00.魔王は運命に敗れました
<バンバン>
狭い空間に響き渡る轟音。
怒声とも歓声ともつかない狂った声と、世界の終焉ような悲鳴が響く、この最後の砦である研究室に我は佇んでいた。
「もう我々の世界は終焉を迎えるのかもしれない。」
「魔王ヤミン様……この世界は確かにお終いなのかも知れません。しかし、私達の最後の望みは貴方様に託すのであります」
彼は背中は小刻みに震え、額には汗と血液が流れている。
しかし、その瞳には絶望の色は感じられず、ただ一点を向いていた。
「そうは言うがアウレオリスよ……私の魔力も底を尽きつつある。退路も崩され、何を持って前に進めと言うのだリーガルよ!」
「ーーできました」
先程からコンピューターと対峙していたアウレリウスが、轟音にも勝る声を上げ高と思うと、矢継ぎ早に口を開いた。
「私は以前、貴方様に命を救われわました。そして此度の戦乱の中でも……このような科学にしか才のない老いぼれをーー」
「貴様は我の第一の家臣だ。なにがあろうと世界が壊れようと貴様と最後の時を迎えようぞ」
リーガルの希望に満ちた瞳には血潮が流れ、ボロボロになった白衣で目柱を擦っていた。
<ガンガン>
「ーーこっちだ。魔王はこっちにいるぞ!!」
扉の向こうから声が聞こえてきた。
「魔王様……!時間がありませんので別れは以上で簡単に説明致します。」
「だからアウレリウスよ……我らにもう勝ち目はないとーー」
唐突に立ち上がり歩き出すと、リーガルは機械仕掛けのベッドの様な装置の前で立ち止まると、1度コクンと頷き、またにても矢継ぎ早に話し始めた。
「魔王様はコチラのベットにて就寝いただきます。すると必ず良き夢が見られることでしょう。きっと今の戦乱など忘れられるあの頃の世界。そんな世界を見てきていただきます。」
「貴様……ついに気が変になったか!我は貴様らが死にゆく中、1人ベッドで安眠していろと申すのか」
顔が熱くなることを感じた。
この緊張感の中、隠し続けていた苛立ちが爆発したかのような気分だ。
「……左様でございます。私の気などとっくに触れております。ですが、無理やりにでもコチラで眠っていただきます」
口を閉じるや否やアウレリウス右手を上げたかと思うと、自分の体がフワッと浮き上がりベッドに突っ伏していた。
「き、きさま」
「いいですか魔王様。夢の世界で私に会って時間に反逆したと伝えるのです。そうすれば、夢も醒めましょう」
<ドカン>
扉が蹴破られ、暴走する獣共が中に侵入するのが横目に入ってくる。
そんな状況に反して身体が重い。意識がはるか遠くに飛んでいきそうだ。
「な……ぜ……」
なんとか声を紡ぐも
「絶望に立ち向かってください。私はいつもあなた様のーー」
最後に我が目にした物は、笑顔を零し横たわるアウレリウスの姿だった。