70.転生者達の長い夜 おまけ
魔導騎士とヴァンパイアの死闘が終わった頃、東の空はそろそろ白み始めようとしていた。だがそれとは全く関係なく、女子寮で行われていたパジャマパーティーはいまだ終わる気配すらない。
「……さて、ジュリー。君の守護者は、決まりそうかい?」
お菓子を頬張りながらリラックスした表情で、レンが問い掛ける。
「まだだ。承知してくれそうな知り合いもいない。おまえ達の守護者に勝つため、私も適当に大きなドラゴンでも見繕うかな?」
挑発するように口角を上げるジュリーニョ。
「た、たとえドラゴンだって、私のウーィルに勝てるわけがないけどね」
ルーカスが挑発に乗る。頬を膨らませて反論する。
「こらこら、へんなところで惚気ない。……ボクとしては、ジュリーがボクらの味方になるか敵になるかどちらにしても、青の彼が何か仕掛けてくる前にちゃんと決めておいた方がいいと思うけどね」
「ふむ。ならば、私も公国騎士にしようかな。魔導騎士ならば、強い守護者になりそうだ。……たしか魔導騎士小隊には毛並みがいいオオカミ族の騎士がいたよな」
いたずらっ子のような顔のジュリー。どこまで本気なのかわからない。
「えええ? そ、それはだめ。騎士ジェイボス・ロイドはウーィルの妹さんと両思いらしいの。勘弁してあげて!」
「むむむ、そうなのか? ……他の女の男を寝取るみたいなのはいやだな。私は、守護者にはできればしっかりと納得して同意して欲しいと考えている」
ジュリーニョの視線がルーカスに向く。少しだけだが、あきらかに刺々しい成分が混じっている。
「えっ? な、なに? わ、わ、私だって、ウーィルにはちゃんと同意を得ています。寝取るようなことはしていません! ……事後承諾だけど」
「はっはっは。そういえば姉さんの転生者としての正式な自己紹介がまだだったね。ウーィルとのなれそめについて語ってくれないかい。詳しく、細かく、詳細にね」
「そうだな。お前と守護者のなれそめの話は、私もぜひ参考にさせてほしいところだ。一切包み隠さず、生々しく、臨場感たっぷりに教えてくれ」
「え、ええ? ……恥ずかしいな。えーと、この世界の母が亡くなったとき、『彼』が慰めてくれて、それ以来ずっと『彼』のことが気になっていて……」
頬を真っ赤にして、モジモジと全身くねらせながら、それでも嬉しそうに語り始める殿下。
(か、か、『彼』……だと?)
ジュリーニョが咥えかけのクッキーを、口からポロリと落とす。
(たしかに、その時点ではウーィルは男だが。……殿下みたいな外見美少年が『彼が忘れられない』とか言って頬を赤くして身をくねらせる図って、ちょっと破壊力がある光景だね)
(しかも、その『彼』って、当時は筋骨隆々のおっさんだったんだろ?)
ジュリーニョとレンがこそこそと腐った会話を始めるが、もちろん自分の世界にはいってしまった殿下には聞こえない。
「青ドラゴンに襲われた時、彼がまた助けにきてくれて、命がけで護ってくれて、……ご、誤解しないでね。守護者になってもらったのは、決して邪な感情からじゃなくて、そうしないと彼が死んじゃうからであって……」
(……守護者になってもらう時って、あの『儀式』が必要なんだよな?)
(ああ、ボクはシロにやったよ、あの『儀式』を……)
(て、いうことは、この繊細そうな美少年殿下がやっちゃったのか? 筋肉ダルマの無精ヒゲのおっさん騎士に対して、アレを……)
「し、しかたがなかったのよ! 私を護るために倒れた彼に守護者になって貰うためには、『転生者』が一生に一度だけ使えるあの呪文を唱えて、儀式をするしかなかったの」
「その儀式って、……アレだよね、ねぇさん」
「そ、そうよ。息も絶え絶えの彼のく、く、く、唇に、私の唇を重ねて、重ねて、そして……」
「そ、その後は? はやく続きを! 言え! 詳しく! 詳細に!!」
はっ!
自分の世界に入り浸り記憶を反芻していた殿下が、我を取り戻す。視線をあげると、レンとジュリーがすぐ目の前、食い入るように身を乗り出している。好奇心まるだしの瞳がランランと輝いている。
「続きはどうした。まさか口づけだけで終わったわけじゃあるまい。筋骨隆々おっさん騎士と色白細身の美少年がどこまでやっちゃったんだ? 正直に詳細に事細やかにすべてを吐け! 吐くんだ!!」
「ななななな何を言ってるのよ。私と騎士ウィルソンは、男同士の姿であれ以上は何もしていません! すぐに呪文を唱えて、今のウーィルになってもらったに決まってるでしょ! ……って、ウーィルになってからも、やましいことは何もやってません!!」
「前世の姉さんは立派な腐女子だったんだから、どうせ守護者になって貰うのなら『おっさん騎士ウィルソン』の姿のままでもよかったんじゃないのかい? どうして儀式のとき『美少女騎士ウーィル』の姿になるよう望んじゃったんだい? 辻褄合わせに歴史の改編が行われることは知っていたんだよね」
「そ、それは……。前世の私は確かにおじ様趣味だったけど、もともと普通の女の子みたいに普通に可愛いものだって好きだったし。……も、もちろん私は、中身がウーィルならどんな姿でも好きだけど、だけど、だけど、とっさに考えちゃったのよ、私たちふたりの将来のことを……」
「ふ、ふ、ふ、ふたりの将来……、だと?」
床に『の』の字を書きながら、殿下は言いづらそうに答えた。
「え、ええ。これでも私は一応公王太子だから。すすすす好きな人には法律上も正式にお妃になってほしいなぁ、そのためにはやっぱり女の子の方がいいかなぁ、って。……じ、じっさい、あの姿のウーィルだからこそお父様も公認してくれたし、そ、そ、それに、女の子相手だからこそ私も人前でも自然にスキンシップとれるし……。も、もちろんまだ未婚だから限度はあるけど」
え、そ、そりゃあ、この世界は前世の世界とは違う。公王太子殿下がムキムキの公国騎士のおっさんとベタベタスキンシップしていたら、興味本位なへんな噂もたつかもしれないけど……。
どう反応してよいかわからず眼と口をまん丸にしたままのレンとジュリーニョ。ルーカスはそれに気づかない。
「ウーィルも、今の姿は別にイヤじゃないって言ってくれたし、……ていうかもともと自分の姿になんて、ぜんぜんこだわりのない人だし……」
ま、まぁ、確かに。ウーィルの性格なら、自分の姿にこだわりなんて持ってないかもしれないが。
「な、なにより、女の子のウーィルって、ちっちゃくて、でも柔らかくて、すべすべしていて、いいにおいで、……わ、わたし、転生してから身体に引きずられて、いつの間にか心の中まで男の子になっちゃったみたいで……」
「けっ!」
「あーーあ。やってられないね」
レンとジュリーが吐き捨てる。
「こんな異常な性癖の奴、私の守護者選びの参考にならないじゃないか!」
「え? ええええ? 異常な性癖って、私の事? 男女が入れ替わっただけで、普通の男の子と女の子のごくごく普通のカップルでしょ! あなたも是非とも参考にするべきだわ」
「そんな異常極まりないカップルのどこが参考になるんだよ!」
そんなぁ!
なんだかんだ言いながら、異常で異様な盛り上がりのパジャマパーティーは、朝まで続いたのであった。
2023.03.05 初出




