VⅣ 救援(遊び人視点)
怪魔と呼ばれる存在がいる。
強靭な肉体を持ち、腕力が高く、様々な術を使いながら人を嬲る悪魔だ。
俺は怪魔が異常発生したという森に向かった。旅歩きの護身用にしている長剣を腰に据えて、近くの町で情報をかき集めてから、すぐ移動する。
……そこの聖騎士の人に聞いた。メルゼルタが怪魔に捕まったって。
メルーちゃんたちが救援に行った後も、結構被害出たって噂が流れてきてさ。何か、嫌な予感したんだよね。
この前久しぶりに"不運"に追い回されたせいか、若干警戒心みたいなもの? が、強くなってる気がする。油断してざくっと利き腕切られて、トラウマも蘇った。メルーちゃんに締め上げられた時に、代罰を恐れて防御本能出した俺が馬鹿なんだが。
怪魔は肉体だけじゃなく、精神もぶっ壊してくる。嗜虐趣味っていうか、何故か弱いものをいたぶるのが好きらしい。怪魔に連れてかれて行方不明って人は、助けられた頃には心を病んでいることが多い。
……逆にいえば、捕らわれても生きてる可能性は高いってこと。だから怪魔の捕虜になった人の救出活動はよく行われる。
けど、助けるために頑張りすぎると、ミイラ取りがミイラになるって感じに、次々と新しい捕虜出てきちゃうからね。ある程度のところで救出活動は打ち切りにされてしまう。助け出してもらえなかった人は本当に可哀想だが、二次被害を抑えるためには仕方がないことだ。
……本当はね。
今のところ、聖騎士の部隊もまだ捕虜の捜索をしてるらしい。メルーちゃんは二次被害に巻き込まれたってこと。見つかってくれてるといいけど。
もしそうじゃないなら。
メルゼルタは今、地獄を見ている。
日が沈んで、夜になっても、俺は町に引き返さなかった。歩きながら干し肉を噛み、水を喉に流し込み、足を止めるのは仮眠をとる時だけ。
怪魔が異常発生したという場所は、思ったより広い。怪魔には時々遭遇するが、言うほど多いか? ってくらい、不気味なほど静かだ。
ここは"神域"に指定されてないから、怪魔もたまたま人里近くにたくさん現れた、ってことなのかもしれない。
捕虜を探すにはポイントがある。怪魔はいたぶって遊ぶのが趣味だから、だいたい人間や他の怪魔に邪魔されない、廃墟や洞穴の奥といった巣穴に隠していることが多い。
町で手に入れた地図にバツ印を書き込みながら、怪魔の巣が作られやすい場所を、しらみつぶしに見ていく。
特に、サキュバスの巣穴とオークの巣穴が怪しい。サキュバスは男専門だが、たまーに女捕らえることがある。オークはどっちも捕らえるが、女が多い。ラミアは子供しか捕まえないから除外。
……けど、キリないな。聖騎士のグループでも難航している捜索が、俺一人でできるか?
結局、俺はただの……。
いや。できんじゃん。ひとつだけ。
見つける可能性高める方法。
……能力、使うか?
けど、渋ってしまう自分がいる。反動があまりにも危険だからだ。
……おいおい、スロス。躊躇ってるのか?
スロスはメルゼルタのように、自分の身をかけて大切な人を救おうとしない、臆病者か?
自分のためには使ったくせに、人を助けるためには使わないのか?
……ああ。俺は臆病だ。
臆病者で、見栄っ張りで、覚悟もテキトーだ。
もう二度と使わないつもりだったのに。
けど、今苦しんでいるのは誰だ?
愛しいメルーちゃんだろ?
俺は、どこまで逃げるつもりだ?
……よし。前向きに考えろ、前向きに!!
俺が無事メルーちゃんを救出したら、「素敵! 抱いて!」と言ってくれる。お父さんに「是非娘をもらってください」と言われて、めでたくゴールイン。メルーちゃんといちゃいちゃらぶらぶしておっぱいお触り自由で、「子供いっぱい作ろ?」と、めっちゃズコバコできる。
うん、いい♪♪♪
……現実味がない。
いや、それでも!
可能性がないわけじゃないよな、うん!
足を止めて、ゆっくりと目を閉じる。
邪な妄想を瞼の裏に浮かべて、胸に手を当てて。
×××勃たせながら、己の中の力を発動する。
メルゼルタ。俺の愛する女神様。
俺が助けるから。必ず助けるから。
無事でいてくれ……頼む。
シリアスな空気を台無しにするスタイル。