3-2 魔王と聖女
「では見せてもらおうか、お前の案内とやらを。」
「ふむ。行く前に魔王さんは姿形を変えられますか?」
「ふん。雑作もない。」
「では真っ白なふわふわの毛の子犬になってみてください。
できれば目元はぱっちりで 舌が常にちょっと出てるようなのです。」
魔王さんは手を一振りで姿を変えた。
・・・化け物級のサイズで。
「…良いですが、デカイですかね。
もっとこう、私が抱き抱えられるくらいになりましょう。」
巨大なポメラニアンなど恐怖である。
そして魔王さんと一緒に王宮に転移する。私はまず侍女さん達の休憩所に向かった。
「こんにちはー、差し入れに来ましたー。一緒に休憩いいですか?」
「ズズさん、ええもちろんです!嬉しいわ、最近ここに来てくれなくて寂しかったのよ!」
「差し入れって何ー??」
「はい、このワンちゃんの可愛さをお裾分けしにきました!」
「ギャウッ!?」
「うん、マーくんは良い子だから大人しく出来るよね〜?」
「きゃあああ!!何この子、超カワイイ!!」
「ほんと!ふわふわ〜!あーん、触らせてぇ!」
「順番よ!順番!ねぇ、抱っこできるかなあ!?」
「ねえ、ズズさん!何か食べ物あげて良い?」
「抱っこも撫で撫でも大丈夫ですよ。
恐らく人間の食べ物は大丈夫なので献上してあげてください。」
魔王さんこと、マーくんは(勝手に命名)侍女さん達からミルクやお菓子をたんまり与えられ、お腹をパンパンにさせていた。
「ズズさんが飼うの?」
「いえいえ、この子は実は高貴な子なのでちゃんと帰る所があるんです。
でも皆さんが可愛がってくださるならまた来られるかと思います。」
「じゃあマーくん専用の寝床カゴを用意するわ〜。いつでも来て欲しい〜。」
「じゃ、皆さんの忙しくない時に マーくんなら来れるよね?」
「クゥン?」
「「「「か、カワイイーーー!!」」」」
魔王さんは『あざとさ』を覚えましたね!流石です。
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「・・・ノリノリでしたね。女心を掴む素晴らしい見事な戦術でした。」
「ふん。簡単すぎて拍子抜けくらいだ。それでズズよ、次は何処へゆく。」
「次は美女の嬌態でしたね。では王都中央の娼館へ行きます。」
マーくんはその犬のままで転移する。
「こんにちわ〜仕事前にすみませーん。
今無料マッサージをしてるんですけど、いかがですか?」
「あらズズちゃん。アンタいつマッサージ師に転向したの。」
「まぁちょっと勉強がてら。いちばんお疲れの方から数人マッサージさせてくださいな。」
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「あ…んっ、ヤダ ズズったらこんな技何で隠しもってたのよ…っあ!イイ!そこっ」
「実家が整体院だったもんで。ところで横にオスが居ますけどよかったですかね?」
「アハハ、オスってその子犬?カワイイし、ぜんっぜん構わないわよ。ふうぅ、ああん、もっと強くてもいいわ…アッ、そうよ、はぁああ。」
私はしばしお姉さま方をアンアン言わせて気絶まで追い込んだ。穏やかな睡眠とも言う。
「いかがですか、魔王さん。私の力ではこんな程度ですが。」
「うむ、もっと乱れても良いようだが これはこれでありだな。」
「ちなみに見るだけで良いんですか?男の生理的に。」
「復活前ではだいぶまぐわったからな、よっぽど良い女であれば抱こうが
今日のはその気までは起きん。」
「あれほどの美女達を目にしてまだまだとは…さすが百戦錬磨の魔王さま。」
「見るだけならあれでもまあ良い。」
「それはそれは良いご趣味でらっしゃいます。」
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「してズズよ。次はどうする。」
「血肉を思う存分喰らうのでしたね。良い時間です。では私の行きつけの場所へ」
「いらっしゃいませー!!お二人さまですかー?」
魔王さんには元の姿に戻って角と牙を隠してもらった。
ガヤガヤと騒がしいこの店はマユタがこっそりプロデュースした異世界風居酒屋である。貴賤年齢関係なく飲み食いできるので、市民が馬鹿騒ぎできる限られた場所だ。なので賑わっているといえば聞こえは良いが、騒がしいといえばそれまで。
「おねーさーん、注文お願いしまーす。」
焼鳥のネギマ、ハツ、レバ、砂肝、あと軟骨!
つくねも玉子付けてね。それを2本ずつタレで。
新鮮な豚のレバ刺し、ローストビーフとサイコロステーキ、思いつくたくさんの肉料理を頼んだ。
「あ 先にビールを2杯ねー。」
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「美味しいーー!ホラ魔王さんは多分貧血気味なんですよ、レバーたくさん食べてください。」
「なんだ、貧血とは。」
「血とかが足りないって事。血肉を取りたいって事は多分鉄分が足りてないんじゃないかと思うんですよ。
体質なのかもしれないけど、レバーとかホルモン系を沢山食べれば身体が満足するんじゃありませんかね。」
「難しい話はわからんが、イケるな。味付けも初めて口にするものだな。」
「ここはマユタが吟味して選んだ素材を使ってますからね、牧場から直送で間違いないのです。」
「だが騒がしい店だ。」
「それがいいんじゃないですか。ちょっとサバトみたいで。みんな悪魔のように欲望のままに肉を喰らっているのです。」
「まあそう思えばそうとも言えるか。」
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そして目の前にはただの酔っ払いグダ巻きの美男子が出来上がった。
「だからだな、せっかく復活したのに周りに誰も居ない、居住は荒れ果てて、、我の哀しみなんか誰も理解してくれない!
