侵食性SNS男子vsガラケー女子
「僕のSNS、よかったらフォローしてよ」
たまたま選択授業が同じというだけの彼にそう声をかけられ、私は沈黙する。
「え。あ、私に言ってるの?」
「うん」
「ごめん私ガラケーだからあんまりSNSは」
「知ってる。ガラケーでもできるからさ。これ僕のIDだからよろしく」
「あ、ちょっと」
彼は不思議な人で、大人しいタイプに見えるが常に周りに人がいる。その取り巻きのような生徒たちに一瞥されてしまった私は大きく息を吐いた。
中学の時にSNSいじめが流行って辟易した。高校入学と同時にガラケーに替え、友人とのやりとりはメールか電話のみ。
しばらくSNSには手を出したくないのだ。
連絡手段としてグループに入ってしまったが最後、その『グループ』から抜け出せない。
だから少々周りから浮いてでも、未だにガラケー女子と思われている方が気が楽なのだ。
「もちろんフォローしてるよ!」
話を聞いた友人たちが目を煌めかせて食いついてくる。
「彼そんなに有名なの?」
「学内でフォローしてない人はいないんじゃないかな。直接誘われるなんて、あんた気に入られたんじゃない羨ましいー」
「な、なんだかアイドルみたいだね」
「アイドルなんかじゃないわよ!」
友人はスマホに頬ずりしながら言った。
「みちびきなの」
帰宅後、パソコンでもらったIDを検索する。フォロワー数うん万人のビッグアカウントだ。しかし私が首を傾げたのはそこではなかった。
毎日投稿されている内容は全て空白。しかしその投稿には多くの反応がある。
今日もみちびきをありがとうございます。
あなたのみちびきのおかげで生きています。
どうか自分にみちびきを。
そんな奇妙なコメントが膨大に寄せられていた。
ナイスみちびきです♡
「あ」
私は友人のアカウントを見つけ、その同じようなコメントにそっとブラウザを閉じた。
「フォローしてくれた?」
翌朝、運悪く彼に捕まるのは偶然だろうか。
「あ、ごめんね。SNS、見たけどまだなんだ。それに、あんなにフォロワーいるなら、私ひとりしなくてもいいんじゃないかな」
「どうして?」
彼とその取り巻きたちに囲まれる。私はただ冷や汗を流すだけしかできない。
「君が最後なんだよ」
私は口を必死に動かす。
「みちびき、いらないです」
それを聞いた彼は、面白そうに目を細めた。




