第二話「キャラエディット」
見渡す限りどこまでも続く先の見えない暗闇。そこに立つ俺はどこからかスポットライトで照らされている。
『ようこそ。フェティシズム・フロンティア・オンラインへ』
そんな意味の分からない状況の中、響きわたったのはいかにも機械的で無機質な女性の合成音声。
『私はお客様のキャラクターエディットを担当いたします、スターティングAIでございます』
そう名乗るAIの姿は見えず、どこからか声だけが降ってくる。
このゲームに対する率直な第一印象を言えば『このゲーム、大丈夫か?』だ。
一般的にこの手のゲームには親近感を出し、導入を楽しく演出するナビゲートキャラがつきもの。このゲームではさっきのスターティングAIが該当するんだろうけど、ビジュアルが存在しないなんてほとんど聞かない。
β版とはいえキャラのビジュアルを作る余裕すらなかったのだろうか。
「担当さんは姿を見せてくれないわけ?」
『プレイヤー様のエディットに余計な先入観を持たせてはいけない決まりとなっているため、私のビジュアルは存在いたしません』
そんなもんかなぁ。もっともらしい言い訳を並べているようにしか聞こえない。
『それではエディットを開始いたします。まず、ユーザーネームを入力してください』
目の前に浮かび上がるタッチパネルのキーボード。
相川扶。それが俺の本名なわけだが、ネームはどうしようか。
うーん。捻りはないがこれでいいか。
目の前のキーボードで『タスク』と入力し決定を押す。
『承知いたしました、タスク様。それではキャラクターの見た目を作成いたします』
そうAIは告げるが、何も起こらない。
さっきの感じだとてっきり、調整用のUIが出るものだと思っていたのだが。
続く沈黙。変わらない景色。
もしかして、フリーズしてない?
『お待たせいたしました。タスク様の現実世界のお顔をベースに、AIによるこの世界用の調整が完了いたしました』
「はぁ? ちょ、ちょっと待て。俺の側にそのエディットの調整権は無いわけ? 違う自分になれるっていうのがある種VRMMOの醍醐味なんじゃないのか? それじゃあ、余計な先入観もなにもないだろう」
『はい。しかしご安心ください。タスク様の思考パターンを分析し、お客様自身の理想のお姿に調整いたしておりますので、必ず気に入っていただけます』
一辺倒な喋り調子のわりに、なぜかその台詞は自信満々に言っているように聞こえた。
『さて、最後にこの世界でのサポートキャラのエディットを行います』
「それは君のエディットってこと?」
『いえ、私は先ほど申しましたように、ただのスターティングAIでございます。この場におけるバディとはシステムAIではなく、ゲーム内世界でタスク様と実際に行動を共にする相棒のような存在にございます』
「その相棒もAIの自動調整?」
『はい。解析した思考パターンを基に、見た目、声、性格、思考、行動、設定に至るまでその全てをタスク様の理想に調整いたします』
「本当に?」
『ええ。タスク様の好みを完全表現した、至高にして理想のエディットでございます。……さて、完了いたしました。それでは良きフェチの旅を』
心の準備もままならぬまま、目の前が強烈な白い光に包まれる。
これから始まるんだ、という高揚感が全身を包み込む。
しかしあのAI、最後に変なこと言わなかったか?
なんだ、『良きフェチの旅』って?
――マジでこのゲーム、何するゲームだ?
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