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1-1 聖女の聖女


凄まじい光に包まれた後 目の先には5年前に居なくなった親友が居た。


「・・・マユタ?いやでも何その格好」


少し大人びて 美しいドレスに身を包んだ彼女は ただでさえ大きな目を大きく開き、こちらを認識した。

ああ、やっぱりマユタだ。


「っっズズ!」


駆け出したマユタが私に抱きつく

親友といえども女の子と抱き合う事は実は平時では無い。いや 人によっちゃあるとは思うがよっぽど感極まった際だろうよ。だが今は平時では無い。


「あ・・・アンタ一体今までどこに居たの!?もう、みんな心配どころじゃなかったんだよ!」


マユタはもう泣き&崩れるという言葉通りにただ私に謝り泣いた。

「ごめん、ごめんズズ!うぅう、ごめんなさいぃ」


ああよかった、生きてるのかもわからなかった彼女はとりあえず見つかった。両親も安心するだろう。

「とりあえず生きててよかった。まぁ まずはマユタのお父さんらに連絡しよう?話はゆっくり聞くから」


ポンポンと背中を叩いて落ち着かせる。ふとその時違和感が私を襲う。


あれ?私は大学のキャンパスに居た。なんだこの景色。中庭?こんな場所学内にあっただろうか。


そして周りを囲むやたらとクラシカルな出立ちのメイドさん、と へ、兵士?なんだここ 某アミューズメント施設に来たような。すごい キャストは外人さんで募集したのか。でもみんな表情からして怖いんですけど。ここまで威圧感出すと娯楽施設としてはやり過ぎ…


「ごめんなさい、ごめんズズ、許して」

マユタはまだグズグズだ。


兵士のひとりがそんなマユタを私から離し、庇うように立ちはだかる。

「ユリカ様 危険です。お下がりください。」


マユタはあだ名だ。彼女のフルネームは相馬由利香ーそうまゆりかーの真ん中の2文字を取って「太」をくっつけて、マユタと呼んでいる。


そして聞き捨てならんがこの兵士。

なんだとコラ ただの女子大生に何の危険があるというのだ。


ズザッ!


そして他何人かの兵士が長剣や槍などを向けて構えた。おいおい、レプリカだろうけど怖いんですけど。

客が先端恐怖症だったらどうすんですか。


「駄目っ!ズズを傷つけないでぇ!」


マユタの必死な顔に私の危機感が煽られまくる。


「マユタ…なんだか元気そうでよかったけど、ドッキリにしてはタチが悪くない?」


マユタを守る兵士が

「ユリカ様に対してなんたる不遜な物言い。おいグスタフ、この女を拘束しろ。まずは調べる。」


後ろから左肩を掴まれる。その力に殺気とまではいかないけれど、圧力を感じて思わず振り向きざまに


バチコォン!!!


…張り手をかましてしまった。

ビンタだと弱く ゲンコツだとやりすぎかって思い止まった自分を褒めたいが、お相撲さん並み、とまではいかないが顔正面への張り手は威力は少ないものの精神ダメージは多めのように思う。言うなれば猫騙し?


案の定 面食らった様な表情の兵士。

その大きな鼻がちょっと潰れたけど、肩から手は離れる。


「なんなんすか、学校内でのイタズラとしても度が過ぎてま」


ドカッ!!!


殴られた。後ろから。なんと卑怯な。

即気絶とまではいかなかったが、目の前がグレーアウトしていく。


マユタが真っ青になって叫ぶ様子が見えたが、何も聞こえない。コンニャロめ、起きたら覚えてろよ〜。


目に見える景色は倒れ込んだため 斜めになりそのまま意識を手放さざるを得なかった。




ーーーーーーーー



「…そなたが心配なのだ。その者は本当に同郷の者なのか?」


「アルヴィン様、そんな事を言わないでください。確かに証明はできませんがズズは私の親友なのです。」


「異世界がどんな所かはわからないがこの者はとてもそなたと気質が違うようだと兵士らが言っていた。

もしかしたら隣国の間者の可能性もある。そなたは拐われて戻ってきたばかりなのだぞ?

