表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/70

11.美少女騎士(中身はおっさん)とお昼ごはん その02


 なにはともあれ、オレはジェイボスのおかげで昼飯を食うことができた。


「助かったよ、ジェイボス。ありがとう」


 オレは素直に礼を言う。


「今日はいやに素直じゃないか、ウーィル。いったいどうしたんだ?」


 この少女の姿で無愛想にしても、みっともないだけだからな。メルに示しがつかないし。


「オレが素直だと問題があるのか?」


「い、いや、そんなことはない。……とてもいいと思うぞ」


 って、なに顔を赤くして照れていやがるんだ、この犬ころ野郎。





 そういえばこいつ、……ちゃんと騎士やれてるのかなぁ?


 目の前、頬を赤くしているオオカミ族の青年をみて、ウーィルはふと思った。


 『オレ』の記憶では、騎士団でのジェイボスはオレの後輩だ。ふたりとも剣を武器に使うということで、教育係をかねてオレがペアを組まされることが多かった。


 こいつは幼い頃からうちの居候であり気心がしれていたということもあるが、こいつと組むのは楽しかった。そしてたいていの場合、こいつはしっかり期待にこたえてくれた。


 だが、オレがウーィルであるこの世界では、こいつが魔導騎士になった直後に『オレ』は死んでしまったらしい。……こいつの騎士としての教育って、誰がやったのかなぁ?


 そして、『ウーィル』はジェイボスの数年後輩になるわけだ。ウーィルとジェイボスって、いったいどんな関係なんだ?





 ウーィルはさらに記憶を遡る。


 今でも鮮明に思い出す。あれはメルが生まれた直後の雨の日だった。買い物帰りの妻が道ばたで死にかけていた獣人のガキを拾ってしまったのだ。


 オレは施設に委ねるべきだといったのだが、妻がどうしても育てたいと譲らない。


「ねぇ、あなた。おねがい。あなた騎士の仕事で留守がちでしょ。私とメルのボディガードにちょうどいいわ。どうせこの家、部屋あまってるんだし」


 妻は呑気というか、お気楽というか、世間一般とはかなりズレた女だった。だからこそオレみたいな男と一緒になったのだろうが。……いま思えば、そんな妻だから、こいつをひろったのも番犬にちょうどいい程度の意識だったのかもしれないなぁ。


 ともかく、それ以来このオオカミ族のジェイボスは、うちの居候になった。オレの息子みたいなものだった。同時に、オレが留守がちの我が家の番犬の役割を忠実にはたしてくれた。メルの面倒もしっかりみてくれた。まだまだ少年だった頃、オレと同じ公国騎士になりたいと言い出したときは、正直言って嬉しかったことを覚えている。


 そして、妻が亡くなった後も、それなりによい家族関係だったはずだ。年頃になったメルと妙に仲がよかったのだけは気に食わなかったが……。


 うん。やはり確かめねばならん。オレは知っておかねばならん。『この世界』において、この犬ころ野郎とウーィルとメルの関係はどうなっているのかを。





「ほほぉ。魔導騎士小隊のエリート騎士さまは、ドラゴンを取り逃がしたにもかかわらず、優雅にお食事ですか?」


 空になったスープ皿を前にいつの間にか腕を組んで考えこんでいたオレの目の前、いつのまにか三人組の若い騎士がいた。胸の紋章をみるに、魔導騎士第二小隊の若造らしい。たったいまの悪意いっぱいの嫌味は、こいつらか。


 公国騎士団は、中世時代からの伝統を誇る公王府直轄の組織だ。


 現在の公国において、他国との紛争をになうのは近代的な公国軍の役目だ。そして治安維持は自治体警察が担う。公国騎士団の任務は、基本的に公王宮の守護や、あるいは国の公式行事にでてくる儀仗隊や音楽隊など、儀式的なものが主だ。


 だが、そんな騎士団にも、一部だけ実戦部隊が残っている。


 公国の敵は、外国の軍隊や犯罪者だけではない。魔物やモンスター、公国全土に場所を選ばずゲリラ的に出現する人知を超えた魔力の持ち主。やつらには理屈も合理性も通用しない。そんな魔物を剣と魔力を駆使して力尽くで駆逐するのが魔導騎士だ。公国騎士団には、そんな魔導騎士の小隊が、第一小隊から第三小隊まで組織されている。


