農家が過度に保護されているという指摘へのアンチテーゼ
日本の農業政策や農協や農政官僚や族議員の既得権については否定できない部分があると筆者も思っています。
タイトルに悩みましたが、素直に書かせて頂きました。
本エッセイは自由貿易に関する拙著のエッセイに我が国の農業従事者が過剰に保護され国際競争力をなくしている、という感想にたいして、その認識は間違いとは言い切れないが、こういった側面もあるのだ、ということを理解して頂きたく筆をとったものです。
始めに
筆者は農業従事者ではありませんが農業生産に必要な資材を販売提供する民間企業の社員であり、多くの営農者と関わってきた、謂わばインサイダーの側に立っておりますから、アウトサイドの方からの批判は甘んじて受け入れる所存です。
では、本稿では
1 日本の農業の保護の実態
2 欧米での農業の保護の実態
3 中国の農業の実態
4 アメリカの大規模農法の実態と問題
5 農業を保護しなければならない理由
6 筆者の見解
と進めて参ります。
1 日本の農業の保護の実態
我が国ではてんさい栽培にたいする戸別保障を除けば2010年まで戸別保障はありませんでしたが、2010年、アメリカやヨーロッパを参考として米の戸別保障制度がつくられました。
この制度はヨーロッパほど手厚いものではないものの、アメリカのように農産物の市場価格が農業従事者からの買取り価格を下回る場合に補填が行われるものです。そして、欧米と違い、現状では戸別保障の適用は米にとどまっており、その他の農産品に保障金はありません。
助成金としては、個別の申請が受理されることでハウス設営や害獣駆除設備などで一部が助成されます。
生産保障に関しては共済や農業保険の加入が前提であり、全額の保障はされません。ですから、共済に入っていても損害は出ますし、未加入なら保障はありません。
どうでしょうか、思ったより補助や助成が少なく感じませんか。メディアの言うようなじゃぶじゃぶと資金が投入され保障されている実態はありません。
2 欧米での農業の保護の実態
先ほど、日本の戸別保障制度は欧米を参考として作られたといいましたが、豊かな農地を持つヨーロッパでは戸別保障が充実しています。
日本やアメリカの制度は価格の変動に応じて損害を補填するかたちですが、ヨーロッパでは固定の保障金が支払われることで国際競争力を担保しています。
アメリカでは大規模農地で作られた農産品を輸出するさい、政府が膨大な補助金をかけることでダンピングを行い、輸出先の農産業を潰して自国のものへの依存度を高める攻撃的保護政策で競争力を高めて来ました。
3 中国の農業の実態
中国では都市部の収入と農村部の収入で実に3倍以上の開きがあり、また農村戸籍と都市戸籍では受け取れる年金が6倍も違います。
中国では農村戸籍に産まれれば農業従事者にならなければならず、このような格差から嫁の成り手、後継者不足が深刻なために、都市部から子供を攫い、農村に売る人身売買が組織化して横行しています。
4 アメリカの大規模農法の実態と問題
アメリカやオーストラリアの大規模農法は広大な土地を耕作機械を使い、耕し、作付けし、農薬散布、肥料散布を行い、収穫するもので、水源は地下水脈からポンプで汲み上げています。
単一品目を多収生産することで世界の穀倉地を維持しているわけですが、デメリットは単一品目であるがゆえに病気によわく、病気になれば全滅するリスクが高いことがあげられます。
そもそもこうした大規模農地は先住民から奪い、莫大なコストで水源を枯渇させるまで地下水をくみあげ、収穫量や病気対策に過剰に肥料が入り、農薬も同様、土を壊し水源を枯渇させても一度病気が入ればとたんに危機になる。こうした問題がありますね。
そして、コストに見合う収益が出ない分を補助金で補われているわけです。グリーンニューディール政策でとうもろこしによる、バイオ燃料に多額の補助金が出たさいには、燃料用が補助金によって高額取引されると、そちらばかりに買取りが集中し、オーストラリアの干魃もあって、世界的なとうもろこしの供給不足と高騰を引き起こしたこともありました。
5 農業を保護しなければならない理由
まず、農業は安全保障上、とても重要です。
先ほどのとうもろこし高騰の例では、メキシコなどとうもろこしを主食としながら、アメリカの攻撃的保護政策により、国内のとうもろこし生産が壊滅していた地域では、主食であるにも拘らず、下層階級はおろか、中層、上層階級すらとうもろこしが買えなくなりました。当たり前ですね、入ってこないんですから、配給のように、1世帯あたり決められた量しか販売出来なくなったんです。
農業生産品は工業生産品と違い、逓減する、投資して、規模を拡大するほどコストにたいする収益が縮小する産業構造があることがわかっています。
だからこそ、各国は手厚い保護によって国際競争力を維持しています。でなければ、競争力が低下するばかりか、労働環境の厳しさにたいして得られる収益の低い農業の成り手はいなくなってしまうからです。
はっきりいって我が国の農業政策はダメだと思いますが、米の生産農家の平均時給が最低賃金を下回る水準であることで国内自給率が維持されている現状を改善すべく、様々に取り組もうとしていることは確かです。
ですが有権者の支持が得られず、財源もないなか、思いきった保護政策を打てないのも事実です。
6 筆者の見解
異論はあろうと思いますが、
農家が補助金じゃぶじゃぶで儲かっているなら、後継者問題で悩むことも、耕作放棄地に人を呼び込むため、各地方自治体が助成金を出して若い方を呼び込むこともありません。
東大出身の若者がこうした助成金制度にビジネスチャンスと飛び込んで赤字続きでIT企業に勤めていたときの貯金を失った話をニュースで見たことがありますが、この若者も農業を工業と同じ感覚で捉えてビジネスモデルを作っていたと感じました、それではうまくいかないのです。そして、効率化を図ったところで結局きつい仕事が多いのが農業なんです。
このまま、後継者不足が続けば日本の農業はより衰退していくでしょう。
農家さんたちは日々、努力しています、気候の変動、資材の高騰、コロナによる消費動向の変化、そうした中で、どうしたら品質を維持して、より収量を増やし、高く買って貰えるか、一人ひとりが社長さんである農家さんは明日の生活のため、雇っている期間労働者の生活ため、必死なんです。
その事は理解してあげてください。
ご意見お待ちしています。