我々が警戒するのも致し方ない」


「それでも、殴って気絶させるまではしなくても…!ズズは女の子なんです。万が一傷でも残したら…!」


「やはりそなたは優しい…。そんなそなただからこそ私は守るために万全を尽くしたい。」


「お願いアルヴィン様、せめて鎖は解いてください。ズズは暴力を振るう子じゃありません、召喚された事もわかってないのです。」


「…アレを暴力ではないと言うが、婦人にあるまじき振舞いではある。」


「…それは…でも…」


「世話は侍女にさせる。鎖は重くないものに変更させる。そのズズとやらが安全とわかるまでは見張りはつけなければダメだ。」


「アルヴィン様…」


「泣かないでくれ ユリカ。そなたが泣くと私は心が痛くて堪らなくなる。

なに 数日でわかる事だろう。それまで待っていてくれ、お願いだ。」






そんな話を私は遠くから聞いた様に感じた。ただいま絶賛気絶中なのに。


この不穏な会話。異世界?召喚?

これが夢じゃなければ絶対ラノベ的小説みたいな流れじゃん。


ちくしょー、だとしたらマユタは聖女召喚ってか?異世界転移ってやつか?

じゃあ私は巻き込まれてパターンか?

5年って時差あり過ぎじゃね?


とにかくマユタはこの世界では守られる立場の人間になったという事で安心かな。だとすると、しばらくは自分が無害である事を早めに証明して なんとか元の世界へ帰れる算段を始めなければ…!


うう 帰れるのかなぁ。

やだなぁ このパターンだと帰れなさそうだし

向こうでは行方不明者2ってなったりしそうで不安だ。来週から試験だったのに。そして授業の単位が…。


落第したら授業料どうしてくれよう!召喚をした奴、許さん!



…とりあえず命の危険は無さそうだが

殴られた頭も痛いことだし、まだ寝ていよう。気絶中なのに寝ようとする、大概私も器用だな。


そんなこんなで 試験勉強疲れで睡眠不足な私は結局、1日以上は寝ていたらしい。




********




「………お腹減ったな」

よく寝たので目が覚めた後 案外と冷静に自分の状態を慮れた。しかしなぜこんな時間に起きたのだか。真っ暗だ。夜中か。


不審者扱いされたにも関わらず、牢屋ではなかった様で寒くはない。ちゃんとベッドに寝かされていた。但し足枷付きで。

ただ普段着のままなので服がゴワゴワだ。イヤ、これで着替えさせられてたら逆にやだな。


しかし周りが暗くて何も見えない。そうだよなーここが異世界なら電気とか無いだろうし、魔法とかあったとしても寝てるだけの不審者の部屋までは灯さないだろうし。


しかし喉くらい潤したいものだ。どうしたものかとベッドの上でもぞもぞ動いた

ふと奥の方から


「飲み水くらいは用意してやる。朝になるまで食事は待て」


「どわあぁ!」誰も居ないと思ったら居た!

「ダレですか。暗闇に気配無しの男って怖え!」



暗闇から小さな灯りを付けた男はどうやら見張りのようだ。


「ユリカ様と違って口が悪いな。」


「余計なお世話です。」


「本当に友人なのか?」


「幼なじみというやつですけど。」


「おまえは何故この国に現れたのだ?」


「知りませんがな。被害者に聞かれても困ります。」


「………水だ。」


「…ども」


手渡されたコップの水は常温。冷たいのが飲みたかったが文句は言うまい。ひと口飲んで気がついたのが、この水少し甘い。


「…何入ってるんすか。」


空気が固くなる。男が緊張したようだ。


「別に身体に害のあるものではない。お前が殿下の友人と主張して、それが嘘かどうかを調べるものだ。」


まぁなんと怪しい飲み物でしょう。ただそれで証明できるならこちらも望む所、飲んでやろうじゃないか。


一気に飲み干してやった。

「お代わりください。」


「なかなか度胸がある。」

ククッと男が笑う。

今度は普通の水だった。



「では話してもらおう 名前は?」


「鈴木」


「ズズじゃないのか?」


「それはあだ名です。」


「何処から来た?」


「日本という国の千葉というエリアから」


「目的は」


「勝手に呼ばれたので何がなんやら。むしろ呼んだ奴出てこいって感じ。」


ほんとになんでなんだか。

まぁ取り調べは延々と続き、気がついたら窓からは白んだ空が広がっていた。


男は

「いま体調はどうだ」


「はい?突然ですね。別に何ともありませんがお腹が空いてます。雰囲気としてはカツ丼が出てきて欲しいですが、朝からそれはキツいので平民が食べる定番の物を所望します。」


