背中合わせのルール
私と背後の彼。微ホラーです。
私の背後には誰かが居る。振り向いてもその姿は見えない。私の背中に貼り付くように彼の気配があり、時々ボソボソと何か喋っている。
恐らくそれは私に向けられたものではないと思う。
何を言っているのか聞こうと耳を澄ましてみても、彼の話し声は空間に反響し上手く聞き取れなかった。
何度かその気配から離れようと試みた。しかし背中が見えない紐で括り付けられているかのように一定の距離から離れられない。
どうすればいいのだろう。
私はただひたすらに、背後の彼が早く居なくなりますようにと祈り続けた。
一度だけ、明確に話しかけられたことがある。
その日彼は何故かずっと念仏のようなものを唱えていて、それが終わって彼が口を開くと、その声は奇妙なことによく聞こえた。
どうやらその彼も私と離れられなくて困っているらしい。そう言われても、私もどうすればいいのか分からない。
とりあえず私たちの間にひとつのルールができた。
それは、お風呂とトイレを覗かない。ということ。
有難かった。ずっと気になっていた事だったのだ。
背後にいる以上、プライベートな空間も共有してしまうことが酷く気掛かりだった。相手もそう思っていたらしい。
離れられないと言っても、風呂トイレの扉一枚分なら問題はない。なによりその間は一人になれるのだ。背後を気にせずリラックスできる。
それにしても、失礼なヒトだ。うら若き乙女の背後に居座るなんて。寝る間も惜しんで念仏を唱え続ける彼に言ってやりたい。
せめて顔くらい見せてよ。