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魔法使いになりたかったわたしの魔法学院生活  作者: 工藤 奈央
第一章 最果ての魔法使いとわたし
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魔力測定

 サンサンと光り輝きながら号泣しているわたしに、アライナティアス様は毛布を投げてよこしてくれた。

 興奮を抑えきれなかったせいでまた毛布をかぶる羽目に!発光するのやめたい!

 もそもそと頭から被り、全身に巻きつけるようにする。

 アルファータ様は、わたしが毛布に隠れると目を覆っていた手を降ろし立ち上がった。わたしに向かって歩いてくると、エレノグレース様と同じようなベルトから透明な魔石を取って渡してくれる。

 おそるおそる受け取るが案の定一瞬で染まった。その魔石を見たアルファータ様は、あろうことかカップを取り出して大きくするとわたしに抱えさせるように持たせた。そのまま、ガシッと抱きかかえられる。


「っある……ふぁった…さ、ま…なにをっ……!?」


 泣いているせいでうまく話せない!

 アルファータ様は、拒否しようと身体を捩るわたしを無視して、抱きかかえたまま椅子に戻る。わたしを膝に乗せるように座ると、盛大にため息を吐いた。わたしの前にはにやにやと笑っているアライナティアス様がいて、アルファータ様とわたしを見比べている。


「アルファータも回復薬を作るつもりか?」

「光の魔力は貴重だ」

「幼気な子供の涙を回収してでも、か?」

「……うるさい」


 うるさいじゃない!わたしの涙を回収するなっ!

 しかし、がっちりと抱きかかえられている。エレノグレース様といいアルファータ様といい、わたしのことを一体なんだと思っているのか。


「少しも落ち着かないな。リリマリア、少しは自分でも抑える努力をしなさい」


 そんなこと言われても……と思ったところで気が付いた。

 フラスコに蓋をしてみたらどうか?熱したことで蓋が吹き飛んでから、特にしていなかった。蓋をすれば溢れ零れなくならないかな?魔力が膨れたときにフラスコが大きくなる気はするけれど。

 目を閉じてフラスコに意識を集中させる。

 ちょっと見ない間にまた巨大化してない?

 蓋が見つからないので、鮮明に思い浮かべて出現させた。今度はコルクじゃなくてガラスだ。

 この方が丈夫な気がするし!

 どぱどぱ溢れる魔力を押し込めるように蓋をすると身体の輝きが落ち着いていく。

 魔力に意識を集中させたおかげで興奮も少しずつ落ち着き、しばらくすると涙も止まった。


「……落ち着いたようだな。君の魔法好きは聞いていたが、まさかいつもこのようになるのか?」

「はあ、まあ、だいたいは……」

「魔力が多い者はいろいろと悩ませられるが、光るとは面白い!興味深いな」


 眉間に皺を寄せたアルファータ様とは対照的に、楽しそうなアライナティアス様。

 アライナティアス様はさっきからずうっと楽しそうだけどね!


「何か対策を考えなければ、魔法を教えるのが躊躇われるな……」


 そ、そんなっ!それは困る!困るよ!

 なんとか興奮は抑えるから魔法は教えてください!アルファータ様!


「あのっ!アルファータ様に言われたので、魔力の容器に蓋をしたのです!蓋をしたら落ち着いたので、大丈夫です!興奮も抑えます!抑えますから、そんなこと言わないでくださいぃ!」


 まさにこれが興奮に繋がるのでは?と頭の片隅で思ったけど、きちんと蓋をしたせいか魔力が動いても溢れる感覚がない。


 これなら、大丈夫です!大丈夫ですから!


 なんとしても魔法を教えてもらいたいわたしはこの感覚をわかってもらおうと、必死で言い募る。カップを抱えたままなんとか体の向きを変えると、アルファータ様を見上げてお祈りスタイルでお願いした。


「お願い!お願い!お願いっ!教えてください、アルファータ様っ!」

「ここまで言っているのだ。教えてやったらどうだ、アルファータ」


 背後から、アライナティアス様の声が聞こえる。


 アライナティアス様!女神様!もっと言って!


