酸の雨
燕が一羽、頭上を低く飛んだ。
あぁ雨が降るのだ、と私は思った。
膚にじっとりとした、重たい空気が纏わりついた。
やはり雨が降るのだ、と私は思った。
鼻の奥を、湿った土の香りが抜けてゆく。
きっと雨が降るのだ、と私は思った。
これほどに感じる雨の気配に、傘も持たずに闊歩する。
傘持ち道行く人々の目を、私は気にぜず歩いてゆく。
雨よ、降るなら降りたまえ。
惨めな私をその濁った雨で、溶かして無くしてみせるがいい。
思えばなんと、相応しい光景だろうか。
ぽつりと一滴の雨粒が、愚かな私の頬を濡らした。