第十話「性癖決戦《フェチバトル》開幕」
「性癖決戦スタート!!!」
烏羽が高らかに宣言し、勝負の幕が開けた。
「俺の指示はいるか?」
「んなもん要らねぇ」
カトラスはゴルの提案をキッパリと断った。
「君に任せるよ」
「承知」
烏羽もバディのロンに戦闘を任せた。
AI同士の本気の戦闘だ。
二人の勝負が始まるや否や、各プレイヤーの前に決戦フィールドの中の様子を中継するウインドウが浮かび上がる。
映し出される中継は自動的にアングルやアップの度合いが変わり、直接フィールドが見えなくても彼女たちの戦いの様子が分かるようになっていた。
「武器を抜けよ。ねーちゃん」
カトラスはバスターソードを構え、挑発的な言葉をロンに投げかける。
「そんなもの要らない」
「んだと?」
「だって、あなたの相手はこの足がするもの」
ロンは右足を引き上げ、片足立ちで構える。
彼女は構えを保ったまま微動だにしない。
「上等だ! ぶった切ってやる!」
飛び出すカトラス。
どっしり構えるロン。
豪剣を構えてるとは思えないカトラスの走りぶり。
一瞬で詰まる二人の距離。
「うぉおおお!!!」
カトラスは唸りと共に剣を頭上へ振り上げる。
端から見てても縮み上がりそうな迫力。
しかし、ロンは一切動じず、妖しく微笑むだけ。
カトラスは目を見開き、間合いへ踏み込む。
「うらぁ!!!!」
叫び声が響き、振り下ろされる豪剣。
あまりの速度に、俺の目では剣筋を捉えられず、刀身が消える。
「アマイ」
――ガギィィインッ!!!!
甲高く重々しい衝突音が場を包む。
鳴るはずのない金属音。
「な゛ッ!?」
当事者のカトラスは誰よりも早く事の異常さに気づく。
彼女が振り下ろしたバスターソードは、ハイキックで差し出されたヒールの根本にがっちりと捉えられていた。
「言ったでしょ? 武器は要らないって」
ロンは捉えた剣を弾く。
その勢いにカトラスは大きくのけ反り、そこへロンが追撃。
がら空きの腹にヒールが深々と刺さり、カトラスは後方のゴルの元まで吹っ飛ばされる。
カトラスの頭上のHPゲージが二割ほど減る。
たった一撃で。
「大丈夫か、カトラス」
「ありゃ、やべーな。あの脚は」
カトラスは腹を抑えながら、剣を杖代わりにして立ち上がる。
「一体、何だ?」
ゴルの疑問に烏羽は答える。
「どうかね? 装備品、そして【性癖】の威力は」
「何?」
烏羽はゴルに向かって誇らしげに言い放つ。
それと同時に、俺の目の前のウインドウにシステムメッセージがカットインしてくる。
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【恒常性癖】:【脚フェチ】
『脚を用いた攻撃の威力、俊敏性が向上』
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「ロンは両足に鋼鉄のハイヒールを装備していてね。【性癖】と合わされば機動力を保ったまま、脚部の攻撃力と防御力が飛躍的に向上させられる。ただの脚でも充分武器になるのだよ」
「なるほど」
「行け」
烏羽の指示でロンがカトラスめがけ走りだす。
「来る!」
「見りゃ分かるッ――」
瞬時に迫り、脚を振りかぶるロン。
カトラスは互い身体の前に豪剣を滑り込ませ、脚撃を防ぐ。
間髪入れずに逆脚の回し蹴りが迫る。
「カトラス!!」
「なろぉおおお!!」
カトラスは片手で豪剣をぶん回し、乱暴に迫るヒールを弾き返した。
派手な衝突音。
鋼鉄同士が触れ合い、火花が散る。
ロンに生じた隙めがけて、更にカトラスは剣を振るう。
しかし、ロンはしなやかに身体を反らし、剣の軌道からするりと逃げおおせた。
カトラスは豪剣を乱れ振るうも、ステップ一つでかわされ当たらない。
回避の体勢からバク転を繰り返し、ロンは烏羽のもとまで後退。
「クソッ!」
カトラスにダメージはなかったものの、向こうに攻撃を与えられない。
ジリ貧というべき展開。
何か状況を打開する一手が欲しい、と観てる俺ですら思うようなむずがゆい状況。
そんなとき、ゴルがカトラスに語りかける。
「カトラス、抜け」
「いいのか?」
「ああ、派手にいけ!」
ゴルの掛け声と同時に、カトラスはバスターソードをロン向けてぶん投げる。
回転しながら宙を舞うバスターソード。
「やけでも起こしたか。蹴り落としてやれ」
「承知」
飛来する豪剣にカウンターキック。
ロンの蹴りはバスターソードの刀身を見事に捉え、剣を横後ろにぶっ飛ばす。
その行き先には烏羽が。
しかし、ヤツは全く焦らない。
剣は烏羽に当たる前に、フィールドを仕切る光の壁に衝突してその場に落ちた。
「フィールドの内側からの攻撃は外側に通ることはない。安全対策もばっちりなのだよ」
「あっそ」
「いくら君らがやけを起こして私を狙おうが、全く無意味と――」
――ッパァン!!
烏羽の言葉を切り裂く、乾いた破裂音。
「うぐっ!」
苦しむ声と共に、ロンは膝を地に着ける。
「どうした!!」
ロンのHPゲージは一割ほど削れている。
「立てよ、セニョリータ。面白いのはこっからさ」
カトラスは右手を突き出して不敵に、しかもどこか楽しそうに邪悪な笑みを浮かべている。
突き出された彼女の右手には拳銃。
「【性癖】には【性癖】で対抗しないとな」
カトラスと同じ表情を浮かべ、ゴルは言い放つ。
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【恒常性癖】:【拳銃使い】
『拳銃の威力、命中精度、リロード速度、(大)程度向上』
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「飲み込みが早い。流石トップといったところか」
烏羽は関心してゴルを見る。
「もっと減るかと思ったんだけど、何か付いてるな?」
「ご名答」
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【性癖】:【チャイナドレス】発動
『チャイナドレス装備時、受けるダメージを軽減』
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ゆっくりと立ち上がるロン。その間も、カトラスはロンに銃口を向け続ける。
「動きは速くとも流石に銃弾はかわせねぇようだな、ねーちゃん」
「今のは、烏羽がよそ見していただけ。もう当たらない」
戦闘中には似つかわしくない笑みを湛え、『もう当たらない』と言うロン。
カトラスはすぐに彼女の言葉と表情の裏を理解し、
「強がりはあの世で言いな!!」
カトラスの怒号と同時に銃声が三つ、フィールド内に響き渡った。
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