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魔法使いになりたかったわたしの魔法学院生活  作者: 工藤 奈央
第一章 最果ての魔法使いとわたし
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アルファータの来訪 前編

 夏の間、カルディナさんの料理教室のあと三人で食事をして紙に書いたレシピを受け取るという楽しくて穏やかな生活が続いていた。エレノグレース様が作ってくれたフードプロセッサーもどきが大活躍でひき肉料理がよく食卓に並ぶようになった。

 わたしが意地になって使っているのだけど!

 だんだんと夏も終わりに近づき、秋の気配が深まってくる。昼間は日差しが強いけれど、夜になると冷え込むようになってきた。


 冷たい風とともに風魔法で届いた手紙にはアルファータ様の来訪予定が書かれていた。


「エレノグレース様、アルファータ様がいらっしゃるようですが何か準備をするものはありますか?」

「そうねぇ。最近は発光することもないし、落ち着いているのだけど……。リリマリアの魔力の量と濃度を確認しに来るわけだから。……まさか、さらに魔力の濃縮なんてしてないわよね?」

「し、してないです!もう発光したくありませんし、すでに子供らしからぬ量なのですよね?もっと増やせば特別な魔法とか使えるならやりますけど」

「リリマリアは魔法に関しては貪欲よね」


 エレノグレース様はクスクスと笑いながらわたしの頭を撫でる。その手を掴んでじっと見据えると、何度となくお願いしていることを伝えた。


「それはわたしの夢が魔法使いだからです!エレノグレース様!いつになったら教えてくれるのですか!」


 制服の準備に料理、魔石の染め方や魔力の流れに関しては準備もしたし教えてくれる。しかし、エレノグレース様は一向に魔法を教えてくれないのだ。魔法学院で習うのだから大丈夫とは言われるものの、入学前に少しくらい使えるようになっても問題はないはずだ。

 こんなにお願いしているのに!切望しているのに!


「うーん……。私の魔法はちょっと癖が強いというか独特なのよね。入学前に変な癖は付けない方がいいと思うの。……そうだわ!アルファータ様にお願いしてみましょうか?」


 なんて素敵な提案ですか!エレノグレース様!

心躍る提案にエレノグレース様へ感動の眼差しを向けると、思いっきり頷いて「お願いします!」と抱きついた。


「じゃあ、魔法でお手紙を送りましょう!教えてあげられないけど、見せてあげられるわよ!」


 エレノグレース様はそう言って、白い紙と封筒を取り出すと手紙を書き始めた。滑るように紡がれる文字はとても美しい。ほぅとため息を吐いてしまうほどきれいで、わたしの大好きな文字だ。


「よし!できたわ。それでは、リリマリア。しっかり見ていてね!」


 魔法使いの杖を出したエレノグレース様は、杖の先で魔法陣を描き出す。文字を書く時と同じくらい美しい魔法陣だ。描きあがった魔法陣はキラキラと金色に輝いている。手紙をパサリと置くと、魔法陣も手紙も膨れ上がるように金色の光に包まれる。ふわりと輪郭が揺らいで、小鳥に姿をかえていった。

 あらわれた小鳥はばさりと羽を広げて、窓から飛び立つ。

 その様子を見ていたわたしの顔には熱がどんどん集まってきて、心臓は高鳴り、息が上がっていく。目尻には涙が溜まってきたが、なんとか泣くのだけは堪えた。


「エレノグレース様!素敵です!アルファータ様からのお手紙はそのまま届いたのに、エレノグレース様のお手紙は小鳥になるのですね!」

「良い反応だわ!嬉しくなっちゃう!私の魔法はね、アルファータ様の手に止まって手紙に姿を変えるのよ。すてきでしょう」


 アルファータ様とは違う魔法の手紙に大興奮のわたしはエレノグレース様におねだりして、わたしにも送ってもらった。

 寝室で待っていると、星屑みたいな金色の粒を纏った白い小鳥が飛んできて、わたしの手にそっととまった。ゆらりと輪郭が揺らいだと思えば姿をかえていく。キラキラと輝きながら手のひらにおさまった手紙にはエレノグレース様のきれいな文字で「おやすみなさい」と書かれていて、あったかくて幸せな気持ちになる。わたしは、思わず手紙を胸に抱いて眠りについたのだった。


 ――翌朝。まだ、空が白やむ前の早朝。

 バタバタと騒がしい足音で目が覚めた。

 ……エレノグレース様が起きるには早すぎませんか?

 ぼんやりと半分しか開かない瞼を擦りながらゆっくりと起き上がると、扉越しにエレノグレース様の呼ぶ声が聞こえる。


「リリマリア、ごめんなさい。起きてもらえるかしら?」


 なんだか急を要する声音に、ざわりと肌が粟立つ。

 何かあったのだろうか?


「エレノグレース様!おはようございます!すぐに準備をすませますので少しお待ちください!」


 大きな声で伝えたわたしは、ベッドから飛び降りると手早く準備をした。

部屋から出ると、エレノグレース様は玄関先で待っていた。手には大きなほうきと先日使ったカップを持っている。

 一瞬で大きくしたカップを床に置いたエレノグレース様は、覗き込むようにわたしに誘導する。カップの水面が金色に輝くと森の景色が映し出された。……数人の人影?


