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魔王は時間に反逆しました  作者: 姫草真翔
第1章
3/4

02.魔王は食文化に反逆しました

ーーーー



「新国王の誕生です」


見覚えのある光景が広がる。

我は夢を見ていたのだろうか。


「王に敬礼!」


嫌な夢を見ていた。我は国の王なのだ。まだまだやらねらばならぬ事がある。


「我らが主よ……民衆にお言葉を」


そうだ。

長い夢を見ていたのだ。あそこには何もなかったのだ。


本当の戦いは、これから始まるというのに、我としたことがこの有様であるか。


「諸君! 我はーー」

「我は貴様らの王となれ、誇り思うぞ!」


何者かに口を遮られた。

我の決意は一瞬にして消え去っていった。


そうか。これも夢であったか。


我は光に包まれた。



ーーーー



「……て。 お……て。おきて!」


世界を揺すられ我は強烈な吐き気に襲われた。

目の前には、小娘の憂いに満ちた顔が浮かび上がった。


「これも、夢であるか」

「また、へんなこといってる! ここはユンミー村の、リタのお家だよ」


小脇には見慣れぬ窓に、朝日が降り注いでいる。


「そうか……すまなかったな。早く立ち去るとしよう」

「もう! そんなことより、ゴハンできてるよ!」


「しかし、我にはやる事がーー」


何もなかった。


口癖のように紡いだ言葉だったが、何をするアテがある訳でもない。

覚醒しきっていない身体には、頭から足先にまで力は入らなかった。


「なにするの? あそぶの?」

「……わからない」


「じゃあご飯食べよ!」


小娘にまた手を引っぱられる。


「よい、自分で歩く事くらいできる」

「じゃあ、下で待ってるね!」


いつ見ても変わらぬ、生気に満ちた小娘は部屋から消え去り、また我だけが取り残された。




何をすればよいのか。我はどうなってしまったのか。

アウレリウスが我にしたことを、昨日のシチューとパンを齧りながら思考する。


「でねでね! おきても、ワレワレ言ってるの」

「あら、そうなの」


この世界が現実として、我が直面している現状。

我は死んで、ここは死後の世界なのか。それとも姿を変えられ、見知らぬ土地に飛ばされてしまったのか。


「時に娘よ。 ここはどこであったか?」

「ほへ? ここはユンミー村のリタのお家だってば」


「お行儀悪いわよ? お友達に嫌われても知らないからね」

「おかあさん! この子マイゴなの!」


「あらあら」などと、母親は相槌を打ちながら、新しいパンを小娘の元に持っていく。


「けど、迷子なら送ってあげないとね。お家はどこにあるの?」

「……リストワールだ」


「けど、リストワールって魔族の国なんでしょ? 貴方みたいな小さな子、攫って食べられちゃうわよ?」


パンをコネて人の形にさせ、おぞましい表情をしている。


「貴方なんてパクリよ!」


言うやいなや、手の中にいた小さな我は女の胃の中へと消えていた。


「心外である。魔族は人など喰わんわ。主食は米であるし、人を食べるなぞ、飢えた獣がすることであろう?」


「我が国は人類と敵対してはおるが、その様な悪趣味な輩がいれば、我が投獄していただろう」


我らには誇りがある。高貴である魔族にとって食事とは神聖な行為としており、自身で採った作物に、狩りで得た生き物に感謝し明日への糧とする。


「人を喰らう文化は、リストワールが建国されるより遥か以前に存在していた、魔族の中でも低俗な阿呆が好んでしておったことだ」


顔が熱くなることを感じながら、我は誰に聞かれるでもなく黙々とリストワールの食文化について語っていた。

得意げに「まぁまぁ」などと愛想笑いを零し、そのまま続けた。


「けど、魔族の王様はなんて言ってるか知らないけど、うちの村長は魔族が人を攫って食べる……って言ってるわよ」


そう言うと、女は机の上に置いてあった羊皮紙を手にし、我の目の前に差し出してきた。


「ほらここ! ちゃんと読んで見れば、魔族のおっかなさが分かる思うわよ」




なんだこれは。

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