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神さまのまちづくり

 文明を促すのは難しい。


 水脈に沿うように発展していく集落を水面越しにぼんやりと眺めながら、私は水盤に緑色のインクを垂らす。


 ここではないどこかの世界を映し出す水盤は、ここではないどこかの人々を正しく導くためのものだ。


 緑色のインクはじわりと溶けて、その時から水の向こうの集落は実りの時期を迎える。


 この水盤を与えられたのは突然だった。どうやらこれは私に与えられた仕事らしい。


 何も分からない私が導くことになった土地は痩せていたが、幸いなことに河がある。


 緑のインクで豊穣を。

 青いインクで恵雨を。


 そうやって手探りで、水盤越しに土地を育んだ。


 最初は要領を得ずなかなか人が定着しなかったが、今ではぽつぽつと小さな木造の家が建つようになっている。


 どことも知れぬ土地に愛着が湧いてきた頃、赤いインクが支給された。


 初めて見るどろりとしたその液体を、一滴垂らす。


 水面に触れるとそれはどす黒く濁り、水盤の世界がぐらりと歪んだ。


 私は首を傾げる。


 これは今まで使ったインクと違うようだ。


 人々が慌ただしく動き出す。


 世界を変えようとしている。



 しばらくして、隣の部屋に居る彼の大きな声が響き渡った。


 彼は乱暴にドアを開け、私の前に歩み出る。


「俺の土地、お前のところのやつに侵攻されてんだけど!」

「ええ……?」

「やめさせろよ!」


 赤いインクは侵略を促してしまったらしい。同じように土地を育んでいる彼に迷惑がかかっているようだった。


「仕方がないなあ」


 私は水盤を傾け、全ての水を出した。


 彼に手伝ってもらって新たに水を満たすと、そこにはまっさらな土地と河だけが映る。


 文明を促すのは難しい。また同時に、世界をやり直すことは簡単だ。


 水ごと替えてしまえばいいのだから。


 そこに居た人々がどうなるかは分からないけれど。


「今度はうまくいくと思ったのに」

「その台詞何回目だよ」


 赤いインクを飲み干して、彼は顔をしかめた。

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