ⅩⅢ_流浪
ストック、ラスト。
……不可思議な関係性。
モダの「敵とは限らない」という言葉の意味を、今は少し、分かってしまっている。
シニガミは俺が好くものを嫌わない。
俺の友情に、恋心に、敬意に、共感する。
……壊す対象としての「好き」だろうけど。
俺の本音を読んで、孤独な俺の傍に寄って、俺にいつでも"憑きまとう"。
俺の大事なものを奪ってく大嫌いな相手が、一番の理解者とか。最悪な皮肉だ。
『スロス。誰も恨まないでね』
モダはいなくなる前に、俺のところに来た。
挨拶参りのように。
命を落とすことを告げに。
モダから詳しい事情は聞き出せなかった。ただ、神様たちが協議をして決めたことだって、あとになってから知った。人の"信仰"を維持するために、モダを地獄の果てに落として見殺すと。ガイウス師匠も。フェリスさんまで。
モダは誰にでも優しい。優しすぎたんだ。自己犠牲的なことまで引き受けてしまう。
幸運をあげようとしても、モダは光の武器を出して、俺を近づけさせなかった。
『……モダちゃん。それしまってよ。俺なら助けられるから』
『スロスに負担をかけるわけにはいかない。ボクが"神殺しの怪魔"の生贄になることで、何万人もの命が助かる。これはボクが選んだこと。ボクがやらないとダメなんだ』
『……』
『スロスは、"人に裏切られるのは当たり前"って言い切る割には感情的だ。好きな人を傷つけられたら、狂ったように怒るから』
『……。だから、わざわざ俺にこんなこと伝えに来たの?』
『スロスは人を信じないけど、人のことは大好きなんだって。いつも感じていた。ボクのこともめげずに愛してくれていた……ボク自身も、最後に会いたいなって、思ったから』
『……』
『君は悪くない。誰も悪くない。ボクも悪いわけではない。スロスは、ずっとそのままのスロスでいて』
『……』
『あと、もう一つ。発言が矛盾していて、簡単じゃないことはわかっているけど……君の不運とは、仲良くして欲しい』
『あいつと仲良く? モダ、何言って……?』
『"神殺しの怪魔"でも、シニガミは君の敵じゃない。また彼に会ったら、よろしくね』
……俺は、最低だろうか?
大切な人の危うい選択を、全力で止めようとしなかった。
モダを利用した神々の判断を未だに許せない。
神殺しの怪魔への恨みは強い。
俺のクソ怪魔と仲良くするとか絶対無理。
なのに。俺は神界から離れ、何をしようともしないで、ふらふらしてる。
モダが最後に言ってくれた言葉を、半分も守れていない。
……生き甲斐を失った。
夢を捨てて、復讐の道も捨てた。
俺には何も残っていないんだ。
「あは♪ スロス今、モダ=イリスのことを考えていたね?」
「……」
「あいつ時々うざくてムカつく奴だったけど、最後に面白いことをしたよ♪ スロスに希望も絶望もない、虚無を与えたんだ♪」
「……黙れ」
「結局モダのせいじゃん、全部。お前がデタラメな旅をして、中途半端すぎる恋をして、俺と遊ぶだけになっているのはモダのせい。そうでしょ?」
「違う!」
モダのせいじゃない。
モダは何も悪くない。
全部、優柔不断だった俺が悪いんだ。
「想像すると笑える♪ もしお前が殺戮のダークヒーローになってたら、俺は正義の味方になってたね♪」
「は?」
「だって、俺はスロスの"不運"だから♪ お前の野望潰すために奮闘してたよ、絶対♪」
「……」
「俺は何しろって言わないよ? 夢を追えとも復讐しろとも言わない。スロスが選んだ道を邪魔するだけ。スロスの好きにすればいい♪」
……モダは、ただ。俺に辛い思いをして欲しくなかっただけなんだろう。夢を見て苦しまないように。報復を目指して苦しまないように。
残酷なほどに、優しい人だったから。
「さてさて? 昔話は花を咲かせると長いからさ? そろそろ遊ぼうよ、スロス♪」
"遊ぼう"という言葉に反応して、ラティロとマイフがさっと戦闘モードになる。
「……。そうだな。過去のことは過去だ」
「お、珍しく意見が一致した♪」
シニガミはけらけらと笑って、柄の長い大鎌をぶんと振るった。
俺も握っている武器の感触を確認する。
右手に剣を。左手に鎖つきのナイフを。
がっと地を蹴って。シニガミが飛びかかってくる前に、俺から奴に向かって走り出した。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
この「流浪の遊び人」は電撃大賞で一次落選したものなのですが、多くの方から良い評価をたくさんいただくことができまして、報われた気持ちでいっぱいでした。
はい、何ですか?
これをよくあの大手に出したなって?
ふっ、そう思うのも当然だろう。
あの時の紅山は血迷っていたのだから!!
(何も弁解できていない)
ストックつきたら不定期にしようかと思っていましたが、折角きりがいいので一旦ここで綴じることにいたします。私の都合で申し訳ありませんが、今のうちに「流浪の遊び人」に区切りをつけておきたいのです。もうひとつの連載に力を注ぎたいのと、またもうひとつ公募に出すための作品を手がけ始めたので、そちらに集中するためです。
遺跡荒らしのヒロインとあんなことこんなことする話とか、マイフと初対面した時の話とか、ラティロの性癖が全力で暴露される話とか、死神のスロス愛がぶっとびすぎてる話とか、色々掘り下げたいことは山ほどあるので、次のストーリーがきっちりまとまるまでお待ち頂きたく思います。それまでこの小説を、スロスたちのことを、頭の小さな隙間に置いて、忘れないでいただけたら幸いです。
それでは、またお会いしましょう!




