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28.美少女騎士(中身はおっさん)と女子学生 その02


 オレとメルと、メルのご学友の女子学生達。オレ達一行はいま、日傘の下のテーブルにいる。


 公都中心部の繁華街。オシャレなカフェのオープンテラスだ。魔導騎士小隊のナティップちゃんに教えてもらったお店なのだが、まさか実際に店に来る機会があるとはおもわなかったぜ。


 うーん、道行く人々の視線を感じる。やっぱり目立つよなぁ、女子学生と女性騎士がお茶してると。


 それはそれとして、……おおお美味いぞこれ。オレの目の前にあるシロップたっぷりの小さなパンケーキとお茶。これ、いま公都の若い女性に大人気なのだそうだ。


 おっさんだった頃は甘い物はちょっと苦手だったのが、この身体になってからなぜか食えるようになったんだよな。ついでにアルコールも極端に弱くなっちゃったし、オレこの身体にひきづられて中身まで少女化しつつあるのか? 気をつけねば。


「どうだ? うまい、……ですか? お嬢様方」


 メルとご学友の皆様の顔を眺める。


「おいしい!」


 メルは満足そうにほほえんでる。自分の娘ながら、やっぱり美少女が美味しいものを美味しそうに食べている姿はいいものだ。


 その他の娘達は?


「おいしいですわ」


「おいしい!」


 おおむね満足そうでなによりだ。


「こんな街中の庶民のお店でお食事するなんて、初めてですわ」


 ……このお店、我がオレオ家の家計にとっては、ちょっと高級すぎるくらいなんだけどなぁ。





 現在の公国は立憲民主制であり、貴族制度は公式には存在しない。とはいえ、旧貴族の家柄は基本的にお金持ちであることに変わりはないし、有力な政治家も実業家も貴族出身が多いのは事実だ。


 この金髪縦ロールのお嬢様のご実家などは、わがオレオ家なんかとは比較にならないほどの本物のお貴族様でお金持ちなのだろう。


「ねぇねぇ、ご存じでした? あの噂!」

「ええ、もちろん。学年中大騒ぎですわ」

「きゃあ、本当!!!」


 夕焼けにそまる大通り。パンケーキをほぼ食い終わりお茶をしながら、パンケーキとおなじくらいフワフワしたおしゃべりに花が咲く。


「あの方、別の殿方にも色目を使っているのですか?」

「そのうえ許嫁もいらっしゃるのですよね」

「それは、……修羅場ですわ」


 同級生の恋バナ、と一言でいってしまうには深刻すぎる話題で盛り上がっているらしい。旧貴族やら成金の子弟があつまる名門校なんだが、いろいろ大変なんだなぁ。メルはうまくやっていけてるのか?


「そうそう。パンケーキと言えば、旧市街にも美味しいお店がありましてよ」

「でも、あのあたりは治安がよろしくないと、うちの家令が許してくれませんの」

「召使いに買いに行かせればよろしいのでは?」


 おっと唐突に話題が変わる。短時間でコロコロ話題が変わりすぎて、いったい何の話をしているのかついていけなくなる。


「さきほどのお話し、それって、ストーカーじゃありませんこと?」

「しつこい殿方は最低ですわよね」

「お父様にいいつけて、我が家の権力と財力をフルに使って、ぎゃふんと言わせて差し上げますわ」


 あれれ? さっきの前の前の話題にもどった。あの話はまだ続いていたのか。


「そうそう、騎士様。騎士団のかっこよい殿方をご紹介していただけないかしら」


 うわあ。テーブルの対面で学内恋バナに夢中になってたお嬢様ふたりから、まったく脈絡なく矛先がこちらに向かってきたぞ。


 な、なんか勘違いしているようですが、中世時代じゃあるまいし、いまの公国騎士は単なる国家公務員なので、名家のお嬢様方のお相手はちょっと……。


「いいえ、公国においては、いまだに騎士様はそれだけで名誉ですのよ」


「うらやましい、私もこんな凜々しくてかわいらしい妹がほしかったですわ」


 だれが妹だ。オレは君たちよりもだいぶ年上だぞ。


「おほほほほほ。我がオレオ家は、代々武門の家柄ですのよ!」


 またメルが調子に乗ってアホなことを言い出した。おまえ、本物のお嬢様達に張りおうとするのはやめろ、無駄だから。我が家は代々平民だ。お前が生まれたのは、剣しか能がない筋肉バカの家柄なんだよ。


 ……まぁ、なにはともあれ、メルも友達と仲良くやっているようで、ちょっと安心したぞ。








 ん?


 ウーィルは、お嬢様の中のひとりに目が向いた。


 メルがまったくもってお嬢様らしくないのはもともとだが(一番かわいいけどな)、お嬢様の中にもよくよく見ればひとりちょっと異質な娘が居るぞ。


 腰まで届く見事な銀髪かと思ったが、よくみればこれ白髪だな。そしてとても可愛らしい顔立ちも、もしかしてちょっと東洋的なのかな?


