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それでも好きなんで

元社畜の恋。

 たまに海からあがってくるあの人は、私の話を黙って聞いてまた海に戻っていく。海の神様に内緒で、会いに来てくれるその人は、


 私の好きなひと。


 時代に取り残されたような、けれどもとても暖かくて息がしやすいこの島に移り住んでしばらく経った。生まれてこの方都会の空気しか知らなかった私はここに来てようやく空の広さを知った。

 苦しかったのだ。毎日満員電車に揺られて。眠たかったのだ。朝から晩まで働いて。それを辛いと自覚した瞬間に、私の身体は悲鳴を上げた。

 逃げだと思われてもいい。仕事を辞めて誰も知らない場所で生きたかった。その気持ちを受け止めてくれたこの島に、島の人に感謝している。

 周りはお年寄りばかりだけれど、それなりに上手くやっていると思う。しあわせだ。


 けれど時々どうしようもなく、都会での地獄のような日々を思い出しては浜辺で泣くこともあった。そんな時に現れて、黙って隣に座ってくれたのが彼だった。


 ただ辛かったこと苦しかったことを壊れた機械のように喋る私を、叱るでもなく宥めるでもなく、ただ側にいてくれた。そして私の涙が止まる頃、どこかへふらりと消えてしまう。


 私は単純で、彼に会えると嬉しかった。彼の事を知りたくて島の人に聞いて回ると、やはりとても良い人のようで、彼を褒める言葉しか出てこなかった。


 好青年で、頭が良くて、スポーツ万能だった。


 お年寄り達が口をそろえてそう言うので、私もやっぱりそうだったのかと納得する。


 そして今日も涙を携えてあの浜辺に行くのだ。


 たまに海からあがってくるあの人は、私の話を黙って聞いてまた海に戻っていく。海の神様に内緒で会いに来てくれるその人は、


 何年か前に海で死んだ


 私の好きなひと。

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