神々を殺した神剣
そこに在ったのは生臭い血の匂いと高く積み上げられた屍。
屍の山の上に立つのは世界を照らす眩い光を放つ剣を持った青年だった。
彼はかつて願っていた、人類の安寧を。
彼はいつも求めていた、争いなき世界を。
聖なる剣を生まれ持った彼は願いのまま平和を脅かす魔族を殲滅した。
魔王を討ち滅ぼし、人類の平和を追求した。
神々は彼を祝福し、剣を与え、彼に権能を授けた。
彼は世界の均衡を保つ護り手として世界を見守るようになった。
人々は彼を勇者と称え、崇め奉った。
その勇者はこの平和が永遠に続くように努力した。
しかし、長くは続かなかった。
数百年の時が過ぎ、人類は勇者の功績を忘れ、また存在さえも忘れていった。
忘れられても、人々が幸せならばそれで良い。
そう考えていた彼に神々はとある命令を下した。
命令はとても簡潔で単純明快なものだった。
それは人類の殲滅。
数百年の平和で人類は莫大に数を増やし、世界の容量を遂に超えようとしていたのだ。
また、人類は同種間でさえ争い、欺き、殺し合った。
そんな人類に神々が下した運命は「滅亡」
人類を滅ぼし、新たな種族を創り出そうと考えたのだ。
彼は命令に背いた。人を殺すことを拒み、街を壊すことを嫌った。
神々は彼が従わないことが分かると自らの手で殲滅を開始した。
時には天使を送り込み、時には災害を起こした。
彼は人々が死んでいくことが耐え難かった。神々を何度説得しても相手にはされなかった。だが、今も何千もの人が殺されている。
遂に彼はとある決意をした。
「人類の守護者である俺が彼らを守らなくてはならない。」
人類救済を掲げ、彼は神を全て殺した。
神より授かった神剣をつかって。
何年もかけ神が全て一掃され、人類に平穏が訪れる…はずだった。
神の剣は殺した神の力を蓄積し、さらに強力なものへと生まれ変わっていた。
また、神が死んだことにより剣にかけられていた全てのリミッターが外れてしまった。
剣は最初に比べ数万倍の出力をたたき出し始めた。
神との戦いで傷つき、疲弊した彼には最早その剣を制御することは出来なかった。
彼の体を乗っ取り、溢れ返った力を全て解放した剣はその切先を人類へと向けた。
一振で雲を薙ぎ、突き刺せば大陸が引き裂けるその力に人類は為す術なく消えていった。
全てが終わりを迎えた世界で彼は我に返った。
己が手で救ったものを己が手で滅ぼした。
この事実は彼に絶望をもたらした。
彼は残された権能全てを使い、大地を再生し人類を再び創造した。
そして神剣と自分を神剣自体の権能で封印した。
彼は人類の再興と自分が殺した人類への贖罪を願い、永く深い眠りに着いたのだった。