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悪夢を操る
救う者と救われる者の末路。
悪夢の中でだけ会える彼に会うために、私は明晰夢を習得した。
彼は恐らく、人を悪夢から救い出す存在なのだと思う。
私が紅葉狩りの帰りに山から滑落した時も、エレベーターに乗ろうと思ったら何もない空間に落ちていった時も、殺人鬼に追いかけ回された時も、必ず救いに来てくれた。
どうしても彼に会ってお礼が言いたくて、ずっとそのことばかりを考えていたら気がつくと能動的に悪夢を見ることが出来るようになっていたのだ。
おかげで毎日彼に会える。吹雪く山荘で、崩壊した世界で、太平洋のど真ん中で。彼の救いを待つ時間はまるでデートの待ち合わせをしているような気分だった。
いいことを思いついた。彼に会えるようになってひと月たった今日は特別悪い夢にしよう。悪夢のレパートリーが少ない私は必死にアイデアを絞り出す。最悪の夢とは、誰にとっての最悪のことだろう。私にとっての最悪は彼に会えなくなること。
ならばと私は彼にナイフを突きつける。
この悪夢から救い出して。そう言うと彼は疲れた顔で笑った。