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君のためのギターソング

覆面歌手と隣の彼。

 現実世界で存在感を出すことは難しい。私にとってそれは無から有を生み出すことと同じ程エネルギーを使う。それならば。何の期待もされぬ存在感を絞り出すことに注力するよりかは無から有を生み出す作業の方がよほど価値があるのではないだろうか。


 私は今日も幽霊のように一日を過ごし、家に帰ってギターを弾く。


 現実世界で、とあえて前置きしたのは私はそれ以外にも存在しているからだ。www、すなわちウェブ上の匿名投稿サイトで音楽を配信している私は現実世界の私より生き生きとしている。


 顔も名前も出さずに、ただひたすら創り出した曲と歌だけを公開する。すると私を見つけてくれた人が反応してくれる。始めたばかりの頃はちらほらコメントが残る程度だったが、今はほんの少しだけ有名になった。私の曲が好きだと言ってくれる人がたくさんいる。それだけで私の世界の優先度は逆転した。ワールドエンド。世界は簡単に収束する。


 そう思っていた。現実世界で隣の席に座る彼が、私の曲を聴いていることを知るまでは。彼の手元にある音楽プレーヤーに、私の創った曲名が映し出されていた。偶然目に入ってしまったのだ。机に伏せて眠る彼の横顔が綺麗で、つい見入っていたその視線が捉えてしまった。


 その後私は彼にさり気なく尋ねた。


 「その歌手好きなの?」「え、うん」


 存在感のない私に急に話しかけられたから驚いたのだろう。彼は目を丸くして私の問いに答えた。私は「そっか」と返す。現実と非現実の境界が、一瞬だけ瓦解する。私は彼の言葉に喜びを感じていた。


 隣の席に座る同級生が、私の歌を好んで聴いている。その事実が更なる世界を生み出す。音楽は多層構造の世界のようで、世界を知るたびに曲が生まれる。


 ある日彼に話しかけられた。それはいい曲が書けた次の日で、私は機嫌が良かった。

 声が似ている、と。そう言われた。誰にとは聞かなかった。彼の手元に私の曲が表示された音楽プレーヤーがあったからだ。

 そうかな。と適当に誤魔化した。彼が新曲を楽しみにしていてくれたならそれでいい。

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