はじめまして
私が16歳の時、地域で開催されていた夏祭りの日の夜。
夕方には部活が終わり、各々が学校に持ち込んだ浴衣や私服に着替えて仲の良いメンバーと夏祭り会場に向かった。
「たこ焼きは食べないとね」
「花火早く見たいな」
「来年は彼氏と」
誰もが考えそうなことを考えながら皆、目当てのものを手に入れて歩いていく。
打ち上げ花火の見える神社に着くと、花火の始まりを待つ大勢の人々の波に押されながらも、空いたスペースを見つけて腰を下ろした。
花火を待ちながら遠目に好きな屋台を見つけたため、私は友人にちょっと行ってくると声をかけてその場を離れた。
屋台に出来た行列の最後尾まであと少し、というところで声をかけられる。
「あの、すみません」
「はい?」
「それ、どこで売ってますか?」
私の腕には、少し前に買ったカステラ焼きが入った袋がぶら下がっている。
特別珍しくもない商品だが確かに、神社の境内には見当たらない。
普段なら気にもしない知らない人からの言葉だが、今日は夏祭りで少し気分が高揚しているせいかもしれない。ナンパの糸口のような問いかけから始まった会話だったが、終わらせるのはもったいないと思ってしまう。
「神社の北側の出口わかります?出てすぐのところにありますよ」
そう思ったところで、私に彼との会話を続ける勇気は無かった。
彼はありがとうと言ってすぐに背を向けて行ってしまったし、下手なことをしなくて良かったと安堵する。
りんご飴を買った私はそのまま友人の集まっている場所へ戻った。