「…まぁいいだろう。カツ丼とやらはよくわからんが、今用意させよう。」


「ところで嘘つくとどーなるんですか?」


「腹を下す」


「何てこと!身体に影響がありまくりじゃないか!!うそつきー!」


はっと笑いながら男はドアを出て行く

「まだ拘束は解いてやれないのでそこで大人しくしてろよ。朝食を持ってきてやるから。」



なんて恐ろしい…!乙女の尊厳が侵害されるところだった。しかしこれである程度は不信は払拭できただろうか?

何はともあれこの腹下しウソ判定薬の効き目がいつまでなのかが気になる。



持ってきてくれたのは簡素な朝食。

「んで、結局疑いは晴れたんでしょーか?」


もぐもぎゅと朝食を貪り食う。


「微妙だな。嘘はついてない様だが誰に召喚されたのかがわからない事が問題だ。誰かにお前は利用されてるとも言える。」


「それじゃ困ります。私は早く戻りたいんですから。単位が取れなかったらどうしてくれんですか。」

りんごのような果物をあんぐりと丸齧りする。


男は眉をひそめて

「お前は…何というか本当に可憐なユリカ様とは違うな。図太いというか、女とは思えん。

果物を皮ごと食うんもんじゃないぞ。」


…可憐?マユタが?

ほほう、これは聞き捨てならんな。

「ここの世界の常識と違う世界から来たのだからビッグなお世話です。この異常事態で自身を保ってられる自分がむしろ凄いとは思いますけど?


それにこの手の果物は皮に栄養あるでしょうよ。問題ありません。

まあ可憐にしてて私とマユタを家に返してくれるならいくらでもやって差し上げても宜しくてよ。


そこのミルクを注いでくださる?おーほほほほ。」

さてこのくらいのおちょくりでこの尋問男が怒るかどうか。


「マユタというのはユリカ様の事だな…ユリカ様は帰られるわけ無い、この国の未来の王妃なのだから。」


怒らないな、よし。そして本当にミルクを注いでくれるんだ。

「じゃあ無理か…ってー!王妃?マユタが??」


「そうだ。昨年第一王子とご成婚されて今は名実共にこの国の王太子妃様だ。帰るなどもはや無理だろう。殿下が許すわけもない。凄い溺愛っぷりだからな。」


マユタよ。聖女召喚の王道を行くのか…。いやシャレじゃない。

私はマユタを見つけた喜びと安心、そしてしっかり幸せになってたという事実、更に頭のコブの痛さがごっちゃになってしまい

複雑な心持ちになった。


「はぁぁぁぁああ。何てこったい。イヤ、別にいいんだけどさぁ。

もーいいや。今日はもう寝る!」


「おい、朝だぞ。どれだけ寝る気だ」


「試験直前の完徹女子に睡眠欲の終わりは無い。ではオヤスミナサイ」

どうせ明後日の試験には間に合わないだろうし、もはやフテ寝である。


「おいっ、そうはさせない。まだまだ聞く事はあるんだからな。」

男は私の服の首根っこを掴んで椅子に座らせた。


「いやん、エッチー!」


「ばっっ!何もしとらんだろうが!」


この尋問男、案外と純情かもしれないな。お顔が真っ赤ですよ。


結局解放されたのはその日の夕方で

マユタが面会に来れたのはその翌日だった。




********



「はい、じゃあ5年前から今までの経緯は次の通りか?」


この国に聖女召喚されて

めでたく魔王を倒して

王子様に見染められて

幸せに結婚した


「そんでもってチート治癒力を持っているので今でも重宝され、王子とラブラブうっふん溺愛コースってとこか」


マユタは顔を赤くして

「そうだけど…言い方がっ」


「こっちゃ、どんだけ心配したと。しかもマユタがそれに乗っかるとは思わなかったからね。これで転生悪役令嬢とか居たら盛り盛りのコースでおもろいのに。」


「…そういう感じの令嬢は居なかったと思うわ。この世界の 特にこの国の人は基本的に善い人ばかりよ。」


そんな善人に殴られたんだが?

