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13.美少女騎士(中身はおっさん)と若造騎士 その02


 ウーィルは、生意気な若造騎士と対峙している。


 勢いでこんなことになってしまったが、いまだに自分でも意外だ。オレってこんなに熱い人間だったかなぁ?





 たしかに、獣人であるジェイボスが侮辱された。やつは我が家の番犬であり息子みたいなものだ。オレが怒っても不思議はない。


 しかし、嘴が黄色い若造に対してオレがわざわざ制裁を加えてやらなくても、周囲の大人達はわかっているはずだ。


 ジェイボスは、騎士団随一の剛剣の使い手として知られており、魔導騎士としての実績は十分だ。入団したばかりのペーペーの若造などとは比較にもならない。


 騎士団は実力主義だ。数年後、連中が自分の実力をわきまえる分別がつく程度に大人になったあかつきには、彼らは自分の若気の至りを思い出すたび頭をかかえてのたうち回るに決まっている。オレたち大人がすべきことは、大事にならない程度に適当なところで場を納めてやることだろう。


 そもそも、当事者であるジェイボスが耐えているのにオレが怒るのは筋違いだ。ていうか、オレってもっとクール、というかひょうひょうと世間を渡ってきた人間だったはずだ。




 ウィルソン・オレオが公国騎士になったのに、特に深い理由はない。親父も親父の親父もそのまた親父も代々騎士だったからだ。貴族だったわけではなく、それぞれ入団試験を経て騎士となったのだ。


 たまたま彼は、父と同じ程度の魔力持ちとして生まれた。物理的な奇跡を発現する『魔法』を使えるほどではないが、自分の体内で筋力を強化する程度の魔力があったのだ。父を見て育った彼は、幼い頃から自分も騎士になるものだと思っていた。そして、当然のように入団試験をうけ、かろうじて合格することができた。


 入団式のとき公王陛下に剣を捧げたが、形式だと割り切っていた。公国騎士としての使命感があるわけではなく、ただ淡々と自分の魔力と剣を鍛えた。それが騎士の仕事だと思っていた。


 だが、騎士になってみれば、それが意外に性に合っていた。自分でも驚くほどに。




 ウィルソンは人付き合いが苦手だった。決して人間が嫌いなわけではない。他人を馬鹿にしているわけでも、社会を憎んでいるわけでもない。人はひとりでは生きていけないことは自覚しているし、他人が楽しそうにしているのを見るのは好きだ。


 ただ、不特定多数の他人と良好な関係を維持するために、いったいどうすればいいのかわからない。彼にとって家族以外の人間との付き合いは、面倒くさいものでしかないのだ。


 彼は、できれば社会の片隅で目立たずひっそりと、ボーッとして生きていきたいと思う人間だった。




 公国騎士ならば、人付き合いは最低限でよい。面倒くさい事を考えず、ただ剣と魔力を鍛えれていればよい。市民を護るという名目で、魔物を斬ればよい。


 そりゃ同僚との仕事上の付き合いは必要だし、たまに上司に叱られたり始末書を書かされたりもするが、実力があれば大抵のことは許される。


 今となっては、他の職業についている自分の姿が想像できない。公国騎士は彼の天職といえる。とくに魔導騎士小隊に抜擢されてからは、そう思う。




 そんなウィルソン(元)からみて、わざわざ先輩騎士に嫌味を言い放ちケンカをうる若造など、うっとおしいだけの存在だ。どうして自分からトラブルを引き起こし、世間で生きづらくなろうとするのだろう?


 正直あきれた。もし自分が教育係なら、お小言のひとつくらいくれてやるかもしれない。しかし、……ケンカを買ってやる必要などない。ないはずだ。


 なのに、なぜ今オレはこいつらと対峙している? なぜ身体を張って教育してやろうなんて気になっている?


 うーーーむ。わからん。ウィルソンとしてのオレの魂に変わりはない、……と思うのだけどなぁ。もしかして、この身体のせいか? もしかしてウーィルは熱血少女なのか?





 剣に雷撃の魔法を纏い、自分に向かって突進してくる三人のエルフ騎士。その意外と洗練された動きをみて、ウーィルは内心舌をまいた。


 これは少々侮りすぎたかな?


 だが、それでもウーィルは動かない。黙って待つ。闘争心に火が入る。自然と身体が戦闘モードに切り替わる。うん、いい感じだ。


 さて、このウーィルの身体。どの程度やれるかな、……と一歩踏み出した瞬間、それは起こった。





 なっ?


 頭の中のスイッチが入った瞬間、周囲の音が消えた。そして、すべてがスローになった。まるで自分のまわりの時間の進みが遅くなったかのように。


 先頭の若造エルフが間合いにはいる。そして突く。雷撃をまとった剣先が迫る。


 ……遅すぎる。ウーィルは剣先を楽々と避ける。


 避けたところを、もうひとりが斬りつける。


 半回転して、余裕で避ける。


 避けた方向に三人目が剣を薙ぐ。


 やるじゃん。


 おもわず口に出しながら、ジャンプしてさける。自分の身体がスローモーションのように空中を漂う。


 確かにエルフどもは口だけじゃない。三人ともそれぞれ剣の腕も魔力も平均以上。連携もまぁまぁ。さすがエルフ族といえるだろう。三人そろえば、それなりにつかえるんじゃないか?


 しかし、……動きが遅すぎるんだよね。ちがう、この身体が速すぎるのか。


 自分でも何が何だかよくわからないが、まぁ強いのならいいや。なかなかやるじゃないか、ウーィル。





 初撃を見事に悠々とかわされた三人は、それに驚きながらも攻撃の手をゆるめはしなかった。斬る。突く。薙ぐ。銀色の剣の軌跡が空間を埋め尽くす。ますます包囲網は縮まる。


 しかし、あたらない。三人の剣は間合いの中心にいるウーィルにかすりもしない。すべて紙一重で避けられる。


 突く。突く。突く。突く。


 それをウーィルはすべて避ける。剣でさばきもしない。そもそもウーィルは剣を抜いていない。完全に見切った上で、余裕をもって避けられる。廻るたび、飛ぶたびに、スカートが翻る。


 くそ。


 魔導騎士第一小隊のエリートとはいえ、相手は年端もいかぬ少女だ。本気で傷付けるつもりはなかった。ちょっと脅してやって、コネだけで魔導騎士になったことを明らかにしてやるはずだった。


 それなのに、なぜオレ達の剣はあたらない?


 いったいなんだこの動きは。速い、なんてものじゃない。まるで彼女の周囲だけ時間のすすむ速度が異なるようだ。時間が歪んでいるのか? 空間を操る魔法とでもいうのか? ……本当に、人間か?




 

 

2020.01.07 初出

 


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