 なかでも強力な魔物を相手にする場合、直接対峙するのは魔導騎士第一小隊、つまりオレ達の役目だ。世間では、魔導騎士小隊といえば第一小隊のことを指す。第二第三小隊はサポート役が基本となる。


 目の前の若手騎士三人は、そのエリートであるはずの第一小隊のオレ達が、先日のドラゴン公都襲撃事件において数頭のドラゴンをとり逃がしたこと、さらにジェイボスが重傷を負ったことに、嫌味を言っているのだろう。早い話が、オレ達を馬鹿にしているのだ。


 こいつら。三人とも耳が尖っている。エルフだな。最近、騎士団にエルフが入隊したと聞いたが、こいつらのことか。


「……ああ、次は確実にドラゴンを倒すためにも、飯はしっかり食っておかんとな」


 あきらかな嫌味にたいしても、ジェイボスは動じない。笑ってこたえる。


「はっはっは。エリートだ最強部隊だと普段からチヤホヤされている第一小隊が、俺達裏方が地味な泥仕事をやってる間に派手にドラゴンと立ち回り、あげくあっさり負けて帰ってきたわりに、お元気そうでなによりです」


 三人が嘲笑する。あきらかな挑発だ。


「うむ。俺達が戦えるのも。君たちの地味な泥仕事のおかげだ。感謝しているよ、マジで」


 だが、それでもジェイボスは挑発にのらない。……ほほぉ、ただの子犬だと思っていたが、いつの間にか大人になったじゃないか。


「まぁまぁ、今回はさすがに相手が悪かった。ドラゴンだしな。もともと脳味噌の足りないオオカミ族じゃあ勝てるわけないさ」


「そもそも野蛮な獣人風情が、誇り高き騎士団にどうやってはいれたんだ?」


 このエルフ三人組の標的は、はじめから獣人のジェイボスだったらしい。オオカミ族よりエルフの方が優秀だといいたいのか? ……騎士として情けない奴らだなぁ。


 だが、ジェイボスは、獣人としてこの程度の挑発は慣れている。決して取り乱しはしない。相手の思うつぼだ。


「コネだろ、コネ。騎士団には実力もないのに代々騎士を継いでいる家があるからな。そんな家に取り入ったらしいぞ」


 ぴくっ。ジェイボスのこめかみが、わずかにひくついた。





 代々騎士をついでいる家というのは、騎士団全体では決して少なくない。しかしこの場合は、ジェイボスを引き取ったオレオ家のことを指すのはあきらかだろう。


 かつてジェイボスが子犬だった頃、行き倒れていた彼を拾い、育て、実娘といっしょに教育を受けさせてくれた、そして剣を教えて騎士団に推薦してくれたのは、ウーィルの両親だ。


 大げさな話ではなく、彼がいま生きているのはオレオ家のおかげなのだ。そのオレオ家を侮辱されれば、さすがのジェイボスもキレそうになる。


 だが、それでも必死に耐える。この程度の挑発にのっては、大恩のあるオレオ家の人間に恥をかかせることになる。それはジェイボスには絶対にできない。やってはいけない。だから耐える。何をいわれても。


 しかし、ジェイボスの代わりにキレた者がいた。彼の対面にすわる少女、ウーィル・オレオだ。






「……おい」


 ん?


「おい、おまえら、第二小隊の小僧だな。表に出ろ」


 気づいたら、オレは背中の剣に手をかけていた。


 そんなオレの姿に、ジェイボスが驚いている。もちろんオレも自分で驚いている。


 おいおい、オレはなにやってるんだ? 酸いも甘いも噛み分けたいい歳したおっさん騎士であるオレが、この程度の挑発にのってどうするんだ? もともとオレはそんなキャラじゃないだろう。


『はぁ? なにいってるんだ? ガキなんて相手にしてないぞ』


 不思議そうな顔をしたエルフの若造騎士三人組。その面に腹が立つ。


「表に出ろと言ってるんだよ、小僧。魔導騎士小隊の力みせてやるよ」



 

 

 次回からは最強騎士による異能バトルっぽい展開になると思います。

 よろしくお願い致します。

 

 

2020.01.05 初出

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