ジト目になる。


マユタは焦って説明する。

「い いまは丁度皆ピリピリしていて、その、先日 私が隣国に誘拐されてたものだから、ズズの事も間諜と勘違いしていたのよ。」


「基本的善人が多い世界で何故誘拐が。どんな愉快な誘拐だ。」


「えっと…その…隣国の公爵様が…」


はい?


「それと…その後別の国の海賊の首領に…」


どういうこっちゃ?


「なんとか逃げ出す時に…大商団の若様にも」


それってアレか?

「つまり、この国のエロエロ色男達に惚れられて大玉転がし風に攫われちゃったって事かい」


「ううー・・・だから言い方がぁ」


「でもそれってちょっと変かも。確かにマユタは可愛いから惚れられ易いとは思うけど、何か特殊なアレ補正がかかってませんかね、アレなチートでステキな転移者用スペシャルスキルとか」


マユタは顔を歪めて

「そうなの…ズズの思ってるやつです。」



あー

納得した。

マユタの言ってるスキルはおそらく魅了だ。元々お目々ぱっちりで小柄で可愛いし、元世界でも基本モテるのよね、この子。


ただし穴もある。


「マユタさんや 貴女の可愛い猫ちゃんは今いかほどのものかしらん?」


「ええと、全身を覆うくらいの大きさになったかと思いますわ。」


「らしくない」


「激しく同意」


「して 今後は」


「現状維持で舵取り ヨロ」


「アイアイ ヨーソロー」


ふたりでこんな会話も久しぶりだ。

ホッとして気が緩む。

「でも生きててくれてよかった。もう二度と無いようにしてよ、親友?」

目に涙が溜まってしまい、上を向く。


「ズズぅ!」

マユタが胸に抱きついてくる。


「何か表現が欧米人になってるよ。だいぶこの国に馴染んでるご様子ね。」

よしよしと柔らかいマユタの髪を撫でる。


「…寂しかったの!ウォルビル国の人達もみんな優しいし、友達だって旦那様だって居るけれど、それでも自分の隙間が全ては埋められなかった…!」


「うん、わかるよ」


「だからズズが此処に居ることが嬉しくて、でもズズの事を考えたら悲しくてっ、申し訳なくって…!」


「うん…うん?」


「だから、できるだけこの国でズズの力に私がなるから!」


「あ ありがとう。

ね、ちなみに何で5年も経って私が召喚されたのかな。魔王はいないんでしょ?」


「・・・・・」


「私、どうやって召喚されたんかね?」


「・・・・・・・・・・」


この空気感と顔には覚えがある。マユタが私に悪戯をした時に言い訳できなかった時だ。


過去にあったこととしては

興味も無い空手部の入部届を偽造され いつの間にか副主将までやらされた。

結果的に楽しく最後まで活動してしまったのが悔しい。


またある時は「ちょっと夜の散歩」とか言って隣の県の大花火大会に拉致された事がある。

案の定、大会終了後、現地ではぐれてちゃっかり先に帰宅をしていたり。「ズズなら大丈夫かと思った。」と平然と言ってのけた。




「まさか」


マユタの顔が引き攣る

「え えと」


「召喚した犯人はおーまーえーかーーーーーっ!!!!」














頭グリグリ、頬っぺた最大伸ばし、鼻フックの刑に処したところで

「だから 最初から謝ってたんかい。」

おかしなとは思ったのだ。マユタは案外と図太い。簡単に謝罪を連発で口にする子ではないのだ。