 にこっ。


 おっと目が合った。オレに向かって微笑んだ。見つめていたのバレちゃったか。


「はじめましてメルのお姉さん。そういえば自己紹介がまだだったね。ボクはレン・フジタ。メルの親友さ」


 こ、個性的な娘だな。名前もかわっているし。外国人?


「私は公国騎士、ウーィル・オレオです。いつもメルがお世話に……」


「おねぇちゃん! レンはね、寄宿舎では私と同じ部屋で、皇国からの留学生で、成績ではルーカス殿下と並んで学年トップなんだよ!」


 あ、ああ、そうですか。口調がちょっと妙なボクっ娘なのは、皇国からの留学生だからなのか。


 ちなみに皇国とは、はるか地球の裏側、東洋にある島国のことだろう。列強の中でも独特な歴史と文化を誇る国だと聞いている。もちろん行ったことなどないが。


 我が公国と連合王国と皇国、これら三つの島国は軍事同盟を結んでいる。先の大戦の折りには皇国海軍の艦隊がはるばる旧大陸沿岸まで派遣されてきたと聞いている。軍事的なものだけでなく、貿易や文化的な各種交流もお互いに盛んだ。


 とはいえ、皇国人の知り合いははじめてだ。あの国の人間はみんなそんな髪の色なのかなぁ。それに、あのブラウスの胸ポケットから顔を覗かせているのは……?


「……ああ、ボクのこの髪はちょっと特別なんだ。一般的な皇国人は、騎士ウーィルと同じ黒い髪をしているよ」


 わ! 心を読まれた?


「騎士ウーィル。君とは是非一度お話しをしたかったんだ。こんなところで会えるとは、やはりボクは運がいい」


 え? なに? どういうこと? 初対面だよね?


「そして、これは……」


 レンは自分の左胸を指さす。メルよりもちょっと慎ましやかな、そしてオレよりもかなり豊かな、おそらく年頃なりの平均的な胸。その胸元、ブラウスの胸ポケットから覗いているのは、……白いネコ? 小さなぬいぐるみ?


 いくらなんでも、制服の胸ポケットに収まるサイズが、本物のネコのはずがない。だが、ウーィルの目には、それはどう見ても本物の小さな白い子ネコにしか見えない。


「ふふふふ。この子はボクの守り神さ。きっと君とはなかよくなれると思うよ」


 へっ? ……う、動いてる。子猫が手で自分の顔を洗っているぞ。おお、いま確かにオレの顔をみた。子猫のつぶらな瞳。か、か、かわいい! 


「皇国ではね、白いネコは幸福を招くものと言われているんだ。……きみ以外の人間には小さなぬいぐるみしか見えないはずだから、この子のことは内緒にしていてくれないかな。頼むよ、騎士ウーィル」


 オレ以外には? そんな事がありえるの?


 まったくもって理屈も事情もわからないが、メルのお友達がそういうのならそうしてやろう。子猫かわいいし。……言うとおりにしてやるから、オレにもなでさせて!!


「えっ、なになに。おねぇちゃんとレン、なに内緒話しているの? 私もいれて」


 オレとレンちゃんの会話にまったく遠慮なく割り込んでくるメル。まったくレンちゃんの胸ポケットの子猫を気にしていない? 本当に、本当に、オレ以外にはただのぬいぐるみにしか見えないのか?






「きゃーーーーー!」


 会話を遮るように、悲鳴があがる。オレ達が茶を飲んでいるお店のすぐそばだ。


「こんどはなんだ?」


 オープンテラスの俺達のテーブルから目と鼻の先で、女性の悲鳴。オレは反射的に背中の剣に手をかける。


 まさか、貴族のお嬢様方をねらった騒動じゃないよな?


 見れば、大通りのど真ん中に人だかりができている。見るからに堅気じゃない若造グループが市民に因縁をつけているのか? 白昼堂々迷惑な話だ。

 

 ……面倒くさいなぁ。おっさんとしては、勤務時間外だし、娘やご学友といっしょだし、かかわりたくないなぁ。でも、……騎士の制服姿だしなぁ。見て見ぬ振りもできないかなぁ。


 仕方ない。


「あー、もうしわけありません、お嬢様方、メル。私はちょっと騒ぎを収めに行ってくる。すぐ帰るから、……ここから動かないでくださいね」


 立ち上がる。メルには叱られると思ったが……。


「おねぇちゃん、やっちゃえ!」


 あれ? 期待の目? さっきよりもキラキラしている。


「さすがおねえさま。正義の騎士ですのね」


 あれれ、ご学友のみなさんも?


「……君の力、見せてくれるかい」


 レンさん? その悪役っぽい上から目線のセリフ。君はいったい何者なんだい?


 なんにしろ、そんなに期待されるとやりづらいなぁ。……なんて思いながら、オレは騒ぎの中心に向かったのだ




 

 

2020.02.22 初出

 


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[一言] いったい何の騒動が……
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