもなのが嫌なんだ。」
「ああ、予言に乗っかるのも癪ですよね。じゃあ私達、清いままでいましょうか。」
「・・・それもやっぱり無理だ。全部、ズズを俺のにしたい。俺だけのものにしたいんだ。他の誰かが見るのも嫌なんだ。」
「確かにこの人強欲!」
「どうすればいいんだ、自分では考えが全く出ない。」
「じゃあ、とりあえず魔王さんの性根をミトさんと私で叩き直せばいいんじゃないですかね?」
「そう…なのか?」
「そうですよ。できるって信じてくださいよ。現段階で魔王は世界征服はしなさそうになってるでしょう?
因みに元の世界では予言の類いの的中率は低かったです。
そ、それに、こここどもは男の子かもしれないじゃないですか。」
「男の子…。そう、そうだな。万が一の事があっても男をたくさん作って魔王に対抗すれば良いのか。」
「んん?何か恐ろしい思考になってませんか?」
「よし、ユズル!たくさん子どもを産むぞ!!」
「おーい、人の話を聞けー。その前にする事色々あるでしょうよー。」
「やる事…、、、そうだな!俺達はまだまともなデートすらしてないんだ。行くぞ、ユズル。まずは祭りを楽しむぞ!」
「なんだか思考がしっちゃかめっちゃかでしたが、楽しむのは激しく同意!」
「3ヶ月後には結婚式を目指す。そのためにはいろいろ障害を超えなきゃな。」
「ひぃッ!その障害の中に私の事もちゃんと含んでますか!!?」
「それは今日で何とかする、覚悟しろよ。」
とりあえず世界はまだ平和のままだ。
その後の話は作者の気分次第。
一応これで完結としますが、ミトさんのお悩みだったり、ズズの最初の頃の復讐ひざカックンとかのエピソードが書きたくなったら追加するかもしれません。
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