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魔法使いになりたかったわたしの魔法学院生活  作者: 工藤 奈央
第一章 最果ての魔法使いとわたし
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わたしの魔力

「……つ、つかれた」


 今日一日、泣きすぎたせいか涙腺が馬鹿になっていて、まったく涙がとまらず。エレノグレース様にずっと頭を撫でてもらうはめになった。あまりの子供っぽさに恥ずかしくなる。 ……子供なのだけど!

 エレノグレース様が泣いた理由はなんだったのかわからない。わたしが泣き止むころにはいつもどおりの笑顔で、聞きづらくなってしまった。

 ベッドにごろりと横たわると、染めたばかりの魔石を手に取って覗き込んだ。透明だったはずのそれは白く染まっていて、その色は光の魔力を意味している。

 わざわざ初対面のアルファータ様と話をしたエレノグレース様。学院にも味方がほしいと言っていた。そんなに光の魔力保持者って危険なのかな。王族独占魔力。王の器といわれる魔力に関してはわからないけど、とりあえずすごく少ないってことだよね?なんかすごいことができたりするかな!?

 わたしは勢いよく起き上がると、両手で魔石を持ち直してぎゅっと握った。


「よし!」


 目を閉じて、魔石に魔力を流し込んだ感覚を思い出す。光の魔力だからか、わたしの中を流れるそれは白い。深呼吸をしながら自分の中に沈み込むように魔力の中心を探すと真ん中にはフラスコみたいな容器があった。

 このフラスコが魔力の容器だとすると、小さくない?どう見ても漏れている。これ、大きくできないのかな?

 わたしは漏れている魔力をきちんと収めたい衝動にかられ、どうすればフラスコを大きくできるのか考える。……とりあえず、魔力を全部、フラスコに集めてみよう!

 ふわふわと漂う魔力をフラスコに集めていく。フラスコの中はあっという間にいっぱいになったが、やっぱり入りきらない。ぐっと気合を入れて無理やり詰め込んでいく。――瞬間、フラスコが膨らみ始めた。息を吹き込んで膨らむ風船のように、魔力を詰め込めば詰め込むほど膨らんでいく。

 魔力が抜けたら、縮む……かな?風船のように動いたから、魔力を取り出せば戻ってしまうのではないかと不安になったわたしは、おそるおそる少しだけ、魔力をフラスコの外に流した。……あ、大丈夫だ。フラスコは縮むことなく、膨らんだ大きさを保っていた。

 なるほど。ならば……!

 わたしはいったん集めた魔力を再びフラスコの外に出す。そして、魔力を薄めて容積を増やすことにした。容積を増やして詰め込めば、もっと大きくできるよね?

 魔石を握る手に力を込めると、すぅっと大きく息を吸い込んでいく。なにで薄めればいいのか想像できなかったので、空気を使うことにしたのだ。

 クレア様が言った土地の魔力という言葉。土地にもあるなら、空気にもあるだろうという希望的観測からだけど、これは思いの他上手くいった。吸い込む空気を魔力に混ぜることができたのだ。薄まっているのかは、いまいちわからないけれど、容積は大きくなったからよしとしよう!

 何度も何度も繰り返し空気を吸い込んで容積を増やす。増やした魔力の置き場に困って身体中の隅々、頭の先から足の指の先まで魔力を広げることにした。さらに置き場がなくなったわたしは、髪の毛にまで流し込んで、容積を増やした。いい加減、限界!と思ったところで中心のフラスコに集めていく。空っぽだったフラスコは吸い込むように魔力を集めて膨らんでいった。

 うんうん!いい感じじゃない?

 漂っていた魔力を全部フラスコに収めたわたしは大きく息を吐いた。あ、でもこのままじゃまた漏れるかな?めいっぱい入っているし……なにか蓋的なものがほしいな。うーん。蓋ってコルクみたいなものだよね?ガラスのものもあったはず。思い出すように頭の中で鮮明に想像すると、目の前にふわりとちょうどいいサイズのコルクが現れた。お!便利!

 さっそくそのコルクでフラスコに蓋をして、中を覗き込む。確かに容積は増えたけど薄めすぎた魔力は霧みたいに反対側が透けていた。

 元々の魔力ってどれくらいの濃さだったっけ?薄めたままよりは元に戻したほうがいい気がする!

 フラスコを大きくするのが上手くいったわたしは上機嫌で、今度は魔力を濃縮する方法に頭を巡らせた。ろ過して不純物を取り除くイメージか、熱して水分を蒸発させるイメージか……。

 とりあえず熱してみることにしたわたしは、火を想像してみる。コルクを外してフラスコに直火だ。フラスコの中身はわたしの意図するとおり、少しずつ濃くなり容積が減っていく。

 どんどん濃くなる中身を見ながら、はっと気付いた。

 元の濃さってどれくらいだった?もともとあった量くらいまで容積を減らせば戻るかな?ああ!フラスコを大きくしたから量が把握しきれない!色ももっと濃かったように思うし!

 濃くなり容積が小さくなる魔力をみながら悩み迷うが、決まらない。わたしはフラスコの中身が3分の1くらいになったあたりで、瞼が重くなっていくのを感じた。

 今日は忙しかったし、魔力もたくさん使ったし、意識が保てなくなってきた……このままじゃ……。

 だめだ。眠い、ねむ、い……。

 なんとか蓋をしめたわたしは魔石を握りしめたまま、眠りに落ちていった。




――翌朝。

 部屋中が真っ白な光で満たされて、キラキラ輝いている中で目が覚めた。なに、これ。魔法を見ているときみたい。すごくきれい……。

 寝起きの頭でぼうっと部屋を眺めていると、だんだん覚醒してきた意識が部屋の異常事態を把握していく。ガバッと勢いよく起き上がる。

 え!なんで!光っているの!?