「アルファータ様!?」

「そうなの。予定より早いのだけど来ちゃったみたいなのよ。……なんだか怒っているみたいで、水の小鳥を3羽も切って捨てやがっ……切り捨てられてしまったの」


 水の小鳥はエレノグレース様の魔法だ。カップの中のお水から作られる小鳥で最果ての森やお屋敷のそばを飛びながら、監視カメラのような役割を果たす。前世の記憶が戻って倒れたときもエレノグレース様を呼んでくれたのは水の小鳥だった。


「迎えに行かなくてはならないのですよね?」

「彼なら結界を破ってでも入ってきそうだけど、壊されるのは困るからね。……なぜ怒ってるのかしら?」


 エレノグレース様は頬に手をあてて首を傾げる。


「とにかく行きましょう。リリマリアもいらっしゃい。ほうきに乗せてあげるから」


 ほうきで飛ぶ魔法使いリベンジのチャンスがこんなところで!クレア様に吊るされた記憶はなかったことになっているので、ほうき初体験のわたしだ。

いつもの如く、興奮して顔が熱くなってくる。痛いくらいに高鳴る胸を抑えて、エレノグレース様と一緒に庭にでた。

 エレノグレース様はほうきに跨ると、わたしを「よいしょっ!」とこの世界では滅多に聞かなさそうな掛け声とともに抱き上げた。ほうきに跨がらせるとわたしのお腹を支えるように手を添える。


「危ないから興奮しすぎないようにお願いね!リリマリアもほうきを持って。さあ、行くわよ!」


 すでに涙をぼたぼたと零しながらぼんやりと輝き出してしまったわたしには無理なお願いだったが、エレノグレース様を振り返ってコクコクと頷くとほうきをぎゅっと掴んだ。

 息が上がってしまって話せないけど、善処します!

 わたしを覗き込んだエレノグレース様は「相変わらずすごいわね」と困ったように笑うとお腹を支える手に力を入れた。


「飛行!」


 クレア様がほうきで飛んだときと同じ呪文が聞こえたかと思えば、ブワッ!と一気に空高く登り、瞬く間に森へ飛び出す。スピードは間違いなくジェットコースターだ。涙はすごい勢いで背後に向かって流れ、ワンピースの裾がバタバタとはためく。

 ちょっ!なんてスピードで飛ぶのですか!エレノグレース様あああぁ!!

 あっという間に森の入り口が見えてきて、強風で乾いた視界にアルファータ様と他に2人の人影をみつけた。

 急ブレーキをかけるように止まったほうきは緩やかに降りていく。エレノグレース様は地面に降り立つと、わたしをゆっくり降ろしてくれた。

 あ、ちょっとぐらぐらします……。


「アルファータ様。予定より随分早いのではありませんか?」


 早く来たことを怒っているのか、水の小鳥のことを怒っているのか。

 エレノグレース様の声には少しだけ怒気が混ざっている。

 じっとりとアルファータ様を見据えたエレノグレース様の言葉に、わたし達の姿を認めた彼は、額に手をあて横に降ると俯いて大きな重いため息を吐いた。


「私としても予定を繰り上げるつもりはありませんでした。……一旦お屋敷にご案内いただけますか。お話ししたいことがございますので」


 アルファータ様は顔をあげると先日とはまったく雰囲気の違う笑顔を湛えていた。あの美しい顔が神々しく妙な色香を滲ませた微笑みで彩られている。

 この笑顔を女性に向けたら何人が倒れるだろう……。

 しかしなぜか、背後に漂う空気には好意的な印象が全くない。間違いなく怒っている。そういう空気しか感じない。

 怖くなったわたしは思わずエレノグレース様のスカートを掴んでぎゅっと引き寄せた。


「……わかりました。お屋敷に向かいましょう。こちらを飲んでくだされば、結界を通れますわ」


 小さく息を吐いたエレノグレース様はベルトから試験管のような容器を取り出すとアルファータ様に渡した。3人分だ。

 アルファータ様は訝し気に受け取るとじっくりと容器を見て、眉間に皺を寄せる。


「毒など入っていませんわ。ここは怪我人を受け入れることも多いので回復薬としても使える物にしてあるだけです」


 アルファータ様の眉間の皺はまったく緩まないけれど、諦めたのか後ろに仕える二人にも渡す。騎士の格好をした女性と、多分……従者の男性だ。そのうち従者の男性が回復兼結界を通るための薬を一気に飲み干した。飲んで数秒、身体に異常がないか確認すると試すように結界に向かう。するりと通り抜けた。

 安堵の息を吐いたアルファータ様は、騎士の女性と同時に薬を飲み干す。

突然、アルファータ様が白い光に包まれた。ブワッと広がった光は、ゆっくりと降り注ぐ。


「これは、一体……」


 ますます眉間の皺を深めたアルファータ様は呟いた。両手を掲げて確認するように手のひらをかえす。


「あら、アルファータ様は幸運ですわ。新しく作った光の魔力入りですのよ」

「光の魔力……?」


 アルファータ様はエレノグレース様に隠れるように立っていたわたしを見た。わたしはふるふると首を振って、アルファータ様から逃れるようにエレノグレース様の後ろへ下がるとスカートを掴んでいた手に力を入れた。

 光の魔力は確かにわたしが関係していると思いますが、エレノグレース様の作った薬のことは存じ上げません!


「そう光の魔力ですわ」


 エレノグレース様は楽しそうに口元を緩める。


「リリマリアの涙入りですの」


 わたしの悲鳴とアルファータ様のせき込む声が重なった。


長くなったので前後編になりました。


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