「えへ。偶然にも召喚術符が誘拐事件の際に手に入ってしまって。

でもズズを召喚!って指定したわけではないのよ。」


「どんな条件だったのさ?」


「私の心を救ってくれる、聖女」


がくっ

「じゃああんたを何とかすれば帰れるってわけか。

なる早で帰りたいんだけど。大学の単位が取れなくなる。」


マユタは思いの外心詰めた表情で

「やっぱりそうだよね…。…うん、なるべくそうできるように頑張るよ。

でももう少しだけ待って」


マユタは神妙になって答える。少し笑った様な、何か諦めた様な顔。



あ、やばい。この顔つきは前にも見た事がある。

「マユタ?本気では怒らないから言って。どうして欲しいの?」


マユタが『良い子』になろうとする時は無理してるのだ。


「…ワガママなのは分かってる。でもまだ此処にいて欲しい。

帰還の方法も術者の消耗が激しいの。簡単に返す事は難しい。」


たぶんマユタは此処に居る事を選んだから自分が帰る事はしないだろう。

だけど理由があって限界に近かった。私が適任だったから呼ばれた。

私はふーと息を吐いて

「わかった。しばらくは居るよ、此処に。」


マユタは困った様な涙を堪えた様な顔をする


「ただし!此処に居る間は便宜をはかってもらうからね!

基本的衣食住の保証と できれば此処で勉強できる学校に通わせてもらいたい。


あと何とか親に連絡する手段を一緒に探す事!行方不明者が2人も出たらまた世間は大変なんだからね!」


「ズズーーー!!大好きーーー!」


「はいはい」



そこでガチャっと開いた扉の外には

顔色真っ青な男性が。

金髪碧眼、見目も麗しく、程々に体つきが逞しい所謂王子様の出立ち。


「アルヴィン様」


ああ、もしかして

「マユタ。もしやこの方は」


「ええ。私の旦那様です。アルヴィン・テンス・ウォルビル王子殿下です。


アルヴィン様、私の親友のズズです。」


ハテこれは、ご挨拶をするべきか。

貴族様ルールでは下の立場から挨拶はしちゃいけないんだっけ。

椅子から立ち上がってなんちゃってカーテシーをする。とりあえず頭下げとけば良い。



王子様の顔は見えないけどなんだか不機嫌そうな雰囲気を醸し出す。

「ユリカの親友にしては雰囲気が違うな。」


いえ そう言われましてもなんと返答すれば良いんだ?えーと。

「お 恐れ入ります?」


王子様は溜息を吐いて

「挨拶の仕方もわからない異世界の客人なのだな。文化が違うのは仕方ないが、いくら親友でも2人きりで男女が同室にいる事は問題だ。以後控えてくれ。」


はい?今なんと?

「「男女???」」

思わずマユタとハモった。



「恐れながら発言の許可をいただけますでしょうか。」


「良い。許す。」


「私は女でございます。」


「何?」


「それとユリカ様とは同い年で幼少期より姉妹の様に過ごしました。なので殿下がご心配される事はございません。」


ええ、今私はパンツルックですよ、しかも身体のラインはダボシャツで隠れてます。なので女には見えないかもしれんですよ。年ごろの女性に比べたら年齢も少々子供っぽいかもしれませんね!


「………そうか。」


冷静を保とうと殿下頑張る。でも目がクルクルと泳いでます。次何言ったら良いかわからないんだよね!殿下ファイト!