なあズズもそう思うだろう???」
「そーですねぇ、起きてそうだと寂しいっすよね。分かる分かる〜。」
「分かるとか言ってもお前も聖女なんだから、我の事なんかどーだっていいんだろ?居ない方が平和だとか思ってるんだ!うう〜。」
「私は聖女のカウンセラーみたいなもんですから正確には魔力も人並みでタダの人なんですよぅ。巻き込まれなんちゃっただけの異世界一般人なんですー。」
「そっか、そうかぁあー、お前も辛いとこなんじゃなぁ!」
「でも私はマオーさんの事嫌いじゃないですよー?」
「そうか!?我もズズが気に入ってるぞ!?色々今日は楽しませてもらった!」
「それは望外の喜びに存じます〜!じゃあ良い出会いにかんぱ〜い。」
「おお!乾杯ー!」
何度目かの乾杯をして魔王さんは
「だが!まだお前の案内は続くのだろう?」
「あー、そういえばあとはー
人に争いを起こすのとー
阿鼻叫喚でしたっけねー
どーすっかなぁ。」
うーむと考えを巡らすと
「ユズルーーー!!!!」
「おろ?あ ミトさんだ。」
「おまっ、お前は俺を捨てるつもりなのか!!??」
「ハイ?何言ってます?」
「俺とのデートもまだなのに、男と食事とは、うわ、うわ、う・・」
そこで魔王さんがニマニマしながら
「浮気かと思うたのか?」
「貴様が言うな!!」
「違いますよー。観光案内ですよぅ。この方はマオーさんと言います。案内を最後までしないとこの世界が破滅するのです。」
「ははははは!違いない!!」
「そんなわけあるか!!ズズ、何か俺に不満があったのか?」
「違いますってば。でも強いて言えば今現在周りの視線が恥ずかしくて逃げ出したいくらい恥ずかしいくて不満です!」
「お前が男と2人でなんか食事するからだろうが!!」
私は目を半目にさせた。そしてクルリと魔王さんに向かって言った。
「・・・魔王さん!魔王さんのせいでたった今人の争いが生まれてしまいましたよ!」
「自らが争う事となるとはな!天晴れな案内役だのう!」
「ユズル、だから何の話だ!!!!」
「もー、ミトさんたら本当に誤解なんですってば。私は浮気はしませんって。」
「本当にか?」
「たぶんしないと思う。」
「ええっ!?」
「しないんじゃないかな。まあちょっと覚悟はしておけ。」
「ダメに決まってるだろ!!!絶対許さん!!」
ミトさんは私を抱き上げてこれ以上無いくらい身体を密着させた。
「っわ!ちょっとミトさん!冗談だってばっ!人前っみんなっ見てる!」
「なら絶対裏切らないって約束しろ!!!」
「わーかーったからぁ!!」
それでも離れない。触手か!
周りの客はギャラリーと化し、大盛り上がりで机を叩いた。恥ずい、恥ずかしすぎて死ねる!
そして大騒ぎの中を後光を背負った本家聖女が入ってきた。マユタだ。
「落ち着いて、ディーノ兵長!その言い回しは有名な曲の歌詞よ!」
「よくぞわかったわね、親友マユタよ!早く助ーけてー!」
「おー久しいのう、聖女よ。3年ぶりか?」
「酔っ払った魔王なんて考えられないものを見てしまったわね。しかもズズと一緒なんて。」
「今はズズの案内で新鮮な血肉を喰ろうとる。お前も食うか?特にレバ刺しとやらが美味い。」
「・・・信じられない、気配と魔力は魔王なのにこの変わりっぷり。」
「ズズのおかげで暴れる気は無いぞ?今はまだな。此奴の働きによってはお主らの脅威にはならんかもしれんな、なあ、ズズよ。」
「いいからこの恥ずい状況なんとかしてーー!」
「ズズったら、あんたがディーノ兵団長の欲しい言葉をひとつでも言えば良いのよ?」
「ううううう、もう!
・・・ミトさんミトさん、私にはミトさんだけだから 下ろして?」
首を傾げ、なけなしの可愛さを用いて言った。
「本当か?」
「うん。本当本当。」
「・・・・・・・・」
おかしいな、言葉を二回続けると嘘っぽいと思うマジックにかかったらしい。
「嘘じゃないってば。ミトさんだけ。」
「ユズル・・っ!」
それでもミトさんは頭のネジが吹っ飛んだのか、思い余った勢いで私の口を奪った。
「ムギュ***んが***フググッ!!(怒)」
ギャラリーは大盛り上がり。ヒューとかワーとかおめでとーとか混在した声が店外まで響き渡っただろう。
やっとこさ下ろされた私は最高潮に赤くなった顔を隠すため ミトさんのマントを奪って再びミノムシと化した。
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後のズズ、マユタ、ミトの会話。
「それで、こんな状況になってたのね?」
「そう。あとは阿鼻叫喚で案内終わりだから。」
「信じられないわ〜。何もかもが前の戦いと違ってて。」
「でもまあ魔王さんは多分寂しいんだと思うけど。」
「今のところズズに懐いてるものね。勇者も動けないし他に方法はないわけだから世界の為に頑張ってちょうだい。」
「うん。とりあえず明日も出かけるからよろしく。」
「当然明日は俺も同行させてもらう。ユズルだけでは世界の未来がどうなるかわからんからな。」
「魔王さんが良いならいいですよ。心配ならそう言えばいいのにー。」
ミトさん フンとしてプンと横向く。
「じゃアルヴィン様には私から説明しておくわね。」
ミトさんは市内警備隊員のちくりで
ズズが飲みに行ったのを知りました。
マユタは聖女センサーで魔王復活がわかったのでついていきました。