『新規熱変換システムの効率性に関するいくつかの考察』
私の住む村は北方の極地にあります。
その昔、疫病から逃げてきた人々がこの地に定着したのがこの村の始まりとされています。
一年中雪に覆われており人間が住むには厳しい環境ですが、村の中央に建つ巨大な石柱が熱を発しているのでなんとか生きることができています。
この石柱が何なのかは分かりません。村の老人たちは隕石だと言いますが、私はそうは思いません。
もしも隕石ならば、その周りにはクレーターという窪みが出来るはずです。しかし石柱の周りにはそのようなものは見当たらず、ただ暖をとるために住宅が少し離れたところから円状に並んでいるだけです。
村中を暖めるほどの熱を発しているその石柱に近づけば、じりじりと肌を炙られてしまいます。恐らく触れでもしたら一瞬で溶けてしまうでしょう。
石柱の中からは、絶えず何かが燃えるような音がします。
轟々と、そして時々、声のような音が。
村の人はそれを聞こえないふりをしているようです。
ある日、遠くの地からはるばる学者の先生がこの村を訪ねてきました。そしてしばらく調査のために村に滞在すると言うのです。
村の大人たちはあまり歓迎していませんでしたが、私は優しくて穏やかな彼のことがすぐに大好きになりました。
彼は私に石柱についていくつか質問をしましたが、私は上手く答えることができませんでした。
生まれた時からここにあって、この村が寒さをしのぐにはこの石柱が必要だということしか分からないのです。
先生の役に立ちたいと思って、私は村の大人たちに石柱について聞いて回りました。
大人たちは怪訝な顔をしました。
次の日から彼の姿が見えなくなりました。
「先生は急な予定が入って帰ってしまった」と、大人たちは言います。
けれど私はそうは思いません。
彼の荷物は残ったままでしたし、何より石柱から燃え盛る音とともに彼の声のような音が聞こえた気がしたのです。
しかしそれを確かめる術を私は持ちませんでした。
今日も私たちはこの不思議な石柱から発せられる熱に守られて生きています。
『新規熱変換システムの効率性に関するいくつかの考察』
著者不明、未完のままある北方の村に保管されていた研究論文。生命エネルギーを熱に変換する『柱』について記されている。




