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流浪の遊び人 *王道少年漫画風・お下劣ファンタジー*  作者: 紅山 槙
虚無の天使は遊び人と契らない愛を交わす(全13話)
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Ⅷ_代償


 帰って自分の部屋のものを片づけてたら、モダから連絡があった。懐から着信を示す熱を感じて、神術の使われた通信道具"声話(せいわ)"を作動させる。

「今仕事が終わったから、これから向かう」という声を聞いて、「オッケー♪ 待ってるよ」と返事をした。


 声話は師匠からの指示をいつでも受けられるように携帯しているんだが、対話したい相手とあまり離れ過ぎてしまうと、圏外になって使えなくなる。すぐ連絡ができるっていう便利さはある分、人間界だと繋がらないことも多いんだよね。ないならないで困るけど。一応、半径百八十キロ以内が、問題なく通話できる範囲だ。


 掃除を完了したら、シャワーも浴びておく。ちょうど終えた頃にモダがやってきて、髪から雫を垂らしながら、部屋に引き入れた。


 トイレとシャワー室は野外の戸建てで、十歩で部屋を一周できちゃうくらい狭い部屋。少し広めのベットがそのほとんどを支配してる。


 俺が借りている拠点は、師匠の"神殿"よりだいぶ離れている。神殿は神様が住む家であり、職場だ。神界で神殿がある町ってのはだいたい都会だから、家賃が安いところを求めたら、自然とこうなった。


 ホントは神様候補の人たちが集まる寮もあるんだけどね。俺もぴかぴかの神様候補新年生の時は入寮してたけど、数日でそこを出た。シニガミによる騒ぎが口伝いに広がって、誰も近づいて来なくなったからだ。


 集団の中でぼっちになるくらいなら、ぼっちを選んで暮らす方が精神的ダメージも少ない。最初から一人暮らしを選べばよかったなと思う。


 いや、モダちゃんに言われたんだ。「長く一人で居続けると病気になるよ」って。だからそう答えた。


 ……本当はもう一つ大きい理由がある。

集団生活ならではのデメリット。迂闊に女の子連れ込めないからさ♪


「孤独を感じているなら、まずは女癖を直した方がいいと思う」


 モダの言葉に、髪を拭きながらびくっとする。まだそのことは口にしてないのに。真実の理由を読まれたっぽい。


「……寮以外なら話し相手ゼロってわけじゃなかったんだけどね。俺はナンパのスペシャリストとして、恋に悩む男の先生役やってたからさ♪」


 シニガミを恐れて俺を避ける人ばっかりなのに、まだ俺に話しかけてくれる人は一部いる。実際の関係としては知り合い以上友達未満くらい。馴染みのクライアントとアドバイザーみたいな距離感。俺にとっては貴重な、神界における雑談の相手だったりする。


「類は変態を呼んでいそうだ……スロスは幸運の神様より、恋愛成就の神様の方が向いているんじゃないかな?」


「俺も思ってた♪ けど、愛神ティレムは『わたくしの半径百メートル以内に近よらないで頂戴! 最悪の色欲魔!』って言って、入門許してくれなかったの」


「それは当たり前だね。スロスからは一途さが微塵も感じられないから」


「一途の愛って諸刃の剣だよ? 相手を苦しめることもあれば、身を滅ぼすこともあるからさ♪」


「だからって何股もするのはよくない。人間性を疑うよ」


怪魔憑きかつ女食らい。俺は二重の意味でちょっとした有名人かもしれない。どっちも悪い評判だ。


「……ボクも体を清めてくる」


 モダちゃんは裏手のシャワー室に向かって行った。しばらくすると、窓の外からじゃばじゃばじゃばと、シャワーとはまた違う水の音が聞こえ始める。


 モダが浴びているのは持参した"滌水(てきみず)"だろう。少し飲んだり浴びたりするだけで、汚れを綺麗にできちゃうっていう魔法の水。

神界ではデトックス目的で買う女性も多いけど、俺は熱で温めた水を浴びる方が気分としても落ち着く。長い目で見れば、神術を使わない方が安上がりだし。滌水は急いでる時くらいしか使わない。


 俺は結構人間界行ってるから、神術の乏しい生活にも慣れてるけど、モダは苦手だろうな。原始的な生活っていうのはさ。


 滌水は便利だが、体を洗うためだけ二リットル近い水を持ち歩くのはちょっとね。飲むと少し体の調子はよくなるけど、解毒作用があるわけじゃないし。元々汚れ落としのための水だからか、飲みすぎると死ぬらしい。


 ……モダは一体何処から滌水を取り出したのか? それは能力のおかげだ。"ものを連れる"力で、モダは空間からいきなり何かを出現させることができる。時間制限とか、しまえるものに限度はあるらしいんだけど。利便性のある荷物入れ代わりにしているらしい。復活の短剣といった貴重な道具をを持ち歩けるのも、ひったくりや置き引きに奪われる心配がないからだろう。


 つまり、モダの光の武器は後づけじゃない、モダ自身の力だ。能力をもらえるということは、れっきとした"神界人"ということ。例え怪物でも。


 ……そう考えると、シニガミも。あいつも後づけなのかもしれない。

俺はあいつを自分の分身だと思ってるけど、実際は"幸運を操る"力の代償だ。もう一人の自分でありながら、『俺』ではない。鏡に映った自分が自分自身ではないみたいに。モダも俺とシニガミを区別している。


 他人が自分のことをを知ってくれないことは当然ありえることだけど、自分が自分をを百パーセント知ってるってのもあり得ないだろう。自分の知らない自分みたいな、きっと未知の部分があると思う。




スロスはあれです。

万人には好かれないタイプです。

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