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14.美少女騎士(中身はおっさん)と若造騎士 その03



「あのエルフ三人組、なかなかやるっすねぇ。特にあのリーダー格、第一小隊ほどとは言わないけど、それなりに強いっす」


 野次馬の最前列、ジェイボスの隣でナティップが感心している。


「ここだけのはなしだがな、あのリーダー格。第一小隊に欠員がでたとき、補充候補としておまえと最後まで争ったんだぜ」


「へぇ。自分で言うのもなんなんっすけど、私に匹敵する剣士三人がかりだと、さすがのウーィルちゃん先輩も苦しいんじゃないっすか。せめて剣を抜いて反撃しないと」


「ウーィルの本領は接近戦だぜ。剣技というより、根本的な反応速度が人間離れしているんだ。まぁ見てろって」





 ウーィルは、いまだに剣をぬかない。


 ぬく余裕がないわけではない。もちろん腕が短すぎるせいでもない。あえて抜かないのだ。


 そもそもウーィルとて、彼らを本気で斬るつもりはない。若造とはいえおなじ騎士団の同僚だ。ウーィルは、この程度の相手ならば適当にあしらえる確信があった。


 ウィルソンだった頃ならば、剣に纏った雷撃など関係なく、三人まとめて力尽くで蹴り倒し三秒でけりをつけていただろう。


 少女の姿となってしまった今、この姿でさすがにそれはないと、まずはこちらからは手出しをせず様子見を決め込んでみたのだが。


 精神が戦闘モードになった瞬間、自分でも驚いた。


 このウーィルの身体、たしかにおっさんの身体よりも力は無い。スタミナもない。しかし、見える。スイッチが入った途端、周囲のあらゆる物がゆっくりと見える。反応速度が桁違い、というよりは、もしかして時間の流れを制御してるんじゃ、と思えるほどに。


 ウーィルは、この身体の能力がいまだに正確に把握できていない。それが歯がゆい。もどかしい。そして、こわい。


「やばいな」


 おもわず口の中でつぶやく。


 この身体で本気で剣を振るったら、おそらくなんでも斬れる。力はなくとも、技をもってあらゆる物が斬れる。ドラゴンだろうがヴァンパイアだろうが、大聖堂はもちろん、たとえ山だって斬ってみせる。そんな気がした。


 それゆえ、斬ってみたいという衝動が生じる。剣士としてしかたがない。


 だから、やばい。


 このままではきっとあの三人を斬ってしまう。三人がそれなりに強いからこそ、反射的に斬ってしまいかねない。


 だが、これはあくまでもお遊びだ。だから、ウーィルは決して剣を抜かない。抜いてはならない。





 くそ、くそ、くそ、くそ。


 エルフ三人組は、次第に追い込まれつつあった。


 一方的に攻撃しているのはオレ達だ。この娘はそれを避けるだけ。いまだ一切の反撃は受けていない。なのになぜ、オレ達はこんなに追い詰められているのだ?


 くそ。人間よりも魔力も体力も優れているエルフであるオレ達が、本気で攻めているのだ。避けるのが精一杯のはずだ。反撃に転じることは難しいはずだ。いつまでも逃げられるはずがない。いつかは必ず捕らえられる。確実に。


 しかし、……いったいこれで何度目なのか。至近距離から渾身の力で突く。例によって少女がそれを簡単にかわす。半身を捻る。空を切る剣が胸の先をかすめる。すぐ横に少女の顔。目が合った。


 すべてを見通すような漆黒の瞳。オレの姿が映っている。一瞬、身体ごと吸い込まれるような幻覚。


 強い! そして、……きれいだ。


 もしこの勝負に勝ったら俺はこの娘に、……頭をふる。何をバカな事を考えているのだ、俺は。


 くそ! おまえら、本気でいくぞ!!


 エルフ達はギアを上げた。もはや相手を同僚の騎士だとは考えない。魔物を相手にするときと同じだ。全力を、全身全霊の力ををこめて、突く突く突く。


 だが、やはり当たらない。すべて避けられる。攻撃している側の息が切れはじめる。。







「へぇ、凄い。ウーィルちゃん先輩、エルフ騎士三人を相手に余裕っすね」


 攻撃側も野次馬もそろそろ気づきはじめた。ウーィルは反撃できないのではない。……遊んでいるのだ。


 そう。いまだ剣をぬかず、まったく無駄のない動きですべての攻撃をさけるウーィル。これは剣技ではない。舞だ。


 美しい。ウーィルの舞に野次馬全員が見とれている。時間が過ぎるのを忘れ見惚れている。


 一方で、エルフはあせり始めた。このまま時間がかかれば、負けないまでもいずれ上層部から止めがはいる。それは、彼らにとって負けと同じだ。


 くそくそくそ。


 オレはエルフだ。人間などに舐められてたまるか。公国騎士達に、なんとしてでもエルフの力を見せてやる。


 リーダー格ひとりだけ、ウーィルの包囲網からさがる。一歩、二歩。


 のこりの二人が攻撃を続けるなか、ひとり間合いをとったリーダー格が剣を天にかざす。


 雷撃の呪文。


 呪文を唱える。小さな魔法陣が空に展開される。金色の文字が空中を回り始める。


 彼は、単なる『魔力持ち』ではない。自分の身体や剣に雷撃を纏わすだけではなく、体外に物理的な現象として『雷撃魔法』を発現できる。いまや公国でもめっきり少なくなった『魔法使い』のひとりなのだ。




 

 

2020.01.08 初出

 


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