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人形師に問われるリアリズム

微ホラー

 それは蔵にしまい込んでいたはずのものでした。


 彼の死後、決して表に出してはいけないと言われていた桐箱入りの人形です。


 彼は名高い人形師でしたが、その人形だけは完成させずに逝ってしまいました。


 日本人形を得意としていた彼が、珍しく洋風に仕立てていたのを不思議に思ったものです。


 それは人間の赤子程度の大きさで、顔は少女のものでした。


 右から見るとうっそりとした笑みを浮かべているようで、左から見ると物憂げな表情に見えます。


 完成していない、というのはその脚が仮のものだからです。


 彼の作る人形は関節まで精巧ですが、それの足の付け根からは一本の棒が伸びているだけでした。


 なのでコツコツと床を鳴らす音を聞いた時、すぐにその正体が分かりました。


「脚を頂けませんか」


 戸を一枚隔てたところから、か細い声が響きます。


「脚を頂けませんか」


 私は困り果て、そのかわいそうな人形にひとつだけ返事をしました。



「差し上げる脚がありません」



 彼は名高い人形師でしたが、特に人間の模造を得意としていたことを思い出しました。

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