 頭を抱えようとしたわたしの手から魔石が転がり、ベッドの下に落ちでゴトンと音を立てた。

 「あ!魔石!」

持ったまま寝ちゃったんだ!と、両手を確認したわたしは驚愕に目を見開いた。わたしの両手も両腕も輝いている。

 な、なにごと!部屋だけじゃないの!?

 慌てて姿見の前に立ったわたしは改めて頭を抱えた。全身からピカピカ光を放つ身体。ライトのように部屋中を照らしている。

 呆然と鏡の前で固まっていると、ノックの音が響いた。


「リリマリア、具合が悪いのかしら?起きてこないから心配して……」


 言いながらエレノグレース様が扉を開ける。鏡越しにピカピカ光るわたしを見て、ぱたりと扉が閉められた。

 うん。気持ちわかります!エレノグレース様!

 数十秒しんっとした室内に再びノックの音が響いた。4回のノックのあと、扉は開かれないままわたしを呼ぶ声が聞こえた。


「リリマリア。あなたが光っているような気がしたのだけど」

「はい。今わたしは間違いなく光っています。……どうしたらいいのでしょう?」

「やっぱり間違いじゃないのね……。少し待っていて」


 少し冷静になったわたしは、床に転がっていた魔石を拾ってベッドに戻る。 エレノグレース様を待っている間に、光っている心当たりを探す。昨日の夜はエレノグレース様に教えてもらって魔石を染めて……両手に握られている白い魔石を見ながら考えていたわたしは、魔力を濃縮しようと熱したことを思い出した。

 ……火を消した覚えが、ない!

 わたしは慌てて、魔力のフラスコに意識を集中させると、自分の中で起きている異常事態に頭を抱えた。フラスコは巨大化してるし、蓋はどこかに飛ばされて魔力がどぱどぱと溢れ零れていた。熱したことで膨張しちゃったのね。

ため息を吐いて火を消すと、エレノグレース様が戻ってきたら魔力の放出方法を相談しようと決めた。


 エレノグレース様は、遮光なのかサングラスのように暗い色のついた眼鏡をかけて部屋に入ってきた。色がついているので、目は見えないが口元が明らかに笑っている。……面白がっていますね?

 わたしはじとっと見上げるが、このまま光っているのも困るので、拗ねたいのを我慢して昨夜のことを話した。


「教えてもいないのに魔力の濃縮なんて、転生者は非常識と言われるわけだわ」


 クスクスと笑いながら話すエレノグレース様は懐かしそうな声音をしている。


「わたしもリリマリアと似たようなことをしたことがあるの。光の魔力保持者は光るのね。ふふっ。わたしは、風の魔力なのだけど、どうなったと思う?」

「風の魔力……もしかして、浮いたのですか?」


 「そのとおり」と困ったように微笑んだエレノグレース様は、わたしに透明な魔石を手渡してそっと頭を撫でてくれた。


「クレアに魔石をたくさん届けてもらいましょう。魔石を染めて放出すれば大丈夫よ」


 手渡された魔石は昨日と違い一瞬で染まってしまう。やり過ぎた感じが否めない。そして、その手は全く光を失っておらず、落ち着くまでどれだけ染めればいいのか不安になった。

 私の手のひらで真っ白に染まった魔石を見て、エレノグレース様は「何日かかるかしら?」と呟いた。


 それから数日掛けて、大量の魔石を染めた。毎日、エレノグレース様とクレア様が揃って魔石を届けてくれる。光っているうちは、眩しいからという理由で部屋から出してもらえず、食事も自室で済ませた。寝る時が本当に困りものだった。発光しているせいで部屋が暗くならないのだ。仕方なく布をアイマスクのように巻いて眠った。

 光の魔力で染まった魔石はわたしの学院用にするものを選んで、それ以外をクレア様が販売したようだった。貴重な魔石が大量に入荷したことが話題になったとクレア様が教えてくれた。エレノグレース様とわたしが関係していることが漏れないように、天空の国を通して、風の国の中央の城近くのお店に卸したらしい。わたしが光の魔力保持者であることが国王陛下の知ることになったが、アルファータ様が動いてくれて学院に入学するまでの間は情報が伏せられているようだ。

 調子に乗ったせいでとんでもないことになったなと思いつつ、やっと光が収まってきた手を開いたり伸ばしたりしながら眺めた。

 今はもうぼんやりと光るくらいで、窓から光が漏れるようなこともない。意識を集中させれば、わたしの魔力が大量に増えた実感はあるが、どぱどぱと溢れ零れてもいない。ほっと息を吐いたわたしに窓から入ってきた風が届く。春が終わり夏の近づく生暖かい風だ。

フラスコを巨大化させて気づいたことだけど、眠るとフラスコの魔力はいっぱいになるまで戻ることがわかった。さらに濃縮された魔力はその濃度を保つようだ。子供らしからぬ濃度の魔力を大量に保有することになったわたしのことをエレノグレース様はアルファータ様に相談したようで、アルファータ様が会いにくることになった。今は忙しいから夏の終わりになるらしい。


「転生者非常識説、エレノグレース様を超えるのは嫌だなあ」


 風の魔力で宙に浮いたエレノグレース様と、光の魔力で全身発光したわたし。どっちの方が非常識だろうなどと考えながら、机に積まれた魔石を染めて過ごした。


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