 両手をすりすり摩りながら、必死にアルファータ様を見上げる。


 お願い!お願い!おねがぁーい!


 アルファータ様はわたしから注がれる視線から逃れるように目を逸らすと、大きくため息を吐いて、「わかった」と言ってくれた。


 わたしのしょおぉぉーりっ!!


 魔法教室を勝ち取ったわたしは思わず両手を振り上げて、その勢いのままアルファータ様から落ちそうになった。慌てたアルファータ様がわたしを抱き上げる。その弾みでカップが床に落ちて、盛大に音を立てたのだった。


 まずは、魔力測定からすることになった。子供らしからぬと評される魔力量と濃度の測定だ。

アルファータ様が出してきた測定器と思われるものは、四角い板に大きな魔石がひとつ、小さな魔石がいくつもずらずらと並べられていた。魔石は魔方陣に添えるように配置されている。

 真ん中の大きな魔石に魔力を流すことで、魔石が染まり量も濃度も測定できるようだ。濃度は真ん中の魔石の色、量は小さな魔石の染まった数で判断するらしい。


「濃度まで測る必要があるのか?」


 アライナティアス様が測定器とわたしを見比べて、アルファータ様に問いかける。


「教えてもいないのに魔力の濃縮をしているらしい。エレノグレース様から測定をお願いされている。ここに来るまで半信半疑だったが、先ほどの魔石の色を見ると測定しておいた方がいいだろう」

「まぁ、確かに?」


 口角を上げたアライナティアス様の目は興味で輝いている。

 アルファータ様はわたしに測定器を持たせようとして、子供が持つサイズではないと判断したのかテーブルに置いた。椅子に立つように言われたので行儀は悪いが仕方なく立ち上がる。


「リリマリア、中心の魔石に魔力を流せばいい。子供なら小魔石はだいたい10個程染まる。わかったか?」


 わたしを覗き込むように見るアルファータ様にコクンと頷いて返事をすると、静かな声で「はじめなさい」と言われた。

 そっと手を伸ばして、大きな魔石に触れる。魔石を掴むように手のひらを広げ、魔力を流した。小さな魔石がパッパッパッ!と白く色を変えていく。大きな魔石は透明からゆるゆると少しだけ時間を掛けて、透明度のまったくない真っ白へと染まっていった。

 上から覗き込むように見ていたアルファータ様から大きなため息が、アライナティアス様からは「ぴゅぅっ!」と口笛が降ってきた。


「アルファータと並ぶのではないか?」

「アライナティアスの魔力量は超えているな」

「私の魔力は大した量ではないだろう。まぁ、子供には負けないと思っていたが」


 そう言ったアライナティアス様が椅子に立ったままのわたしを抱き上げて、顔を覗き込んでくる。


「リリマリアはすごいな!……魔力の濃縮以外になにかしているだろう?」

「そういえば、先ほど興味深いことを言っていたな。容器に蓋をするとか……?」


 ん?魔力のフラスコを大きくしたこと?

 エレノグレース様は特に何も言ってなかったけど、もしかして普通にやることではないのか?

 ……これってアルファータ様達に言っちゃっていいこと?だめなこと?

 考えてみるが、真っ直ぐ覗き込んでくるアライナティアス様の目から逃げられない。

 逃がすつもりがないことがうかがえます!どうしよう!

 とりあえず、容器があるかどうかだけでも聞いてみようか。


「えっと……、自分の中心に、魔力を蓄える容器みたいなものってありませんか?」

「……容器?」


 高い高いスタイルで持ち上げられていたわたしを胸元までおろしたアライナティアス様が、腕に座らせるように抱えなおすと問いかけてくる。


「はい。容器です。わたしは魔力の中心に意識を集中させたときに見つけました」

「ああ。なるほど。フラスコのことか?」


 静かに聞いていたアルファータ様がゆっくり息を吐きながら、目を閉じている。魔力の中心に意識を集中させているようだ。

 それを見たアライナティアス様も同じように目を閉じて深呼吸を始めた。

 え?わたしを抱きかかえたままやるの?