早くせい何気にカーテシーキープは辛いねん。


「か 歓迎する。必要な物は事務官に揃えさせるので相談してくれ」


はい是非まずはスカートを!と心の中で言う。



********



数ヶ月を経て、「間違えて召喚されちゃった⭐︎聖女の友達」というポジションに落ち着きました。


一応お客様扱いではあるけれど、王子妃のお付き的な給与を貰ってます。

マユタは「完璧な王子妃」、聖女で優しく可憐。至高の存在!っていうか、神!!…らしい。


なので「異世界の精神安定剤的友人」というのはちょっと対外的にダメとのこと。


私にしたらマユタの評価はとんでもない評価だ。

いえいえ、別に悪い意味は無いけどマユタは案外と図太く、可憐とは言い難い性格をしている。神かよ、ウケるわ。

なのでこの国ではよっぽど猫被り・気張ってるんだなぁと私は実は感心している。


とはいえ折角の彼女の頑張りを台無しにするわけにもいかず。今はただガス抜きをこっそりと行うのみだ。



そんな私に王子殿下からの視線が痛い。


「ズズ殿 またユリカに呼ばれて行ったそうだな。」


「ええまぁ、話し相手にちょっとですけど」


「…ズズ殿と居るユリカは眩しいくらい輝いていると思わないか?」


それはバカ話で盛り上がるからね。

「殿下と一緒の時は花が咲く様な顔をしてますよ。」


殿下は顔をクシャとさせて

「それも良いのだが、だめなのだ。何故ズズ殿にできて私にはできないのだ…!」


「付き合いが長いですからねぇ。」


「…いつからの付き合いなんだ?」


「えーと、10歳から15歳だから5年ですかね。」


「それなら私は15歳から20歳までだぞ…!同じ5年じゃないか!!」

殿下はうわあああん、という擬音語が聞こえそうな突っ伏し方をする。


「あ ほんとだ。」

…フォローにならなかったな。しかし恋する男とはめんどくさいものだ。結婚したくせにまだ満足じゃ無いとか、贅沢な。


「友達と旦那との対応の違いだと思いますけどね。でも 殿下次第かなぁ。」


実は殿下には言ってやりたいことはある。殿下とマユタの会話を聞いていて何か息苦しさを感じたのだ。


「殿下はマユタのもっと喜ぶ顔が見たいんですよね?」


「無論だ。」


「うーん、なんて言ったらいいのかな。マユタの事をもっとよく観察したらいいというか。」


「いつも穴が開くほど見ている!大切に守っているつもりだ!ユリカの欲しい物は何でも与えているし。だがユリカは慎ましいからあまり求めてくれない」


殿下は不貞腐れる様に机に突っ伏す。王子としては残念な姿だなあ、おもろいけど。


「一点集中で空くほど見るんじゃなくてですね、俯瞰して見ましょうよ。

あなたマユタの事好きすぎておかしくなってません?」


殿下はキリっと

「好きすぎなのは認める。」


「マユタの求めてるものは物じゃ無いんですよ。殿下を含めてこの国の人達は優しいです。だからマユタはこの世界に残る事を選んでるわけで。


でも、殿下の愛し方って真綿で包む様で熱苦…ゴホゴホ、息苦しそうなんですよねー。思い切り呼吸のできる自由なところも作らなくっちゃ。1日ひとりで外歩きとか。」


「今熱苦しいとか言ったか?

まぁいい。ユリカは優しく弱い。私が全方位で守ってやらねばいけないのだ。護衛も無しに歩くなどさせられない。」


うわー、ウザい、殴りたい。だがこれは王族でマユタの旦那様…!

「そーですかね?じゃあ明日面白いものをご覧に入れましょう。明日室内運動場の袖に隠れていてください。」


まあ私の浅知恵なんてそう上手くいくかわからないけど、マユタはもう少し自分を出しても良いんじゃないだろうか。





ということで。

「マユター、久しぶりに朝稽古付き合ってよー。」


「ええ〜?王子妃が空手やってるの見られたらイメージ崩れるじゃない!」


「だいじょぶだいじょぶ、誰も使ってない部屋見つけたから。」


ほぼ無理矢理だがユリカも空手部員。しかも私より先に入門するような奴だ。


道着は男物のステテコみたいな下履き(新品)と厚地のナイトガウンで代用する事ができた。まぁこちらの世界ではほぼ寝巻きだ。


ウォーミングアップ後に軽い組手、やり始めるとユリカの方がのめり込んでしまった。


「ま、マユタ、ちょい待った!」


「もうへたばったの?もう少し付き合いなさいよ!」


「まったく、聖女じゃなくて勇者でもよかったんじゃない?」


「流石に素手で魔物退治は無理よ。でも剣とかあったらやれてたかもしれないなぁ。一緒に行った勇者がたまに危なげな時とかかなり攻撃力としてコッソリ活躍したもん。」


「なぜ王宮でそれ隠すかね〜」


「アルヴィン様はたおやかな女の子の方が好きなのよ!ゴリラ女は嫌われる!」


「だってー、ほんと?、殿下〜」


緞帳の端から皇太子王子殿下がキリリと現れる。


一応王子殿下は美形切れ者の筈です。

マユタに関すると途端にポンコツ扱いになります。

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