「それで、どうするのだ?」


 あ!やば!生まれつき大きいんですって誤魔化すつもりだったのに、すでに二人ともこの先を期待している。えぇ……なにもないとは言いづらい。


 ……口止めしよう!うん。そうしよう!


「一般的かわからないので、これからお伝えすることは誰にも言わないと誓ってくださいますか?誓ってくださらないのであれば、言いません」


 目を閉じて深い呼吸を繰り返していたアルファータ様が、わたしの方に体を向けて言った。


「魔力の量を増やす方法や濃縮方法は基本的に秘匿するものだ。増やしたところで、それを広めてしまえば、意味がなくなるだろう。私は口外しないことを誓おう。……君のやり方を聞くかわりに、今回教える魔法はすべて君の希望に応えよう。どうだ?」


 楽しそうに少しだけ上がった口角に興味が揺れる瞳、今までで一番自然な表情な気がする。

 それに、なんて素敵な提案!

 どんな魔法を教えてもらうか、考えるだけで胸が高鳴ってきちゃう!


「アライナティアス様はどうしますか?」

「口外しないことを誓うのは構わない。しかし、私には今、アルファータのようにリリマリアにしてあげられることがないな。……どうしたものか」


 アルファータ様が急に返礼を出してきちゃったもんね。確かにそれは困るか……。でもアルファータ様からもらうのに、アライナティアス様からは何も要りませんとはできないし……。


「アライナティアス様は学院でわたしと関わることになるとおっしゃいましたが、学院での関係者なのですか?」

「ああ。私は火の魔力の講義を受け持つことが決まっている講師だ。ついでに、旅に出る間はリリマリアのいる班の護衛もすることになっているぞ」


 旅の間の護衛!アライナティアス様の協力が得られれば簡易食を食べないで済むんじゃない?エレノグレース様があそこまで言うなんて!絶対にやばいやつ!絶対に食べたくない!


「アライナティアス様。わたし、どうしても簡易食が食べたくないのです!旅の間、料理を致しますから食材の確保にご協力いただけませんか?」

「食材の確保?狩りをしろということか?それは、構わないが……。確かに見た目は悪いが味はそこまで悪くないぞ」


 カルディナさんと同じことをいうアライナティアス様をじろりと睨んだわたしは、首に回していた腕に力を込める。


「絶っ対っに、食べたくないのです!」

「わ、わかった。ならば、リリマリアのやり方を聞くかわりに旅の間の食材は私が確保しよう!アルファータにも協力させるから安心していいぞ!」


 目を見開いたアルファータ様がアライナティアス様の方を見る。


「アライナティアスッ!?……まったく。わかった、いいだろう」

「ありがとうございます!それでは、お二人ともっ!魔力のフラスコに意識を集中してくださいませっ!」


 こうして、二人から返礼を約束してもらったわたしは、魔力のフラスコに自分がしたことを伝えた。さすがに熱して蓋を吹き飛ばした話はしない方がいい気がしたので、魔力の容積を増やしてフラスコを大きくした方法だ。

 アルファータ様の話によると、フラスコは大人になるにつれて大きくなるものなので、自ら大きくするために何かすることはないらしい。

 アルファータ様もアライナティアス様も年齢的にこれ以上大きくなるはずはなかったようで、わたしの方法で大きくできたことに喜んでいた。

 しかし、わたしのようには膨らまず、結構無理やりに大きくしたようだった。二人ともぜいぜいと息を荒げ、疲れた顔をしている。

 若いうちはフラスコが柔軟ってことだよね?魔力のフラスコを大きくするのは子供のうちにやった方がいいってことか。

 現状はすぐに発光してしまうのでフラスコの大きさは変えたくないけれど、大人のアルファータ様よりも少ないのであれば、ちゃんと考えておかないとならない。

 魔法使いになるための魔力が足りないとなったら……。

 想像して寒気を覚えたわたしは、測定器を使いながら盛り上がるアルファータ様とアライナティアス様を見ながら、定期的にフラスコを大きくすることを決めた。


 まさか、アルファータ様の魔力量が魔法学院随一と言われていることを知らずに。


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